弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
※この記事は 2023年6月23日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
在宅ご利用者のマイナンバーとの向き合い方
- 2023/06/23 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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前回、介護保険制度にまつわる「ローカルルール」(Lルール)を取り上げ、読者の皆様から多数の事例をお寄せ頂きました。ありがとうございました。例えば、次のようなケースがありました。
読者が体験したⅬルール「定期受診しか介護タクシーが使えない?!」
「心不全の薬の調整が必要であり、不定期な受診が多いご利用者。しかし介護タクシーが定期受診時しか認められません。市は、『不定期な受診(薬の調整、検査などでの追加受診)では、介護タクシーは認められないので自費とする』とのルールを定めており、医師の指示があっても駄目といわれた」
根拠を質問するなど、毅然した対応を!
介護タクシーも訪問サービスの一種です。そうである以上、要介護1以上で、ひとりではバスや電車などの公共交通機関を利用することが難しい方が、日常生活上または社会生活上必要な行為のために外出するのであれば、利用することができます。まして目的が通院であれば、不定期であっても問題なく認められるはず。ご利用者に不利益が生じることを思えば、毅然と対応すべきケースです。具体的には前号で紹介した通り「(Ⅼルールの)根拠規定は何ですか」と質問されると良いでしょう。
続いて、とみに現場を騒がせている「マイナンバー」について見てみましょう。
ケアマネは、マイナカードにどこまで関わるべき?
Q:あるご利用者(90歳独居、身寄りなし、軽度認知症)から、「来年から健康保険証が使えなくなると聞いたが、マイナンバーカード(以下「Mカード」)に切り替えなければいけないのか」と聞かれました。どうやらそうなるらしいと答えたところ、「私は足が悪くて外出できないから、ケアマネのあなたが代わりに手続きをしてほしい」と言われました。
既に市から「このようなご利用者のために動いてほしい」と頼まれていたので何とか応じてあげたいと思いますが、無償でやってあげるには責任が重すぎると感じています。例えば、ケアマネが取得代行するときはご利用者本人が寝たきりであることや、申請時の写真が本人であることに間違いがないことを証明する書類にケアマネがサインすることになっていますが、万が一、Mカードの不備が後から発覚したとき、私の責任になってしまうのでしょうか。また、ご利用者からMカードについて「大切なものらしいから、預かってほしい」と言われたら、応じるべきでしょうか。行政が預かることは無いでしょうし、頼れる家族もいません。紛失したり闇組織の手に渡ったりするようなことになったら…と思うと私が預かるしかないかとも思うのですが。今から悩んでいます。
A:まず責任は気にする必要はありません。また、Mカードを預かってはいけません。
これはもはや「おかしなローカルルール」というよりは、全国規模の「おかしすぎるルール」ですね。マイナンバーとは、そもそも社会保障や税、災害対策の限られた分野においてのみ用いることとされ、導入時は高度の秘匿性が要求されていました。2015年に通知カードが一斉送付されたときも現場は混乱を極めましたが、カードを紛失してしまったという方も多いのではないでしょうか。
そして、通知カードをMカードに切り替えることは任意であるとされ、それは今も同じです。ところが国は昨年末、「健康保険証を廃止しМカードに一本化する」と発表しました。これは事実上のМカード取得の強制に他なりません。
先々は、健康保険証のみならず年金についてもMカードに紐付けられることとなります。さらに令和7年度以降、介護保険の被保険者証も一本化されるという構想もあります。
万が一のことがあってもケアマネが責任を問われることはない
Mカードの重要性は増す一方ですが、ケアマネが代理申請する場合、ご指摘のとおり同一性をケアマネが証明するという書式になっています。一体国は、どこまでケアマネの善意につけ込むのかと憤りを禁じえませんが、万が一、同一性が認められないといった不備が発覚したとしても、そのことをもってケアマネが何らかの責任を問われることにはならないと考えます。現実にご利用者の写真と本人の同一性が無かったという事態は考え難く、非常に外見が似た人と混同するようなことがあったとしても、それは最終的に本人確認の措置義務を負う市区町村の責任であり、無償で対応しているケアマネに負わせる筋合いのものではないためです。
Mカード、ケアマネが「預かるべきでない」根拠も
また、Mカードの預かりに関しては、マイナンバー法第19条が「何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない」と定めています。さらに、ケアマネは個人番号利用事務実施者(例えば、職員を雇用し社会保険を登録する雇用主)には該当せず、Mカードを預かり保管する根拠がありません。預かるべきではないということについて、はっきりとした根拠があるわけです。さらに言えばケアマネが預かったMカードを紛失するようなことがあれば重大な責任問題となりかねません。こうした事態が起こったとしても、マイナンバーの不正な提供・盗用には当たらないため罰則の適用は考え難いのですが、民事上賠償義務を負う可能性が考えられます。
もっとも、今後ますます重要性が増していくMカードを、判断力や管理能力に乏しい高齢者に保管させることは大変危険といえます。本来認知症の人には全て後見人がつき後見人が管理すべきなのですが、後見制度は全く広まっておらず認知症者が無防備な状態に置かれています。この根本的問題から目を背け、一律にマイナンバーを押し付ける国の姿勢が、そもそも大間違いであるといえるでしょう。そして、その問題を在宅ケアマネに丸投げしているというのが、現状の構図に他なりません。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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