ケアマネジメントスキルアップ講座 VOL.11
予防給付の一部が地域支援事業に移行されるとどうなる?(前編)
ケアマネジャーに求められるスキルや知識について、その分野の専門家からのアドバイスを紹介する「ケアマネジメントスキルアップ講座」。介護保険改正を控え、今回から3回シリーズで予防給付の一部の地域支援事業への移行について取り上げます。お話を伺ったのは、元ケアマネジャーで、介護保険制度改正に詳しい淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博先生。1回目は、改正によって何が変わるかについて紹介します。
地域支援事業への移行でサービスの担い手・内容が多様化
介護保険の給付内容は、これまで国が決めていました。それが、今回の介護保険法の改正で要支援1、2を対象とした予防給付のうち、訪問介護と通所介護については市町村が手がける地域支援事業に移り、ある程度、市町村が裁量を持って決めることになったわけです。といっても、移行は一気に行われるのではなく、平成27年4月から各市町村の判断に基づいて、平成29年3月末までに移行することとされています。ちなみに、介護予防訪問看護など、この2つ以外の予防給付サービスは、現状通り介護保険制度から給付されます。
移行されるサービスは、現在、各市町村が地域支援事業として実施している二次予防事業※と統合され、新しい「介護予防・日常生活支援総合事業」として運営されることになります。これにより、サービスの担い手は、これまで同様のサービス事業者、NPO法人、住民主体のボランティアなど多様化します。サービスの内容もこれまでのように一律ではなく、担い手によって異なってくることになるのです。
訪問介護で言えば、
①既存の法定給付並の専門職による身体介護や生活援助のサービス、
②法定給付並より人員や設備基準などを緩和したNPO法人や民間事業者による掃除や洗濯などの生活支援サービス、
③住民ボランティアなどによるゴミ出しなどの生活支援サービス
など。
通所介護では、
①既存の法定給付並の専門職による機能訓練等の通所介護、
②人員や設備基準等を緩和したNPO法人、民間事業者によるミニデイサービス、
③コミュニティサロン、住民主体の運動・交流の場、
④これまで市町村が行っていた二次予防事業、リハビリ、栄養、口腔ケアなどの専門職が関わる教室
などです。いろいろなサービスができるわけですから、利用者だけでなくケアマネジャーも当初は少し混乱しそうです。
※二次予防事業…要支援・要介護状態になる恐れのある高齢者を対象とした介護予防事業。
今後3年間で市町村がサービスの担い手を掘り起こす
既存サービスや基準を緩和するサービスはともかく、ボランティアなど住民主体のサービスについては、各市町村がこれからの3年間で担い手を掘り起こし、整備していかなくてはなりません。このため、市町村では、「生活支援コーディネーター」を配置して、地域で生活支援・介護予防サービスの担い手を養成したり、元気高齢者が担い手として活動する場を確保したり、サービス提供体制を構築していくことになります。
また、各地域で生活支援コーディネーターとサービスの提供主体等が情報を共有したり、互いに連携したりする場として「協議体」も設置されることになっています。こうした取り組みによって、国としては今、二次予防事業で実効を上げている1~2割の先進的な市町村の取り組みを、全国に浸透させようという意図があるのでしょう。
要介護認定に代わり「基本チェックリスト」での判定も
地域支援事業への移行が行われると、要介護認定が不要になる人も出てきます。地域支援事業に移行される訪問介護と通所介護だけを利用し、予防給付の介護予防訪問看護や介護予防福祉用具貸与などを利用しない人です。こうした人は要介護認定の代わりに、地域包括支援センターで「基本チェックリスト※」を活用して、①の法定給付並のサービス利用が必要か、②の基準緩和のサービス利用が適当かなど、ニーズに合ったサービスの区分を振り分けていくわけです。
介護予防ケアマネジメントに基づいた地域支援事業のケアプラン作成は、原則として地域包括支援センターが担当しますが、ケアマネジャーへの委託も可能です。介護予防ケアマネジメントは、現在の予防給付と同様のパターン、サービス担当者会議やモニタリングをしなくてもよい簡略化したパターン、アセスメントしてサービスにつなげるだけでよい初回のみ関わるパターンの3通りに分けて行います。それぞれの報酬については各市町村が決めることになっていますが、パターンによっては現在の予防プランより引き下げになるかもしれません。
今回の改正について、私はケアマネジャーにとってはなかなか厳しいと共に、真価が問われる改正ではないかと思っています。真価が問われるとはどういうことかについては、また次回以降で詳しくお話ししましょう。
※基本チェックリスト…厚生労働省のガイドラインに基づき、暮らしぶりや運動器機能、栄養・口腔機能などの状況について尋ねる25項目の質問。質問に対する回答で、介護が必要になる恐れがあるかどうかを判定し、支援内容の検討材料とする。
- 結城 康博 氏のご紹介
- 淑徳大学社会福祉学部卒業後、自治体職員として地域包括ケアセンター(社会福祉士・ケアマネジャー)で勤務しながら、法政大学大学院において経済修士、政治博士号を取得。その後、研究職に転身し、2年間、民間の居宅介護支援事業所で非常勤職員としても勤務しながら研究に当たる。2008年から研究に専念。現在、淑徳大学教授。社会保障審議会介護保険部会委員を務める(2010年~2012年、再任2013年~2015年)。
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