ケアマネのための身守り講座 VOL.5
「もしかして虐待?」その時、どうする?
日本ケアマネジメント学会副理事長で、ケアマネジャーとしても20年近くのキャリアを持つ白木裕子先生が、ハラスメントの発生を防ぎ、いざという時に身を守るための術を伝授する「ケアマネのための身守り講座」。今回は、番外編として、虐待が疑われるケースを目にした場合の対応についてお送りします。
ケアマネの場合、「虐待?」と疑われる状況を自分で見つけることは、あまりないでしょう。ヘルパーやデイサービスの職員から「頭に傷とあざを確認した」とか「手首に強くつかんだ跡があった」「高齢者を大声で叱責していた」といった連絡を受けることの方が多いと思います。
ポイント1-固定観念を捨てて事実と背景の確認を
こうした情報を得たら、まず事実を確認する必要があります。その際、気を付けるべきは、「介護者を問い詰めるような聞き方をしない」ということ。言い換えるなら、「虐待をしているから悪い人、虐待されている利用者はかわいそう」などという固定観念で介護者と向き合ってはいけない、ということです。
当たり前のことですが、あざができていたり、大声で叱責したりする場面を見たからといって、虐待があると断定できるわけではありません。例えば、転びそうになった利用者の手を握った結果、あざができることもあります。転落しそうになったり、やけどしそうになったりしている要介護者の動きを止めるため、激しい口調で大声を上げることもあり得ます。
それでも、どう考えても虐待以外につじつまが合わない状況に出くわすこともあるでしょう。その場合でも、「介護者を問い詰めるような聞き方をしない」という姿勢は厳守すべきです。「なぜ虐待をしたのか」ではなく、「虐待せざるを得ないほど、追い詰められている背景や理由は何か」という意識で介護者と向き合うべきなのです。
認知症の利用者の中には、排泄介助を拒絶したり、目を離すこともできないほど激しく徘徊したりする人もいます。認知症でなくても、排泄の失敗を隠そうと、汚れたおむつをタンスに隠してしまう人もいます。そうした利用者を一番近くで支えなければならない介護者は、常に大きなストレスにさらされているのです。それだけに、ストレスの大きさに耐えかねた介護者が、利用者に手を挙げてしまったり、暴言を投げつけたりしてしまうという事態は、在宅の現場では、決して珍しいことではありません。
ポイント2-「安全確保」と「ストレス対策」を同時並行で
虐待を確認した場合は、必要に応じて利用者の身の安全を確保する対策を検討しましょう。具体的にはショートステイなどを利用が考えられます。しかし、それだけでは本質的な解決にはつながりません。同時並行で、虐待に走ってしまった介護者に、ストレスを発散させるよう、うまく促していく必要があります。
具体的には、利用者がデイサービスやショートステイに行っている間を利用し、家族の会や認知症カフェへの参加を勧めるなどの工夫が考えられます。また、介護者がしっかり休めるよう、定期的にショートステイや小規模多機能型居宅介護を使ってもらうことを勧めるのも有効です。
ただし、全く別の対応が求められるケースもあります。「ごはんを食べさせてもらえていない」や「排泄のケアをしてもらえていない」など、介護放棄が疑われるケースです。この場合は、地域包括支援センターなどに連絡し、即応しなければなりません。
ポイント3-ネガティブな変化ばかり伝えない
介護者に接する際、もう一つ注意すべきポイントとして、ネガティブな情報を伝え過ぎないことが挙げられます。例えば、ケアマネやデイサービスの関係者から、「今日も排泄を失敗していました」「また食事中に服を汚してしまいました」など、利用者のネガティブな変化ばかり伝えられると、介護者は自分の対応が十分でないと責められているように感じるかもしれません。
もちろん、どうしても伝えなければならない事柄は、きちんと伝えなければなりません。しかし、日々の生活での小さな失敗を、いちいち連絡する必要はありません。
それから、介護者が愚痴を言ってきた時は、しっかり耳を傾けましょう。つらい思いを吐き出している介護者にきちんと寄り添い、「よく頑張っているね、でも頑張りすぎないで!」と支えてください。逆に「みんな苦労しています。ここは、がんばりましょう!」などと一般論を押し付け、無理に励ますのはNGです。
- 白木 裕子 氏のご紹介
- 株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。
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