ケアマネを支える先進自治体 VOL.28
【豊田市】「身寄りがない市民」の意思決定を三位一体でサポート(後編)
愛知県豊田市に関して注目すべきなのは自動車産業だけではありません。2022年度から、厚生労働省「持続可能な権利擁護支援モデル事業」の一環として、「豊田市地域生活意思決定支援事業」が試行運用されているからです。ケアマネジャーの立場からも参考になる同事業の狙いや成果について、豊田市役所の安藤亨さん、社会福祉法人旭会の三井克哉さんに伺いました。
写真左から:三井克哉(みつい・かつや)さん(社会福祉法人旭会 特別養護老人ホーム アメニティ豊田駅前 施設長/社会福祉士・介護福祉士・介護支援専門員)
安藤 亨(あんどう・とおる)さん(豊田市役所 福祉部 福祉総合相談課 権利擁護支援担当長)
専門職とは違った視点から見えてくるもの
―前編で本事業の対象となった利用者さんのエピソードを紹介いただきましたが、ほかにフォロワーさんとの関わりの中で対象者に変化がみられた部分はありますか。
三井:同じ利用者さんの話で、膝掛けをめぐる一件がありました。この方がお気に入りの膝掛けをどこかに紛失してしまったので、施設スタッフが代わりの膝掛けを用意したのですが、これはお気に召さないと言う。しかし、施設スタッフにはそのこだわりの理由が分からなかったんです。
そこでフォロワーさんが丁寧に話を聞いていくうちに、ただの膝掛けではなく、あるキャラクターが入った膝掛けであったことが本人にとって大事だったのだと分かりました。ところが、そのキャラクター入りの膝掛けは市販されていない景品用で、あらためての入手は困難。どうしようかと困っていたのですが、たまたま施設スタッフが色違いの膝掛けを持っていて、快く提供してくれました。利用者さんはとても気に入ってくださいましたね。利用者さんへの思いもさることながら、フォロワーさんが熱心に関わる様子を見て、施設スタッフの心が動かされたのではないかと思っています。
―フォロワーさんが施設スタッフとは違った立場や目線で利用者さんと関わってくれることで、ハッピーエンドを迎えた事例だといえそうですね。
三井:まさにそうですね。施設スタッフは、一人ひとりとじっくり関わる時間をなかなかとれないという事情もありますが、それ以外にも専門職としての知識や技術があるだけに、その「常識」からはみ出た関わり方が難しくなっている側面もあると思います。同じようなことは、もしかしたらケアマネジャーさんにもあるかもしれません。
しかし、専門職とは違った視点でフォロワーさんが関わってくれることで、対象の方の多面的な理解が進むわけです。おそらく施設スタッフのみでは、「あの膝掛け」にはたどり着けなかったのではないでしょうか。
「豊田市地域生活意思決定支援事業」の今後に期待!
―先ほどからお話に出ている「とよた意思決定フォロワー」について伺います。これはどういった方が、どのような過程を経て務めているのでしょうか。
安藤:現在のところ、フォロワーを務めてくださっている方は、市民後見人の研修修了者です。したがって、福祉制度や意思決定支援について一定の知識を備えています。このフォロワーさんが対象者のもとを定期的に(月2回程度)訪問し、その方が自分らしい生活を送れるよう意思決定の支援をしています。
本事業の全体的な調整や監督を担う「豊田市権利擁護支援委員会」は、対象者とフォロワーさんのマッチングにも気を配っていて、例えば同姓の方がいいかとか、同世代の方がいいかとか、本人に希望を聞いた上でお願いをしています。
―フォロワーさんの人数は今後も増やしていく予定でしょうか。
安藤:現在は試行運用の段階ということもあり、フォロワーさんの人数は市の方からお声がけした数人にとどまっています。今後は、10~11月でフォロワー養成の講座を実施します。実際に40名を超える応募者が集まっているので、今後の展開に期待というところだと思います。
ただ、フォロワー養成といっても、専門知識を身に付けてもらうことを重視するのでは「プチ専門職」が生まれるだけです。そうではなく、先ほど言ったように「専門職とは違った市民の視点」というところを大事にする養成プログラムを考えています。例えば、ロールプレイで「決め付けられる体験」をしてもらい、自分の意思決定がまったく尊重されない立場を疑似体験してみる、などです。
三井:私自身も専門職の立場ですが、どうしても発想がケアマネジメント、つまりこちらが対象者の抱える課題を解決してあげるという構図になりがちなんです。悪くいえば価値観の押し付けになりかねません。
しかし、フォロワーさんの姿を見て、もっと本人主体の関わりの中から「本当にやりたいこと」を見つけ、その実現を後押しすることの大切さを勉強させてもらいました。もちろん、専門職には専門職の立場があり、やるべきことがあるので、すべからくフォロワーさんのように振る舞うべしとはいえませんが、そうした支援の視点も頭に入れておくことは、ケアマネジャーさんにとっても有益なのではないでしょうか。
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