弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

猜疑心が強すぎ、信頼関係が築きにくいご利用者への対応法

ご利用者・ご家族にはさまざまな方がいます。中には疑い深かったり非常に神経質であったりと、良好な関係が築きづらい方もおられるでしょう。そのようなご利用者を担当することになったとき、どう対応すればよいでしょうか。事例をみてみましょう。

「どいつもこいつも信用ならん!」と言い放つご利用者…どう向き合えばよい?

ご利用者本人(Aさん):70歳代男性、要介護度4、がん患者 アパートに独居、子どもはいない。軽度の認知症。
サービス利用状況:訪問介護(週3回)、訪問看護(週2回)福祉用具貸与(電動ベッド、車椅子)、訪問診療
相談者:中堅どころの経歴・年齢の男性ケアマネ

猜疑心が強すぎるご利用者(Aさん)のことで悩んでいます。

Aさんの口癖は、「信用ならん」。介護関係者に強い猜疑心を抱いており、私を含め、ヘルパーが出入りするたびに何かしら文句を言います。

例えば、訪問介護で入浴介助をするときのこと。本人に、ほぼつきっきりでサービスをするのだから何も後ろめたいことは無いに決まっているのですが、少しでもその場を離れると「お前、俺の見ていない隙に何かものを盗っただろう」とヘルパーを問い詰めます。「そんなことはしませんよ」と説得を試みても、「しょせんはお前もケアマネージャー、あいつらとグルなんだろう」と息巻く始末。

そこまででなくても「お前ら、俺の身動きが不自由なことをいいことに、死角でなにをするかわからん!」と常々毒づいています。さすがに、自分で居室内に監視カメラを設置したりはしないようですが。

Aさんは日頃無口なので、その経歴はわからないことも多いのですが、ご自身は重い病気なので、医療にかかりきり。「命を救ってもらった」という恩義を感じているらしく、往診の先生や看護師に悪態をついたりあらぬ疑いをかけたりすることは無いようです。

一方、関係者から伝え聞くところによると、どうやら過去に実際にヘルパーにものを盗まれたことがあったようです。そのせいか、ヘルパーには物(オムツなど)を取りに行こうものなら、「今、どこに行ってきた!なにをとってきた!余計なところに入っていないな!」と大声を上げます。また、私がモニタリングで訪問すると、決まって「動けないから、部屋の隅々までチェックできない。何も盗られていないか、確認してくれ」と言われます。

最近は、ヘルパーによる窃盗事件のニュースを目にしたためか、ますます始末におえない状態に。ついには「ヘルパーが帰るときは、必ずボディチェックをさせろ!」と言い出しました。既にいくつかのヘルパーさんからは、「Aさん宅に入ることはNG」とされてしまっています。このままではケアプランを組むことができません。一度「あまり事業者を信用頂けないようでしたら、サービスが継続できなくなりますよ」と説得を試みたことはあるのですが、「やれるもんならやってみろ!この人殺し!」と激高されてしまいました。これから私は、どう対応したらいいのでしょうか。

明らかなカスハラ、対応は包括や役所を巻き込んで

A:地域包括支援センターや役所を巻き込み、記録しましょう

大変なご利用者に当たってしまいましたね。こちらとしては何の後ろめたいこともなく必死でご利用者のために尽くしているのに、一方的に濡れ衣を着せられるような言動ばかりではやる気も失せてしまいます。

いわゆるカスタマーハラスメントといってよいでしょう。厚労省のガイドラインでは「精神的暴力」として「個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為」と定義されていますが、人を泥棒呼ばわりするような言動はこの人格をおとしめる行為に該当します。ですので、法的には、それこそカスタマーハラスメント=信頼関係を破壊する行為であるとして、事業所側から契約解除する…という流れがセオリーとなります。

ただ、この対応をAさんにそのまま適用する訳にはいかないのが介護現場の難しいところ。Aさんの場合、重い病気と重度の要介護度を抱えている上、身寄りが無いため、ケアマネや訪問介護が撤退してしまえば生活の支えが無くなり、施設入所を余儀なくされることになります。さらに、過去に嫌なことがあったためヘルパーについ猜疑心を抱き、憤りをぶつけているのではないか、という背景も思えば、「一方的に契約を解除してしまうのは、どうにもしのびない」といったところが相談者の心境ではないでしょうか。

医療職との連携が解決のヒントにつながる可能性も

では、このようなときケアマネとしてはどう動くべきでしょうか。現実にAさんがハラスメントといってもよい言動を繰り返していることは事実であり、これを放置すればAさんを担当するヘルパーがいなくなってしまうでしょう。そこで、まずは地域包括支援センターに相談し、できれば役所(保険者など)も巻き込み、同行訪問での面談や関係者が集まるカンファレンスを実施すると良いかと思います。何でもそうですが、「困難にぶつかったら周囲を巻き込むこと」を基本姿勢とすることがポイントです。巻き込む相手には迷惑をかけることになりますが、地域包括支援センターや役所の場合はそれが仕事ですから気にする必要はありません。また、巻き込んだからといってただちにそのケースが自分の手を離れたり、解決したりするといったことは稀であり、結局解決しないということもあるでしょう。それでも一人で抱え込んでいるよりはマシなことが多いものです。

本件では、Aさんは過去にヘルパーとの関係で窃盗疑いの事件を体験しており、一方で医療関係者には心を開いているという特徴がみられます。そうであれば、例えば主治医の先生や地域包括支援センターの保健師らに、Aさんの抱えている思いや背景事情を聞いてもらえば、その猜疑心を解消するヒントを探ることができるかもしれません。

こうした「多職種連携」によりさまざまな角度から解決法を見出すことができれば、Aさんとの繋がりを断つことなくチームの結束力も高まり良い方向に進んでいくことでしょう。「困ったときはお互い様」の精神で連携できると良いですね。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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