弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
接遇の悪さを言いがかりにカスハラをする利用者家族
- 2024/05/30 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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接遇はサービス業の基本であり、ケアマネジャーにとっても不可欠な技術です。ただ、人の感じ方には個人差があり、こちらが問題ない接遇と思っても「失礼だ」「非常識だ」と、顧客からダメ出しをされることもあります。今回は、相手となるご利用者が高齢者であるがゆえに起きてしまったトラブルと、その解決法をご紹介します。
- ◆担当しているご利用者と家族
- ご利用者:80歳代男性、要介護3、認知症あり。妻とは死別。長男と同居
長男:50歳代独身、キーパーソン。平日の日中は仕事に出かけて家にいない。次男が遠方に住んでいるが関係は疎遠。 - ◆サービス利用状況
- 福祉用具貸与(杖、手すり)
訪問介護(週2回)、通所介護(週3回) - ◆相談者
- 40代女性のケアマネ
言葉遣いに過剰反応し、無理難題を押し付ける家族
ご利用者への言葉遣いに過剰反応するご家族に、頭を痛めています。
ご利用者は認知症が進んでいるため、サービス提供をする介護職員は「はっきり、ゆっくり、わかりやすく、やさしく」話しかけることを心がけています。もちろん、丁寧語を基本にしていますが、ゆっくり・やさしく話していると、どんな物言いをしても、どこか相手を子ども扱いしているように感じてしまう人もいるようです。
困ったことに、キーパーソンの長男さんがそういう方なのです。ご利用者にゆっくり、繰り返し話かけているヘルパーを見ると、「なんだ、その物言いは!父は元上場企業の管理職だぞ、バカにするんじゃない!」と怒り始めます。そして私には「ヘルパーやデイサービスの職員の言葉遣いをなんとかしろ!それがだめなら、さっさと事業所をかえろ!」と無理難題を押し付けます。
正直に言って、ヘルパーやデイサービスの職員の言葉遣いには何の問題もありませんし、皆、ご利用者に敬意をもって接しています。そして、ご利用者自身もそのような話し方だからこそ職員の言葉を認識し、コミュニケーションがかろうじて取れているものと思います。
キーパーソンである長男さんにはそのことを説明し「交代する必要はない」と常に伝えているのですが、なかなか納得してくれません。そもそも、この人材不足のご時世、新たなサービス事業所を確保するのは難しいことも伝えていますが、「なら、あんたがきちんとした言葉遣いをするよう、ヘルパーを教育しろ。それもできないなら、父の名誉を傷つけた輩に対し、しかるべき対応をするぞ!」などと意味不明の主張をし、脅しとも言葉を吐く始末です。
一体、どう対応すればいいのでしょうか。
明らかに「カスハラ」と言えるレベルですが…
A 本当にこの人材難の折に、厄介なご家族ですね。ご利用者本人は不快に思われるようなことも無さそうなので、長男の思い込みで一方的に要求しているといえるでしょう。
厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」によれば「顧客等からの著しい迷惑行為」の一例として「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する」場合が挙げられており、本件もいわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)に該当するといえるレベルです。
しかし、そうかといって「カスハラをしたので契約を解除します」と一刀両断できないのが介護現場。ご利用者自身の生活を支える人がいなくなれば、在宅生活が維持できなくなってしまいます。それにご利用者は何もカスハラをしていませんから、とばっちりを受けるのも可哀そうですね。そう簡単にご利用者を放り出すこともできないのが辛いところです。
ただ、職員の心理的安全とご利用者の生活のどちらを最終的に選ぶかというと、職員を雇う立場である法人の責任者や事業所の管理者は、全ての職員に対しその心身の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。あまりに理不尽な言動やカスハラが続くようであれば、どこかで毅然と線引きをして職員を守らなければなりません。
まずは、あえて長男の主張にあわせて対応する
では、本件ではどう対処すべきでしょうか。
ここで、「あえて長男の主張に合わせ普段の話し方で接してみる」ということが考えられます。ケアマネである相談者の方が、ヘルパーやデイサービスを交え行うサービス担当者会議などで、「ご家族の要望により、このご利用者には普段しているのと同じスピードや話し方で話しかけるようにしましょう」と伝え、共通認識とします。
それにより、ご利用者が戸惑ったり、困られたりするようであれば、「やはり元の話し方の方がよかったのではないか」と長男に話します。「それでもいいんだ」ということであれば致し方ありませんが、長男のいる場面では極力文句を言われない話し方で通すようにしましょう。
それでも「難癖」付けるなら、契約解除も見据えた対応を!
このような対処法で長男が納得するのであれば無事解決といえますが、そうもいかないときは問題となります。関わるヘルパーや職員の数が多すぎて、全員に共通認識を持ってもらえないときや、こちらがどれほど意識して普通の話し方をするよう努めても、長男が何かと難癖をつけてくる場合などが考えられます。
その場合は、相談者がされたようにやむを得ず「要望には応じかねる」ことを説明し、記録に残るようできればその内容を書面化してお渡しすると良いでしょう。その上で、長男がなおもケアマネや他職員に対しその苦情を止めないようであれば、信頼関係を破壊する行為であるとして事業所側から契約を解除せざるを得ません(解除を通知する前に、「このままでは解除することになってしまう」と予告することが必要です)。
事業所からの解除が法的に認められるかについては、裁判例もとぼしくやってみなければ分からないところがありますが、いざ裁判となれば裁判官からは「解除に踏み切る前に、相手を説得したり妥協案を提示したりするなど、契約継続の努力をしたか」という点が見られます。第三者に経緯を説明できるよう、いつ、どのようなやり取りがありどうなったかを丁寧に記録していくことが重要です。
ちなみに、長男の「父の名誉を傷つけた輩に対し、然るべき対応をする」との主張は通用するでしょうか。もしご利用者の人格や尊厳を傷つけるような言動があれば、精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求が認められる可能性があります。しかし本件では、ただ丁寧にお話しているだけなので、法的な責任を負う可能性は明らかに0といえます。このようなブラフ(はったり)は、まともに捉える必要はありませんので、ご安心ください。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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