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弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

経管栄養や水虫の薬の処置、介護がやっていいことは?

医療と介護のグレーな境界に迫る第四弾です。今回は経管栄養や水虫の薬の処置について介護職がどこまでできるかを解説します。

胃ろうを造設し、爪白癬があるご利用者-ヘルパーができることは?

Q:嚥下に不安があり、胃ろうを造設した高齢女性を担当しています。その方は娘さん夫婦と同居しており、胃ろうに関する準備や処置は娘さんが担当しています。

ある日、娘さんから「来週、仕事の関係で、どうしても数日、家を空けなければならない。いつも来てくれるヘルパーさんに胃ろうの管理のお手伝いをお願いしたい。栄養剤の注入と停止は、夫がやってくれると言っていたけど…」と相談されました。娘さんは「夫も共働きなので忙しい。できれば、栄養剤の注入なども含めてヘルパーにお任せしたい」とも言っていました。

胃ろうに関し、介護職員が取り組んでもいいのは、どの業務まででしょうか。

また、そのご利用者は左足の爪に爪白癬(水虫菌)ができてしまっています。爪白癬への薬の処置も娘さんがやっていますが、これもヘルパーが代行できないか、と相談されました。こちらはどうでしょうか。

A:端的に言えば胃ろうについては、栄養剤の注入はできませんが、それ以外の準備や片付けはヘルパーが行って問題ありません。爪白癬への処置は、所定の条件を満たした場合、医師の指示のもと行うのであればセーフです。

これらの手技についても、前号で登場した「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈についてその2」(以下「本通知」)に規定されているので、みていきましょう。

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本通知では、基本的に器具の準備や片付けなど、人体への危険性に乏しいものについては医行為ではないと明確に示されています。もっとも、準備や片付けの中でも医師や看護師等しかできない行為も示されているため、注意が必要です。

片付け・準備はOKでも、栄養剤の注入や停止は医行為でNG!-胃ろう

胃ろうを含む経管栄養については、下記の通り「医行為でないもの」が本通知に定められています。

  • 皮膚に発赤等がなく、身体へのテープの貼付に当たって専門的な管理を必要としない患者について、既に患者の身体に留置されている経鼻胃管栄養チューブを留めているテープが外れた場合や、汚染した場合に、あらかじめ明示された貼付位置に再度貼付を行うこと
  • 経管栄養の準備(栄養等を注入する行為を除く。)及び片付け(栄養等の注入を停止する行為を除く。)を行うこと。なお、以下の3点については医師又は看護職員が行うこと
  • 鼻からの経管栄養の場合に、既に留置されている栄養チューブが胃に挿入されているかを確認すること
  • 胃ろう・腸ろうによる経管栄養の場合に、び爛や肉芽など胃ろう・腸ろうの状態に問題がないことを確認すること
  • 胃・腸の内容物をチューブから注射器でひいて、性状と量から胃や腸の状態を確認し、注入内容と量を予定通りとするかどうかを判断すること

上記にある通り、栄養などの注入やその停止は医行為となっているため、介護職員が行うのはNGです。

ただし、ヘルパーの中でも「喀痰吸引等研修」を修了し、「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けている人で、「登録事業者」として都道府県に登録している事業所で働いている人であれば、栄養などの注入や停止も可能となります。また、介護福祉士(※)で「登録事業者」の事業所で働いている人も対応できます。

必要な条件が細かく設定された爪白癬への処置

爪白癬への処置については、本通知中、次のように定められています(太字は筆者による)

  • 患者の状態が以下の3条件を満たしていることを医師、歯科医師又は看護職員が確認し、これらの免許を有しない者による医薬品の使用の介助ができることを本人又は家族等に伝えている場合に、事前の本人又は家族等の具体的な依頼に基づき、医師の処方を受け、あらかじめ薬袋等により患者ごとに区分し授与された医薬品について、医師又は歯科医師の処方及び薬剤師の服薬指導の上、看護職員の保健指導・助言を遵守した医薬品の使用を介助すること。具体的には、水虫や爪白癬にり患した爪への軟膏又は外用液の塗布(褥瘡の処置を除く)、吸入薬の吸入及び分包された液剤の内服を介助すること
  • 患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
  • 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
  • 内用薬については誤嚥の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと

整理しますと、以下の条件を満たす場合に、ヘルパーでも爪白癬への処置ができるということになります。

  • 患者の状態が1.から3.の条件を満たしていることを医師、歯科医師または看護職員が確認する
  • ヘルパーによる医薬品の使用の介助ができることを本人や家族らに伝えている
  • 事前に本人または家族らからの具体的な依頼がある
  • 医師の処方を受ける
  • 医薬品が、あらかじめ患者ごとに区分し授与されている
  • 医師または歯科医師の処方及び薬剤師の服薬指導に従う
  • 看護職員の保健指導・助言を遵守する

対応しきれない場合は訪問看護の活用も検討を

相談事例では、胃ろうの準備と片付けはヘルパーでもできますが、肝心の栄養剤の注入できません。そのため娘さんの夫に頼めない場合は、訪問看護の活用を検討すべきかもしれません。

爪白癬への処置は条件が細かいですが、ご家族の依頼などはできるだけ書面で取り残すようにしましょう。特定のフォーマットはないので、端的に「ヘルパーが、所定の条件を満たした上で爪白癬への薬の処置を行うことを希望します」などと一文を書いてもらえば良いでしょう。

※胃ろうの栄養剤注入などが行えるのは、2015年度以降に資格を取得した介護福祉士。それ以前に介護福祉士になった人が医行為を行う場合、定められた研修を受講しなければならない。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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