弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
更新研修費は自己負担?会社負担?
- 2024/03/28 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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ケアマネの資格更新には必要不可欠な法定研修(更新研修)。所要時間が長くテキストやレポートの量も膨大であることに加え、研修受講料も必要であることが、現場のケアマネジャーを憂鬱にさせているようです。
ところで、この研修受講料、皆さんの事業所では会社が出しているでしょうか、それとも自己負担でしょうか?ケアマネジメント・オンラインの過去の投稿掲示板にこの問いかけがあり、のぞいてみると様々な回答がありました。
「当事業者では、出張扱いになり、受講費用、交通費、場合によっては宿泊費も会社負担になります。ケアマネジャーとしての業務を行うため必須な研修だからという理由です」「更新研修については、事業所持ちです。仕事扱いです」などなど、「会社負担派」が目立っていましたが、一方で「会社で検討はしているようですが、現状自己負担です」「うちはケアマネの資格を有しているだけで給与に手当が付くため、その資格更新に必要な研修も自己研鑽という位置づけです。よって自己負担になります」というコメントも。どうやら自己負担という書き込みも多いようです。
実際、ケアマネジメント・オンラインがこのほど実施した調査では、3割余りのケアマネが、研修費用をすべて自腹で賄っているという結果も出たようです。
また、先に紹介した掲示板では「自己負担で、研修の日はとりあえず仕事扱いになっています」という中間的なものもありましたが、法的にはどう考えるべきなのでしょうか。一人ケアマネの場合は個人≒会社ですから例外となりますが、それ以外の場合について解説します。
結論・更新研修費は会社が負担すべき!
一般に雇用主である会社が従業員に研修を受けさせ、あるいはキャリアアップのために研修を促すということはよくあることですが、大原則となる考え方は「労働者保護」です。
研修費用については、その会社の通常業務に必要なものとして実施される研修であり、会社が受講を命じるものであれば、その費用は会社が負担すべきということになります。
一方で、もしその研修が本業とあまり関係のないこと、例えば「ケアマネが他国の介護制度を学ぶために留学する」といったものであり、受講が各人の意思に委ねられている場合には従業員負担としても差し支えありません。
ですから、最初に紹介したコメント「当事業者では、出張扱いになり、受講費用、交通費、場合によっては宿泊費も会社負担になります。ケアマネジャーとしての業務を行うため必須な研修だからという理由です」が法的にも正しいということになります。
ただ、「ケアマネは個人の資格であり、よそに行っても通用する資格なのだから個人が負担すべき」という会社側からの反論も一応考えられますが、居宅介護支援事業所で働いてもらう人材は当然、ケアマネの資格を有していることが必須です。そうである以上、各事業所は、個人のケアマネ資格を利用して活動をしている訳ですから、「それは会社が負担すべき」という理屈が覆されることは無いものと考えます。
ケース別・会社との交渉の仕方
ならば、すべてのケアマネが今からすぐに研修費を会社で負担してもらえるのでしょうか。実は場合により多少状況が異なります。以下個別に解説します。
ケースA 入社時に「研修費は個人負担」と言われ同意した場合
この場合は、会社負担を求めることが難しいかもしれません。労使間の合意により、例外的に個人負担とすることも法的に認められる可能性があるためです。しかし、「労働者は保護されるべき」という大原則は当てはまりますから、あらきめずに交渉されるといいでしょう。法的には、過去の自己負担分も「本来会社が出すべきだった」として返還請求することがあり得るのですが、一方で「今までの分は水に流すので、来期から会社負担としてほしいです。できるだけ来期以降もここで仕事をしたいので」と、交渉することも考えられます。こうした交渉の際の切り札として、最寄りの労働基準監督署に相談に行くという手もあります。労基署の方から、会社に注意指導してくれるかもしれません。
ケースB 負担について何も取り決めていない場合
この場合が大半かと思いますが、「先輩たちもそうしてきたから何となく…」「うちは零細なので言い出しづらい空気で諦めている」といったこともあるでしょう。
ですが、会社のために働いている労働者が負担する筋合いのものでないことは明白ですから、黙っていては何も変わりません。いきなり全額負担を求めることがはばかられる場合は、例えば費用と会社と個人で折半するなど、落としどころを探ることも考えられます。ただ、そうする場合は必ず会社の関係者全員が話し合いに参加し、全体の取り決めとして話を進める必要があります。皆が納得づくでなければトラブルの原因となってしまいます。
研修費用どころか、給与も請求できる?
給与が発生する「労働時間」は、労働基準法上「労働者が雇用主の指揮命令下で働く時間」を指します。そしてその命令は、はっきり命じたものでなくとも、黙示の命令(当然受けるとされている)があると認められる場合も命令ありとされます。そして、ケアマネの更新研修は事業継続のため必要不可欠であり、会社が受講を命じざるを得ない性質のものですから、その研修受講時間は労働時間に相当する、という結論になります。
つまりケアマネの皆さんは、研修費の負担はもちろん、全ての受講時間について自分の時給相当額を本来であれば請求できるのです!
その観点からは、冒頭の「自己負担で、研修の日はとりあえず仕事扱いになっています」というコメントは矛盾しているということになりそうです。「仕事扱い」であれば、その時間は全て給与が発生しますし、仕事上必要ということですから研修費も当然、会社が負担しなければなりません。
一方で、事業者側からすれば、もし従業員であるケアマネに自己負担させたければ「研修費も自腹だし、給与も出ません。ケアマネの資格を持ち続けるかはあなたが決めることですから」と突っぱねなければならないことになります。しかし、この未曾有の人手不足の中でそこまで職員に負担を強いることは現実にも難しいでしょうし、法的にも認められない可能性が高いでしょう。
最後に一点、「できる」ことと実際に請求するかは別の話であり、「受講料は会社でもってもらわないと困るけど、給与まで請求するつもりはない」という方針でも全く問題はありません。最後は会社とよく話し合い決められると良いと思いますが、労働者としての権利はいざという時にしっかり主張するようにしたいものです。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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