ケアマネを支える先進自治体 VOL.19
【世田谷区】ケアマネこそ理解し、受け止めてほしいLGBTQ(前編)
LGBTQ。「性的マイノリティ」といわれる人の総称です。近年、各地の自治体は、その支援に本腰を入れ始めていますが、他に先駆けて支援に乗り出していたのが東京都世田谷区です。その世田谷区の人権・男女共同参画課の平田根久係長は「ケアマネジャーこそ、性の多様性やLGBTQへの理解を深めてほしい」と力を込めます。平田係長にお話しをうかがいました。
世田谷区 生活文化政策部 人権・男女共同参画課
人権・男女共同参画担当係長 平田根久さん
「体」より「心」の性を重視する
―まず、性の多様性の基本について、改めて教えてください。
性には、「体の性」と「自認する性」「好きになる性」「表現する性」があります。それぞれの特徴は次の通りです。
体の性 | 体のつくり、特徴など |
---|---|
自認する性 | 自分の性別をどのようにとらえているか(性自認) |
好きになる性 | どの性別の人を好きになるか(性的指向) |
表現する性 | どのような服装、振る舞い、言葉遣いをするか(性表現) |
数が多いのは、「体の性」と「自認する性」「表現する性」が一致し、「好きになる性」が異性である人です。
そして、多数派とは違うパターンの人が、いわゆるLGBTQと呼ばれる人なのです。例えば「T」のトランスジェンダーとは「体の性」と「自認する性」が一致しない人です。ちなみにトランスジェンダーの人は社会生活を送る上での悩みは大きいですね。誰もが使うことを想定して設置されている公衆トイレや公衆浴場、更衣室などを「使いたくない、使えない」と思ってしまうわけですから。
また、「Q」とは性のあり方の決めない人、あるいは決められない人のこと。男性にも女性にも興味がわかない人、自分の性別がわからない人、表現したくない人などが含まれます。
最近は「体の性」より、「自認する性」や「表現する性」など、気持ちとしての性を尊重したほうがよいと考え方が主流になりつつあります。ただ、残念なことに、高齢者の間では、その事実を知らない人も少なくない。そもそも、性が多様であることを十分に認識されていない方も多いようです。
LGBTQは個性の一つ
―すると急がれるのは、こうした知識を高齢者に普及することでしょうか。
そうですね。確かに性の多様性やLGBTQについて、多くの人に知ってほしいとは思っていますが…。その前に、意識してほしいことがあります。LGBTQの当事者の気持ちです。
―というと?
当事者は、「LGBTQについて、正しい知識を勉強する」という姿勢そのものに、複雑な思いを抱いているのです。「勉強しないと理解してもらえないのか」「私たちに関する正しい知識とは、いったい、何のこと?」と、感じているのです。
だから私は研修などでは「知識を身につけることも大切ですが、まずはLGBTQに関する固定概念や誤解を解き、フラットな意識でLGBTQの方と向き合ってほしい」と伝えています。
―なるほど!貴区が他自治体に先駆けて取り組んできたLGBTQに関する取り組みは、固定概念や誤解を解き、LGBTQを当たり前の存在として受け入れていくことを目指す取り組みだったわけですね。
まさにその通りです。端的に言えば、LGBTQというのは個性の一つであるということです。2013年に区の基本構想に「個人を尊重し、人と人のつながりを大切にする」と盛り込んで以降、私たちが目指してきたのは、LGBTQを個性の一つとして、誰もが当たり前に受け入れる社会の実現なのです。
全国に先駆けて「パートナーシップ宣誓制度」などを導入
―そういえば2015年、貴区が渋谷区とともに「パートナーシップ宣誓制度」を導入されたときは、大きな話題となりました。
「LGBTQなどを含む2人のカップルが、互いを人生のパートナーとし、日常生活において相互に協力し合う関係であることを宣誓し、行政が両者に証明書(パートナーシップ宣誓書受領証)を交付する」というのがこの制度の概要です。渋谷区とともに日本初の取り組みでしたから、話題性もあったのでしょう。
それ以外でも、区営住宅に同性カップルが家族として入居できるようにしたり、国民健康保険被保険者の同性パートナーへの傷病手当金相当額を支給したり、災害が理由で亡くなった同性パートナーへの弔慰金を支給したりもしています。
傷病手当相当額や弔慰金は本来、国・都道府県・市区町村が一定の割合で負担しあい、支給するものです。ただ、現在の法律では、国も都道府県も、そうした支給をすることはできません。ですので、世田谷区では、国・都道府県が負担している分を肩代わりし、同性パートナーであっても、異性パートナー(法律婚・事実婚)の場合と同額の支給を実現しています。
さらに「性的マイノリティのための居場所事業」や「電話相談」、「支援者養成講座」「学校出前講座」なども実施しています。電話相談は当事者だけでなく、関係する人であれば、誰でも利用できます。居場所事業では当事者のほか、支援者らも集える場として定期開催しています。
―それにしても、なぜ世田谷区ではLGBTQに関する取り組みが早い段階から充実していたのでしょうか。
保坂展人区長が人権問題を重視していることが大きいですね。保坂区長は、衆議院議員だったころ、国会議員としてはじめてレインボーパレードに参加するなど、少数派への支援に力を入れていましたから。また、上川あや区議が当事者として、この問題への対応に力を注がれていることも推進力になっています。
介護・医療に特化した理解促進が必要な理由
―ところで平田係長は今年6月の日本ケアマネジメント学会に参加された際、「介護現場や医療現場に特化した性的マイノリティ理解促進が必要」と指摘されていました。なぜ、介護や医療の現場に特化した理解促進が必要なのでしょうか。
介護や医療の関係者は、高齢者と接する機会が多いからです。既に述べた通り、高齢者には、性が多様であることを十分に認識されていない方も多いようです。なにしろ「男らしさや女らしさ」という、固定概念を大切にしながら、男女別の教室で、別の科目を受けされられた世代ですからね。やむを得ない側面もあります。だが、やむを得ないとばかりも言っていられません。高齢者にだって、性的マイノリティはいるのですから。
―今の高齢者が現役世代だったころには、性の多様性に関することが社会問題化することは、ほとんどなかったように記憶していますが…。
それは、単に問題として意識されなかっただけです。世代年代に関わらず、いつの時代にも性的マイノリティの方はいたと思われますから。
むしろ、意識されなかったことこそが深刻な問題です。
なにしろ、ほんの20年ほど前まで、日本では性的マイノリティを差別する風潮が主流だったのです。自分が性的マイノリティであることをオープンにしたら、場合によっては、学校でいじめられ、職を失い、結婚だってできないような社会だったのです。そんな環境で生きざるを得なかった高齢の性的マイノリティは、常に自分を押し殺し続けてきました。
高齢の性的マイノリティと向き合う機会が多い医療関係者や介護従事者は、その事実を理解してほしいのです。その上で、LGBTQを個性と受け止め、フラットに向き合ってほしいのです。
特に、介護保険の要であり、在宅生活を支えるプロであるケアマネは、高齢者に対し、社会がLGBTQを個性として受け入れることができるほど成熟したことを伝えてほしいですね。もっとも伝える、といっても難しく考える必要はありません。まずはケアマネジャーであるあなたが、LGBTQをその人の個性であると受け止めてくれればよいのです。ご利用者を尊重し、真の信頼を得る上でも、その姿勢は不可欠なのではないでしょうか。
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