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弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

インスリン注射と在宅酸素、どこまでOK?

医療と介護のグレーな境界に迫る第三弾です。これまで「褥瘡のガーゼ交換」「薬入れの再整理」と見てきましたが、今回はインスリン注射と在宅酸素についてです。

ケース:ヘルパーはどこまでお手伝いできる?

Q:自分の担当するご利用者が最近退院し、自宅に戻ったのですが、定期的なインスリン注射が必要となりました。その後、担当のヘルパーから「ご家族から、使い終わった注射器を処分しておいてと言われたのですが…私は医療従事者ではないので、注射器に触ってはいけないのでは?」と尋ねられました。

ヘルパーが使用済みの注射器を処分することはアウトですか、セーフですか。

また、他のご利用者で在宅酸素療法が必要な方がいますが、訪問看護が入れる日数に限りがあり、ヘルパーしかいない日もあります。そんな時、酸素マスクやカニューレの装着などの準備をヘルパーがしても良いでしょうか。

22年の通知で示された「医療行為に該当しないこと」

A:いずれも、ほぼセーフです。ですが、それぞれ注意すべき「落とし穴」もあります。以下で少し詳しく説明します。

医療行為に該当するかどうかについては、既に紹介した厚生労働省通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」(以下、05年度版)がよりどころとなります。ただ、この通知は、2005年度に発出されたものです。そこで厚労省は22年12月1日、「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について その2」(以下、22年度版)を発出しました。

05年度版は体温計による計測や血圧測定、軟膏の塗布といった手技が医療行為ではないことを確認するものでしたが、22年度版はさらに踏み込み、次のような処置について医療行為に該当しないと明示しました。

  • インスリン投与の準備・片付け関係
  • 血糖測定関係
  • 経管栄養関係
  • 喀痰吸引関係
  • 在宅酸素療法関係
  • 膀胱留置カテーテル関係
  • 服薬等介助関係

長期入院や老健での長期滞在が難しくなりつつある今、医療依存度が高い状態で家に戻るご利用者も増えていることと思います。この現実を踏まえ、22年度版では医療行為に近接する事前事後の準備などについて、医療行為か、そうでないかを整理したものといえるでしょう。05年度版と併せて一度は目を通しておきたいところです。

05年度版はこちら
22年度版はこちら

インスリン注射への対応の「落とし穴」-片付けはOKでも、針の処分は要注意!

さて、22年度版の方針を踏まえ、相談事例について改めて見直してみましょう。

まず、インスリン注射について。注射そのものは医療行為として位置付けられており、介護職員が手掛けることはできません。その一方、注射をするための準備や処置後の注射器の片付けなどに関しては、かなり広い範囲の行為が医療行為ではないとされています。

ただし、注意点もあります。「使い終わった注射器の片付け」は医療行為ではありませんが、注射器の針を抜き、処分することは、医療関係者以外には認められない点です。

まとめると、インスリン注射に関しては「注射を打つことはアウトだが、それ以外は、だいたいセーフ。ただし、針の処置だけは要注意」といったところでしょうか。

問い合わせをしたヘルパーには通知の存在を知らせた上で「使い終わった注射器の針の処置など、あなた自身にも危険が及ぶかもしれない行為は控えてください」と伝えましょう。同じことを訪問介護事業所の責任者やサービス提供責任者にも伝えておくと、より安心です。

在宅酸素療法の「落とし穴」-酸素吸入のボタンは誰が押す?

在宅酸素療法については、酸素の吸入・停止は医療職やご利用者自身しか行えません。

一方、以下の行為は、22年度版で医療行為ではないとされました。

  • 援助を必要としているご利用者が酸素マスクや経鼻カニューレを装着していない状況で、あらかじめ医師から指示された酸素流量を設定すること
  • 酸素が流入していない状態で、酸素マスクや経鼻カニューレの装着などの準備をしたり、着脱後の片付けをしたりする。ただし、患者が援助を必要としている場合に限定
  • 酸素供給装置の加湿瓶の蒸留水の交換や機器の拭き取りなど、機械の使用に関する環境の整備

今回の事例では、ヘルパーに「装着の準備なら対応しても大丈夫だけど、酸素吸入のボタンを押すのはNGです」と、はっきりと伝えましょう。

また、訪問看護師かご家族に、酸素吸入開始のボタンを押しているのは誰なのかも確認しておいた方がよいでしょう。それがはっきりしていないと、「ヘルパーが準備を終えても、酸素吸入のボタンを押す人がいない」という状況が生じかねません。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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