ケアマネを支える先進自治体 VOL.29
【金沢市・白山市】年齢に障害、要介護…あらゆる壁を取り払い"ごちゃまぜ"を実現する街(前編)
加賀百万石の城下町・金沢市の中心地から車で20分ほど。同市若松町の一角に、社会福祉法人がつくった約3万3000平方メートルの“町”があります。サービス付き高齢者向け住宅や障害児入所施設に加え、学生対象の賃貸住宅、喫茶ライブハウス、スポーツ教室、ボディケアサロン、天然温泉やデイサービス事業所、さらにはドッグランやアルパカ牧場などが軒を連ねるシェア金沢です。2014年3月以来、「ごちゃまぜ」を合言葉に、障害者も高齢者も、誰もがともに生活できる地域づくり進めてきたシェア金沢は「生涯活躍のまち(日本版CCRC=Continuing Care Retirement Community)」の先行例として知られており、2015年4月には安倍晋三首相(当時)が視察に訪れました。シェア金沢・施設長の清水愛美(しみず・めぐみ)さんに「ごちゃまぜ」の活動で得たこと、そして、その先に描く未来予想図についてお尋ねしました。
シェア金沢 施設長 清水愛美(しみず・めぐみ)さん
元旦に能登半島地震が発生…シェア金沢などは支援のための物流拠点に
―今年1月1日の能登半島地震は石川県内に甚大な被害をもたらし、今でも多くの方が避難生活を強いられています。貴法人が運営する事業所のご利用者やスタッフの皆様は、ご無事でしたか。
シェア金沢では、ほぼ被害はありませんでした。また、佛子園が奥能登で運営する「輪島KABULET」(輪島市)や「日本海倶楽部」(能登町)の施設も大なり小なり建物被害はありましたが、幸いなことに人的被害はなかったです。
佛子園では発災翌日の1月2日には災害対策本部を設置し、シェア金沢を物流拠点に、輪島KABULETと日本海倶楽部を現地の支援拠点とし、支援を継続しています。具体的には2日に一度のペースで現地に人と物資を送りつつ、現地のニーズに合わせた支援に取り組んでいます。
今、最大の問題は、被災地で断水が続いていることですね。それでも、日本海倶楽部の放課後デイサービスは発災から2週間後には再開しました。少しずつ社会が動きだしている中、障害を抱えた子どもを持つ親を、少しでも支援するためです。また、現地の職員で家が倒壊したり、津波に流されたりしたスタッフの中には、金沢に二次避難した人もいます。そうした人については、金沢の法人の拠点で一時的に働いてもらうなどの支援も行っています。
今後、被災地では仮設住宅が設置されていきますが、懸念されるのは入居した後の孤立です。佛子園では、仮設住宅に入居した人の孤立を防ぐための取り組みについて、自治体と連携し、模索しはじめています。
―被災地支援の拠点としても機能しているシェア金沢ですが、改めて、その概要を教えていただけますか。
「シェア金沢」の一画(佛子園提供)
一言でいうと「障害を持つ人も高齢者も学生も、そして周辺の住民も、壁もなく、ごく自然に過ごせる町」でしょうか。だから、コンセプトは「ごちゃまぜ」。町の中には、いろいろな店舗がありますが、そこでは障害を持った人が普通に働いています。
障害者にとっては、各店舗での勤務は自立に向けた大きな一歩となります。住民だけでなく、ここで営業する店舗も支え合いの輪に入ってくれているのです。
なお、町の住民や周辺地域の住民は、シェア金沢の店舗が提供する商品やサービスを割安で利用できます。シェア金沢には直営店舗とテナントが同居しており、直営店舗は日常性を大事にしているので安価で使える価格設定にしています。テナントさんの場合は、理事長の強い思いがあるのですが、それぞれの団体さんの活動の後押しをするのも地域における社会福祉法人の役割ではないかということで賃料はいただいていません。
シェア金沢の施設の内部(佛子園提供)
「ごちゃまぜ」の原点は…
― 「シェア金沢」をはじめ、貴法人が手掛けられる取り組みには「ごちゃまぜ」というコンセプトが一貫していると感じます。貴法人が「ごちゃまぜ」というコンセプトを掲げ、そして大切にされているきっかけと理由について、お聞かせください。
「ごちゃまぜ」のスタートは、石川県小松市野田町にある西圓寺での取り組みです。地元の子供たちから「お化け寺」なんて言われるほど傷んだ廃寺の再活用を、地元住民から託されたのがきっかけでした。
私たちは、西圓寺を就労継続支援B型や生活介護、高齢者向けのデイサービスなどを持つ福祉拠点をとして再建するにあたり、コンセプトとして「ソーシャルインクルージョン」(社会的包摂。社会的に全ての人を包み込み、誰も排除されることなく、だれもが社会に参画できること)を掲げ、地域のコミュニティセンターとすることを目指しました。
もともと寺は地域に住む人が、なんとなく集い、交流できる場所でしたから、それを掲げるのは不自然ではないと思ったのです。
しかし、福祉施設が地域のコミュニティセンターも兼ねるのは、なかなか困難でした。住民の方と交流がなかったわけではありません。収穫祭などを開けば地域住民の方も参加してくれました。でも、それ以外の時は来所されません。イベントなどがあれば来てくれるだけです。
つまり、「何か理由がないと立ち寄ってくれない」場所であり、なにげなしに立ち寄り、交流できる場所ではありませんでした。これでは、当初掲げたコンセプトを実現することはできません。
そこで私たちは、西圓寺にカフェを作り、境内に天然温泉を掘ることにしました。カフェや温泉では、施設に入所している人が働き、地域の住民は、格安あるいは無料で利用できるという仕組みしたのです。そしたら地域の人が、日常的に立ち寄るようになってくれました。当初は「福祉施設の温泉なんか、入れるかいや…」といった人も、毎日のように入浴してくれるようになりました(笑)。
そして、野田町の地域の住民と、カフェや温泉で働く施設の利用者が、お互いの顔が見える関係を築くことができました。さらにうれしい変化として、野田町の住人同士も西圓寺を拠点に繋がりを深めてくれもしました。
当初、私たちはソーシャルインクルージョンの実現を目指していました。ですが、実際に西圓寺で実現しえた成果は、その言葉には収まりきらない気がしました。地域住民同士も繋がりが深まり、さらに地域住民の数まで増えていったのですから。そこで西圓寺で私たちが実施したような取り組みについて、「ごちゃまぜ」という言葉で表現するようになったのです。シェア金沢は、その流れ中で誕生したものです。
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