弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

経済的に困窮するご利用者宅の生活支援

ガソリン代から生鮮食品まで、あらゆるものの値上がりが著しい昨今。年金だけでは生活が厳しく、基本的な衣食住もままならない高齢者世帯も珍しくなくなるかもしれません。そのようなご利用者の家庭事情に、ケアマネはどこまで関わるべきでしょうか。

十分な収入がないのに生活保護を拒否…

利用者・家族プロフィル
ご利用者(Aさん):80代女性、要介護2。高血圧、糖尿病の既往歴あり。
夫とは10年前に死別。2年前に脳腫瘍の手術後、リハビリを経て次女宅に移った。右下肢に軽度麻痺あり。最近認知機能が低下してきている。
収入は年金(月額6万円)のみ。利用サービスは福祉用具貸与(杖、手すり)。

50歳代ケアマネです。生活するための収入も確保できない世帯なのに、生活保護を拒否するご利用者とご家族に頭を痛めています。

Aさんには3人の娘がいます。長女は他県に、次女はAさんと同じ地区に住んでいますが、三女は海外に出たきり連絡を取っていないといいます。

Aさんが要介護状態になった時点で長女・次女とともに家族会議を行い、「次女が同居して、日用品費を負担し生活面を支援する。長女が介護保険料と介護サービスの利用料金、携帯電話料金を負担する」と決めました。

しかし実際に生活が始まると、長女は自分の負担分を支払いませんでした。長女と次女の間で介護方針について喧嘩になり、長女の方から絶縁宣言したとか。やむなく次女が介護保険のお金も負担しているのですが、シングルマザーで教育費も必要であることから余裕がなく、杖・手すりを借りるだけで精一杯な状態です。

私はAさんの担当についてからまだ日が浅いのですが、初回訪問時は家全体の雰囲気が重苦しく、荒れ果てている印象を受けました。

そんなある日、ご利用者本人が救急車を要請し、低栄養で入院しました。ご利用者が言うには「次女がご飯を食べさせてくれない」とのこと。しかも、ご利用者の生活も含め家事全般をこなしているのは中学生の孫である上、その孫の給食費を捻出することすら難しくなっている状況だとか。

もはや生活が破綻しているとしか思えない状態だったので、次女に、Aさんについて生活保護の申請をするよう提案し、市役所の担当課との話し合いが行われました。

しかし、担当者の「あなたから長女に協力をお願いすれば解決するのではないですか」との物言いに怒った次女が申請を拒否。いくらなだめても、説得しても、生活保護の申請を行おうとしません。

このままAさんが退院すると、遠くない将来に最悪の事態を招いてしまうでしょう。私はケアマネの立場ですが、どうすればいいのでしょうか。

A 本人に生活保護申請を促し、最終的には行政に頼りましょう。

悩ましい状況ですが、一ケアマネといえど、ご利用者が困窮している以上できる限りの支援をしたいですね。生活保護課のつれない応対は確かに腹立たしいですが、現実問題としてお金のことを解決しなければAさんが生きていくことができません。

対応が難しい場合は「法テラス」の活用を

ケアマネができることとしては、Aさんに、ご自身で生活保護を申請してもらうよう促すことが考えられます。

もっとも、世帯分離や三女と連絡が取れないことの証明など、複雑な手続が必要になるため、認知症の可能性もあるAさんには難しいことかもしれません。その場合は地元の「法テラス」(日本司法支援センター)に相談しましょう。これは、「全国どこでも法的トラブルを解決するための情報やサービスを受けられる社会の実現」という理念の下に設立された法務省の関連機関です。相談料はもちろん、弁護士に手続を委任しても費用は発生しませんので、気軽に利用することができます。

生活保護への拒否が続くなら行政の介入も

それでもAさんが生保申請をしない場合は、市町村の高齢福祉課などに相談し、老人福祉法に基づく措置処分を検討してもらうことが考えられます。同法第十条の四では「居宅における介護等」を、第十一条で「老人ホームへの入所等」を定めていますが、後者はいわゆる虐待の場合に採られる分離措置処分で、本件でも事態が深刻でありネグレクトといい得る状況であればAさんを行政判断で施設入所させることも考えられます。

ヤングケアラーを見つけたら…

最後に、Aさんのお孫さんについても考えてみましょう。この方はヤングケアラーであり、別の観点からの支援が必要です。

近年、その存在と問題性が社会的に認知されはじめたヤングケアラーですが、いまだに「家のことを子供が手伝うのは当然」「家庭内のことなので外部から口出しすべきではない」といった意識が根強く、人知れず苦労している児童や生徒、学生も、まだまだたくさんいるものと思われます。

今回のケースのように、ヤングケアラーと思われる家族を確認したときは、まず市町村の「子供家庭支援課」などの担当部署や、児童相談所に繋ぎます。その上で、一度担当のケースワーカーを交えカンファレンスを開催されると良いかと思います。

厚生労働省は、来年度には、介護保険事業の方向性を定めた基本指針の原案に、家族を介護する若者ヤングケアラーへの支援強化を盛り込むこととしました。これを受けて市町村は地域での相談体制を拡充することになります。

ケアマネであっても「世帯全体を支え、児童も支える」という意識が重要になってくることでしょう。次世代を守るためにも、官民が協力し、部署や担当を超えた横断的な支援体制を充実させていきたいものです。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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