弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
在宅か入居か、それが問題だ!(後編)
- 2022/10/21 10:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
-
前月の寄稿の事例を踏まえ、ご利用者は施設に入所すべきか、それとも在宅生活をこのまま維持すべきかについて考えてみましょう。
改めて状況を整理しましょう。ご利用者自身は次男妻の作る食事に悪態をつきつつも「ここが俺の家だから」の一点張り。デイサービスやショートステイすら使わず家に引きこもりがちです。隣に住む次男は、契約上のキーパーソンですが、在宅と入所のどちらが良いかについて考えは明らかにしていません。そして「親父の介護にお金は出せない」と公言しています。
次男の妻は育児の他にご利用者の介護も担当しており、ご利用者にはすぐにでも施設に行ってほしいようです。感情的に怒鳴りつけるなど、体力・精神的に限界と思われる状況です。
このような中で、担当のケアマネジャーはどのような方針に沿って検討し行動すべきでしょうか―。
法令から考える「ご利用者とご家族、どちらを優先すべきか」
これはケアマネジメントの領域であり、法令の出番ではない、と思われる方もいるかもしれません。また、性急に「施設か、在宅か」の方針を決めずとも、時の経過とともに自然と答えが出るという考えもあり得るでしょう。それでも、あえて法令に忠実に対応していくと、どのような思考過程になるか。今回は、この点を考えてみます。
まず「家に居続けたい」というご利用者の希望と、「施設に入れたい」という次男妻の希望が正面衝突しています。これはどちらの希望を優先すべきでしょうか。
この点は、ケアマネの運営基準第十三条第八号には、次のとおり定められています(指定居宅介護支援の具体的取扱方針)。
「介護支援専門員は、利用者の希望及び利用者についてのアセスメントの結果に基づき、利用者の家族の希望及び当該地域における指定居宅サービス等が提供される体制を勘案して、当該アセスメントにより把握された解決すべき課題に対応するための最も適切なサービスの組合せについて検討し、利用者及びその家族の生活に対する意向、総合的な援助の方針、生活全般の解決すべき課題、提供されるサービスの目標及びその達成時期、サービスの種類、内容及び利用料並びにサービスを提供する上での留意事項等を記載した居宅サービス計画の原案を作成しなければならない」
この運営基準に従えば、まず「利用者の希望」が優先され、その希望に基づいてサービス計画原案が作成されると読むことができます。家族の希望については、あくまで「勘案」。つまり、参考にするにとどめるとあります。
この規定に従うならば、本件でも「家に居たい」という利用者の希望を優先すべきということになりそうです。
法令から考える「ご利用者の生活能力低下への対応」
しかし、現実のご利用者は自宅で転倒して大怪我をしたり、携帯から間違い電話を何度もかけてトラブルになったりするなど、日常生活を一人で送るには支障が出始めています。ご利用者がいいと言えば、そのようなリスクにも全て目をつむるべきなのでしょうか。次男妻が我を失い暴発するかもしれないという懸念もあります。
同じく運営基準の第十三条第十七号には、次のように定めがあります。
「介護支援専門員は、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが総合的かつ効率的に提供された場合においても、利用者がその居宅において日常生活を営むことが困難となったと認める場合又は利用者が介護保険施設への入院又は入所を希望する場合には、介護保険施設への紹介その他の便宜の提供を行うものとする」
この規定によれば、デイサービスやショートステイなどご家族のレスパイト目的でのサービス利用を勧めても全くご利用者が乗り気にならないなど、事態を改善させる方法が尽きたような場合には、介護保険施設を紹介することができる、ということになります。
今回のケースについては、この法令に則り、特別養護老人ホームなどへの入所を勧めることができるでしょう。
最初からあきらめて提案しないことに潜むリスク
もちろん、ご利用者はデイサービスに通うことすら嫌がるわけですから、施設入所を提案しても、これまで以上に激しく拒絶するでしょう。それでも重要なことは、(それが絶対の正解とも限りませんが)どのような場合でも法令遵守を念頭におき、本来ケアマネとして求められている最低限の行動や対策をとるということです。その上で、入所を激しく拒否したことをしっかり記録していきます。
むろん、特養しか勧めてはいけないということはなく、お金があるのであれば有料老人ホームを勧めても構いません。よくないのは「どうせ無意味だろう」と最初からあきらめ、施設への入所を一切提案しないことです。何もしないでいると、家庭内虐待など何か事件が起きたときに「現状を放置していた」と責任追及されかねないのです。
常にチームで問題解決を目指す姿勢こそが基本
一方、ご利用者と次男妻の関係を何とかこれ以上悪化させまいとして、ケアマネが足しげくご利用者宅に通い様子を見るといったことをする必要もありません。ケアマネは担当するご利用者全員にまんべんなく、必要なケアマネジメントを提供することが第一であり、問題があるケースだけにかかりきりになることはできません。自分だけで何とかしようとせず、事業所の主任ケアマネや地域包括支援センター、行政と連携し、常にチームで動くことを心がけましょう。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
スキルアップにつながる!おすすめ記事
このカテゴリの他の記事
こちらもおすすめ
ケアマネジメント・オンライン おすすめ情報
介護関連商品・サービスのご案内
ケアマネジメント・オンライン(CMO)とは
全国の現職ケアマネジャーの約半数が登録する、日本最大級のケアマネジャー向け専門情報サイトです。
ケアマネジメント・オンラインの特長
「介護保険最新情報」や「アセスメントシート」「重要事項説明書」など、ケアマネジャーの業務に直結した情報やツール、マニュアルなどを無料で提供しています。また、ケアマネジャーに関連するニュース記事や特集記事も無料で配信中。登録者同士が交流できる「掲示板」機能も充実。さらに介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネ試験)の過去問題と解答、解説も掲載しています。