弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

事業所への要求が細かく厳しすぎる家族への対処法

「仕事と介護の両立支援」は、この超高齢社会においてますます重要なミッションとなりつつありますが、中にはご家族が介護に熱心過ぎ、事業所がへきえきするケースもあるようです。そのようなご家庭の担当になったケアマネは、どう立ち回れば良いでしょうか。事例をみてみましょう。

熱心過ぎて「理想の介護」を押し付ける家族

ご利用者本人:80歳代男性、要介護3。中程度の認知症(レビー小体型)。半年ほど前に妻と死別した後、認知症を発症。現在、長女と実家の戸建住宅で二人暮らし。日中は独居状態
ご家族(長女):50歳代女性、離婚歴あり。子供はいない。母の死後、実家に戻り、父の介護と家事全般を担いつつ、日中にパートタイマーとして働く
サービス利用状況:訪問介護(食事介助、入浴介助)、訪問看護
相談者:60代の主任ケアマネ。女性

今年から担当しているご利用者の長女様が職員に求めるサービスの水準が高すぎ、対応に悩まされています。長女様はとても几帳面で、責任感の強い方です。「母が死んだあとは、私が父を支えていくしかない」と口癖のように言い、テレビ・雑誌やネットから日々、認知症や介護の勉強をされています。そのこと自体は素晴らしいことなのですが問題は、そうやって得た知識を自分の父の介護にも存分に生かそうとし、職員ら関係者にも同じレベルの知識や自分の思う水準の技術・対応を求めること。

例えば、「認知症である以上、環境の変化は悪い影響をもたらす」とし、家以外でのサービス提供は断固拒否。デイサービスすら使ってくれません。また、認知症の周辺症状の変化を詳細に把握するため、訪問するヘルパーにも、自分で作った手順書に詳細な記録をつけさせ、その日の内に提出することを要望。訪問看護では本格的なリハビリを求め、自分のお眼鏡にかなった特定の職員しか担当させないという徹底ぶりです。

さらにご利用様のちょっとした心身状態の変化に応じて、提供するサービスのやり方を事細かに変更するよう求めてきます。そして、その要望に応えられないヘルパーは「質が低い!」と断じ、交代を求める始末。もちろん、私が見る限り、交代を求められるほど質の低い対応をしていたとは思えませんでした。

その要望に応え続けようとすれば、プラン通りのサービス提供時間では間に合いそうにありません。そこで遠回しに指摘したことがあったのですが、長女様は眉間にしわを寄せて「より質の高いサービスを追求するのはどの業界でも当たり前の努力でしょう。私が求めていることは、どれも本やネットに書かれている基本的なことばかりのはずです。そもそも、父のためを思って家族が対応を求めることの何が悪いの?ケアマネなら家族の思いを理解して当然でしょう」と言われてしまいました。

反論するのも難しく既に2回、ヘルパー交代には応じました。ただ訪問介護事業所からも「これ以上の変更は無理です。そもそもプラン通りのサービス提供をしているわけで、あまり細かな追加要望をされると対応しきれません」と言われています。

このままでは、いつまた「ヘルパー交代!」と言い出すかもしれません。そうなってしまえば、もう、サービスを確保することもできなくなるでしょう。当然「施設に入所するしかない」という状況になれば、長女様は怒り狂うことと思います。 一体、どうすればいいでしょうか…。

まずは地域包括支援センターとの連携を

A  介護保険に基づく対応が原則となることを理解して頂きましょう

親御さんの介護にあまりに熱心で、方向性がずれていたり自分の考えを事業所に押し付けたりするようなご家族は一定数おられるようです。熱心な事自体はご両親への愛情の現れなので良いことですが、事業所とうまく連携が取れないと困ってしまいますね。

本件のように要求がエスカレートする状態は、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)に当たるといえ、場合によっては訪問介護事業所から契約を解除されてもおかしくないといえるでしょう。そうなればケアマネのあなたが矢面に立たされ「責任をもって速やかに次の事業所を探せ」などと命じられかねません。

このようなときケアマネは、どう動くべきでしょうか。前回(「猜疑心が強すぎるご利用者への対応」)は「困難にぶつかったら周囲を巻き込むこと」とアドバイスしましたが、本件でも地域包括支援センターに相談するなど、考えつく限りの連携をすることが、まず考えられます。

手紙で現状の課題と介護保険の公的性質を説明することも有効

もう一つ方策を挙げるとすれば、「ご家族の求める内容は、偏った知識に基づくものであり介護保険の想定する水準をかけ離れた高度なものであること」「そのような要求を一方的に押し付けるようでは、派遣できるヘルパーがいなくなってしまい、事業所側から撤退されてしまうリスクもあること」「どのようなサービスが適切であり妥当といえるかについては、第三者的アドバイザーの立場にあるケアマネの助言も参考にしてほしいこと」といった事を文章にして、手紙で長女に送ることが考えられます。

口頭ではその場で反論され圧倒されてしまうのであれば、じっくり読める文章でのアプローチの方が有効ということもあるのです。

その際、強調したいポイントは、「事業所が提供するサービスは飽くまで介護保険に基づく公的性質をもつサービスであり、保険とは元来、最低限を保障したものに過ぎない」という点でしょう。

自費サービスであれば、長女のいう通り日々サービスの質向上に努め競争することが当たり前ですが、介護保険は税金と介護保険料を原資とした事業であり、常に民間の競争原理が当てはまるわけではないのです。言い換えるなら、長女が十二分に満足できるサービスを求めるのであれば自費サービスに頼らざるを得なくなるのです。

こうした事柄を文章で説明してもご理解頂けない場合は、ちょっと困ってしまいますが、どのような状況でも支援経過記録を詳細かつ丹念に取ることは忘れないでください。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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