弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
ご利用者宅の設備資源はどこまで使えるか
- 2023/07/31 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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偏西風のせいなのか、地球温暖化の影響か、令和5年の夏は記録的な猛暑となりました。そんな中、ケアマネジャーの皆様は、ご利用者宅の訪問など外出続きで大変なことと思います。ですがご自宅の中には、エアコンをつけないご家庭もあるようで…
こんなとき事業者の立場で、何をどこまで求めることができるでしょうか。
猛暑日でも頑としてエアコンを使わない家族
- 利用者・家族プロフィール
- 妻(利用者):70歳代、要介護2。夫と一軒家で二人暮らし。認知症あり、日常的に見守りや声かけが必要。ヘルパーによる入浴介助を週に2回利用。
- 夫(家族):70歳代、要支援1、妻の介護と家事、買い物などをこなしている。
40歳代のケアマネです。私の担当するご利用者のキーパーソンである夫は、とにかくケチで怒りっぽい人です。サービス中でも、入浴介助のために少し多めにお湯を使うだけで「水道料金もガス料金も、余分にかかる!」と、ものすごい勢いで怒鳴るのです。
年金収入は2人で月に30万円はあるのに、なぜ、そこまで…と思えるほどにどケチぶり。どんな天気でも、エアコンを動かすことはありません。先日私が訪問した日は、最高気温が35度を超える猛暑日でしたが、それでもエアコンはおろか扇風機も使いません。奥様も長年の付き合いなので、もう諦めている様子です。
サウナのような部屋に入ると、こちらの頭の中までゆだってしまいそうですが、そんな部屋にずっと居続ける奥様の命は本当に心配です。旦那さんが怖くて「エアコンをつけてください」とは言えていないのですが、この状況をどう変えていけるでしょうか。
A 「奥様のため」という側面を押し出して説得しましょう
訪問型のサービスはご利用者のお宅にお邪魔するため、何かと気を遣います。ですがヘルパーやケアマネも当然、生身の人間ですから暑さ寒さの耐性にも限度がありますし、トイレをお借りしたいときもあるでしょう。
法的には、このように介護事業者とご利用者の協力関係(特に、ご利用者が事業者側に協力するという点での関係)について定めた法令は筆者の知る限りでは存在せず、利用契約書にも通常そのようなことは書かれません。あえて書くとすれば「甲(利用者)は、乙の職員が安全に働くことができるよう環境整備等に配慮する」といった、いわば「逆」安全配慮義務のような形になるでしょうが、さすがにそうした規定を盛り込むことは現実として難しいでしょう。
特に事業運営する方には、看過できない状況
一方で、雇用主である事業運営法人と個々の職員との関係では、雇用主は職員に対し安全配慮義務を負います。本件でも、あまりに暑い室内での勤務を続けさせた結果、相談者の方が倒れてしまった場合、そのような危険な現場で働かせたという理由で雇用主が責任を問われることになります。
そのため、特に事業を運営する方には、本件のような状況を看過する訳にはいかないのです。
まずはご利用者を守る必要性を指摘。実際の温度を示すのも有効
ならば、このご家族に対しては具体的にどうアプローチすればよいでしょうか。
もちろん、ストレートに「暑すぎるのでエアコンをつけてください」とお願いしてもよいのですが、それは結局、自分(ケアマネ)のためにしか聞こえないので「あなたはサービス提供者として顧客の家に上がり込んでいるのに、その立場で客に対して指図するとは何事だ」などと反発されてしまうでしょう。
そこで、ご利用者の家族である奥様も苦しんでいるということを前面に出すことが考えられます。例えば、「エアコンをつけることで電気代がかさんでしまうという理由はよく分かります。ただ、そうかといってこの暑さの中つけずにいますと、室内気温が上昇し熱中症など命にかかわる危険な事態となりかねません。奥様もぐったりされているようですが、大丈夫ですか?」などと働きかけましょう。実際に室温計を持ち込み、温度を示した上で、話しをするのも有効かもしれません。
相手が頑ななら、医師や自治体にも協力呼びかけを!
それでも夫の態度は変わらず「この程度の暑さではエアコンは必要ない。長年こうしてきたんだから口出しするな」などと言われるかもしれません。そのようなときは、一旦は退出して主治医の先生など外部機関に相談するとよいでしょう。医療的にみても危ないようであれば、医師にも現場に出向き、説得してもらう方法が考えられます。
状況がエスカレートすると、在宅生活を営むために最低限必要な環境整備やケアを怠ったとしてネグレクトと認定される可能性もあります。その場合は包括や役所に引き継ぎ、ご利用者を一時保護するといった対策もあり得ます。
もっとも、「そこまでは本意ではない」と思われる方が大半でしょうから、「奥様のため」ということで何とか複数名で説得を試みて頂くのが良いかと思います。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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