ケアマネを支える先進自治体 VOL.9
【石巻市】震災からの再構築、ケアマネと医師を軸とした医療介護連携(前編)
宮城県石巻市。10年前、東日本大震災がもたらした震度6強の揺れと8.6メートルを超える津波で3,000人を超える死者が出た街です。この街では、震災後、市・ケアマネジャー・医師を軸とした在宅医療・介護連携を推進してきました。その取り組みの原動力となった石巻市包括ケアセンターの元所長・長純一氏らにお話しをお伺いしました。
写真右から:
居宅介護支援事業所 主任ケアマネジャー(震災時は地域包括支援センター勤務)・江藤美智子さん
元石巻市包括ケアセンター 所長・開成仮診療所 元所長・長純一さん
石巻市包括ケアセンター 保健師・大須美律子さん
避難所などで実感した連携構築の必要性
長:私が初めて石巻市に来たのは、3.11から1カ月半ほど経ったころ。4泊5日の日程で、長野県の医療団の一員として支援に入りました。
長野県では、佐久総合病院から村の診療所に派遣され「地域包括ケア」の実践などに取り組んでいました。さらに、阪神淡路大震災で活躍された故・黒田裕子さんが代表を務めた団体の世話人として仮設住宅の継続支援を行った経験もあり、県の医療団への参加を志願したのです。
石巻市内の避難所をまわり、市内の関係者とも連携するうちに感じたのは「この街では、医療は比較的早く復旧するだろう。だが医療・介護連携の構築には課題が多く、時間がかかるのではないか」ということでした。さらに言うなら、一医師として患者と向き合うことはもちろん重要だが、それ以上に、医療連携のための仕組みづくりや、被災者支援の仕組みづくりに高齢者ケアや介護予防の知見を入れるため行政に関わることが重要と考えました。
ただ、私は発災直後の混乱と、その混乱の中で被災者を支え続けた医療・介護関係者の活動は知ってはいますが、直接関わったわけではありません。
「やれることをやる」だけだった発災直後
江藤:発災直後は「とにかく、やれることをやっていく」。ただ、それだけでした。というより、やらなければいけないことが多すぎて、どこから対応していったらいいのか分からないというのが本当のところだったかもしれません。
大須:ケアマネさんは、自分の担当している利用者がどこの避難所に行ってしまったかわからない。安否すらもわからない。そもそも、当初はどこが避難所になっているかすらもわからない状況だったと思います。自分の担当の要介護者がどこにいるのか。生きているのか、死んでいるのか―。公民館や学校、体育館を訪ね歩くケアマネも少なくありませんでした。
江藤:ようやく見つけた要介護者は、避難所になっている学校で、机を並べた「ベッド」の上で寝ていた、なんてこともありました。
大須:とにかくあの時は、ケアマネだから、地域包括の職員だから、保健師だから、ということは関係なかった。現場で問題がある人を見つけた関係者は、役職や立場に関係なく、必要なところにつないでいました。ケアマネから別のケアマネに利用者がどこにいるかを連絡することもありましたし、保健師が避難所で得た情報をケアマネに伝えたこともありました。
ケアマネや医師が把握する課題や情報を復興計画に生かしたい
長:阪神淡路大震災があったころには、介護保険や地域包括やケアマネは無かったのに対し、東日本大震災ではその仕組みがあったことは、被災した高齢者の状況を把握し、支える上でとても有益でした。
一方、高齢者を支える仕組みが災害弱者を支える仕組みとして利用されることで、現場が大変になるだけでなく、かえって災害弱者の支援を専門職支援の問題に矮小化してしまう危険性を考え、行政の被災者支援や復興計画に現場の視点を反映させることが重要と考えました。
そこで私は、2012年、押しかける形で石巻に行き、開成仮設診療所の所長を任せてもらったのです。
開成仮設診療所というのは、津波で被災した石巻市立病院の仮診療所です。開院前から厚生労働省の在宅医療連携拠点モデルに選定され、約2,000戸の仮設住宅が並ぶ地区に設置されました。この診療所での活動や発信が認められ、2013年8月には市の包括ケアセンターを任されました。医師会や仮設住宅自治連合推進会などが参加した石巻市地域包括ケア推進協議会がつくられ、全国初の「地域包括ケアシステム推進計画基本構想」が策定されたのもこの年です。
そして、「地域包括ケアシステム推進実施計画」を推し進める上で課題となったのは、やはり在宅における介護と医療の連携だったのです。
現場へのアンケートで改めて浮き彫りになった課題
長:介護と医療の連携の課題が改めて浮き彫りになったのは、私が開成仮診療所で活動していたころでした。開成仮診療所が在宅医療介護連携拠点の指定を受けたこともあり、現場の実情を知るため、医療機関94と介護事業所254にアンケートを行いました。
その結果、医療機関がケアマネや介護関係者との連携に対する関心が非常に低いことが分かったのです。また、介護関係者には医療との連携についての不満が非常に大きいことも明らかになりました。
大須:特にケアマネからは、「医師との連携の必要性は感じていたものの、連携するための時間調整が難しい」「医師が忙しいから」や「医師に情報提供すべきことか、助言をえるべきことか、判断に迷う」「医師として本当に必要な情報に値するのかどうかが分からない」という声が寄せられました。「医療機関には“壁”があるというか、敷居が高い」といった声もあり、不満というより、苦手意識があったように思います。
長:加えて石巻では、在宅での介護と医療の連携を強化しなければならない状況も生まれていました。生活環境が激変したことから、石巻では震災の後、要支援や要介護1・2などの軽度者が急増したのです。
軽度者の増加は、将来的には在宅医療のニーズの急騰につながります。しかし東北は医師が足りないという絶対条件がありますから、そうした状況に陥ることはできる限り避けなければなりません。そのためにも、在宅医療の関係者は介護と深く連携し、介護を応援しつつ地域の暮らしを支える体制を整えるのが不可欠と思ったのです。
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