弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

仲の良すぎる夫婦も考え物?ご家族トラブル解消法

世の中、夫婦の形や距離感は十人十色です。高齢になっても末永く仲睦まじいカップルがいる一方で、冷戦状態でお互い口もきかない…そんな夫婦がいたかと思えば、片方がやきもち焼き、というパターンもあるようです。事例をみてみましょう。

奥様の嫉妬が強すぎて、ケアマネジメントがうまくいかない…

◆担当しているご利用者と家族
ご利用者Aさん:70歳代男性、要介護1、認知症あり。妻と二人暮らし。子どもはいない。犬を飼っている。現役のころは公務員をしており、きちっとした性格だった。
ご利用者の奥様:60歳代、自立。平日日中は仕事に出かけて家にいない。細かいことが気になる、自称「完璧主義者」。
◆サービス利用状況
福祉用具貸与(杖、手すり)のみ
◆相談者
50代女性のベテランケアマネ。

同居の奥様(キーパーソン)の「嫉妬」に悩まされています。Aさんの所には、半年ほど前から関わるようになりました。

奥様は毎日、電車通勤する現役の会計士で、家計もその収入に支えられています。子どもはいないため、ご利用者はいわゆる「日中独居」です。認知症状が出る前は、Aさんが日中ペットの犬を散歩に連れて行っていました。

ところが今年に入り、Aさんに認知症の症状が現れ始めました。つい最近のことを覚えていなかったり、食事を何度も求めるようになったりしたそうで、普段は勝気な奥様も珍しく弱気になり「あの人、もう私のことも分からなくなってしまったのかしら…」と、ケアマネである私に悩みを打ち明けるようになりました。

そういえば、お部屋を見渡すと、以前は隅々まで整頓されていた空間が雑然としています。Aさんが一人でいるときに、何度注意しても同じものを大量にコンビニで買ってきてしまったり、落ちているゴミを拾ってきてしまったりするのだとか。その中には、いわゆる男性誌も何冊かあり、以前は物静かだったAさんも認知症の影響なのか、自分の趣味や嗜好を周囲に知られることをためらわなくなったように見受けられました。

そのような中、私は奥様を励ますつもりで「認知症になられたことで要介護度も上げられると思います。Aさんお一人で身の回りのことをこなすのも大変でしょうから、日中、ヘルパーを入れてはどうでしょうか?」と提案しました。ところがその提案を聞いた途端、奥様は恐ろしく不機嫌に。そして「いらないわよ、訪問介護なんて。私がいないときに他の女を家に上げるなんて…」と、きっぱり拒否しました。「ヘルパーは皆、資格を持つ介護のプロです。確かに女性が多いですが、男性ご利用者を異性としてみるといったことは決してしないよう教育や訓練を受けていますのでご安心ください。それにヘルパーの仕事の中身も、食事の用意や洗濯などをするだけですから」と説明しても「それでも女性が来るのでしょ?別の意味で万が一のことがあったら、どうするのよ!」と仰る始末。

同じく、入浴が自力でできないことからデイサービスの利用もお進めしましたが、これについても、「…他の女性に体を洗わせるですってぇ?!」と、またまた血相を変えて断固拒否。何かサービスの利用を拒む根拠があればまだ対応できるのですが、奥様の個人的な感情の問題だけに、どうすればいいか途方に暮れてしまっています。法律家にお聞きすべき事かどうか迷いますが、よい知恵・対策がございましたらアドバイスをお願いします。

具体策を考える前に、キーパーソンの心の内を探ってみる

あまり見ないパターンかと思いますが、奥様が感情的になるのも、Aさんへの愛情の表れということでしたら微笑ましいことですね。
確かに今回の問題は、何か法令を適用して機械的に解決に導くという類のものではありませんが、門外漢ながら、まだケアマネジャーとしてできることはあるのではないかと感じました。

例えば、奥様へのヒアリングです。

異性のヘルパーやワーカーがAさんに関わることで、具体的にどのようなことが心配なのか?Aさんからヘルパーにセクハラじみた言動をしてしまうことか、Aさんがヘルパーを好きになり奥様から心が離れてしまうことか、あるいはヘルパーが財産目当てでAさんに取り入ろうと色目を使う事なのか…。デリケートな事柄なのでストレートに尋ねることはしない方が良いですが、雑談など他愛ない話から始めて、奥様の心の内を探るということを重ねていくと何か打つべき手が見えてくるかもしれません。

奥様はあなたに「あの人、もう私のことも分からなくなってしまったのかしら」と悩みを打ち明けてくれたということですから、そこのところをもう少し掘り下げるのも良いでしょう。それによって「夫は最近認知症になって変わってしまった。わいせつな本など、結婚して以来私の目に触れるようなことなど一度もなかったのに、欲望のタガが外れてしまったようだ」といったような、性的なことに関する悩みが出てくるかもしれません。そうであれば、奥様は突如旦那様に生じた「認知症」という得体のしれないものに直面し、戸惑い不安も倍増しているということかもしれませんから、そもそも認知症とはどのような状態なのか、Aさんの場合はどうなのかといったことを学習する機会を提案すると漠然とした不安もおさまるのではないでしょうか。

お元気なころしっかりされていた方ほど、認知症になり色々と様変わりしてしまうと、その落差に周囲の家族はショックを受け過度に落胆してしまうものです。Aさんご夫婦も、正に今そんなステージにいるのかもしれません。

自宅での対応案は「カメラ設置」、だが注意点も

続いて、具体策についても考えます。手っ取り早く、わかりやすい解決策としては男性のヘルパーだけ入ってもらう、ということが考えられます。ただ、このヘルパー不足のご時世にそのようなシフトを組むことは現実的とは言えないでしょう。

もう一つの策としては、奥様不在の間の不安を少しでも和らげるために、居室内に見守りカメラを設置することが考えられます。しかし、このカメラが問題となる可能性があります。今でこそ「見守りカメラ」の通称で普及し、当たり前のように使われていますが、見方を変えれば「監視カメラ」。いつも背後から見られていると思うと気味が悪くて仕事にならない…というヘルパーさんもいらっしゃるかと思います。

そのような中で、ケアマネの立場でカメラの導入を勧めるようなことは問題ないのか―。正直にいえば、これはケースバイケースと言わざるを得ません。ですが、原則論はどうなるでしょう。法律面で考えます。

まず、利用者家族が自分の生活スペースにカメラを設置することは、自分の管理する空間内ですから自由です。もっとも、トイレの中などプライバシーが保護されるべき空間まで設置することはやり過ぎであり、また撮影した動画をネット上で公開したり他者に理由なく見せたりしたといった行為は、ヘルパーの肖像権を過度に侵害するもので許されません。

そこで、「あくまでご利用者の安全を確認するため」という目的のもと用いるといった約束事を定め、ご家族と事業所の双方が同意した上で導入することで、トラブルを予防できるといえるでしょう。もっとも、この奥様の性格からするとカメラを設置することで、次々とヘルパーに対する不満が生じてしまい、逆に収拾がつかなくなるおそれもあります。提案すべきか、また、そのタイミングはどうするのか―。ここは慎重に見極めなければなりません。

デイでの「不安」解消には、具体的な手順の説明と関係者間で協議が必要

デイサービスについては、異性がAさんの身体を洗うことのみが奥様の懸念材料といえそうです。

そこで、その「不安」を和らげるために実際の入浴介助の手順を身振り手振りで実演してもらったり、「体にタオルをかけた上からシャワーをあてるだけ」など最低限の洗浄方法を具体的に関係者間で協議したりするということをしてはいかがでしょうか。

何にせよ、通常のご家庭より時間と手間がかかることは確かでしょうから、無理をしてどこまでも付き合う必要までは無いかと思います。それでも、Aさんのために試行錯誤したことはできるだけ丁寧に支援経過記録に記録していくことが重要です。こうすることで、万が一後から「ケアマネとしての業務を怠った」などと非難されても、どれだけ配慮し行動していたかを示すことができ、自分を守ることができるでしょう。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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