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弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

「このご利用者、もう無理!!」…契約を解除できるか?(後編)

事業所側から契約解除をしたいと考えたときの妥当なアプローチとして「まずご家族と面談し、こちらが困っていることを伝え改善を求める。改善がみられないようであれば解除に踏み切る」という指針を前回お示ししました。本稿ではその具体的な方法を解説します。

契約解除の前の「イエローカード」、その正しい切り方

契約解除がサッカーで言うところの「レッドカード」とすれば、その前段階として「こちらが困っていることを伝え改善を求める」ことは、「イエローカード」といえます。もし信頼関係を築きやすいご家族であれば口頭で伝えても良いですが、困って申し入れるくらいですから、そうはいかない相手もいることでしょう。相手によっては、それだけで恫喝されるなど、悪い結果を招く場合もあります。

そのようなときは事前に申し入れ文書を作成した上で手渡しし、読み上げながら説明するという方法が効果的です。面会が難しい場合は、郵送やメールで伝えることでも構いませんが、郵送については確かに相手に届けたことを確認するため、簡易書留や配達証明を付けることが考えられます。

私が実務で良く用いるイエローカードの文例は以下の通りです。「お前は言われたとおりやればいいんだ」など、高圧的に振る舞い、「うちの親さえサービスしてくれれば他所はどうでもいい。新規利用者はとるな」などと無茶なことを言ってくる利用者家族への牽制を想定しています。

令和 年 月 日

A 様
ご家族様 B 様

株式会社○○
代表取締役 〇〇

サービス利用継続についてのお願い

冠省

平素より弊所サービスをご利用頂き有難う御座います。

この度弊所のケアマネジャー(以下「ケアマネ」)に対し、以下のような言動がB様の方で見られたとのことで、失礼ながら現場職員らが対応に苦慮しているとの報告を受けました。

勿論職員の報告内容がすべて真実であるとは限らず、事実に反する点等ありましたらご指摘頂ければと存じますが、これらが仮に事実であるとして、弊施設としては今後B様に以下のことをお守り頂きたく、お手紙を出させて頂きました。

1.ケアマネの助言や相談の申入れ等を理由なく拒絶せず、専門家の意見として一度は考慮頂くこと
2 ケアマネに対し、自身のケア方針に無条件で従うよう要請しないこと
3 ケアマネに対し「仕事をさぼっている」等、ハラスメントに該当するような言動をとらないこと
4 ケアマネに対し、「お前」「手前」等と乱暴な呼称を用いて呼ばないこと
5 A様の所にだけ優先してサービスに入ることや、特に手厚いサービスを求めることをしないこと

私どもの業務は飽くまでご利用者様の自立した日常生活の支援にあるところ、その関係者であるご家族様とは、同じくご利用者様を支える立場としてケアマネと対等な関係を前提としてお話できなければ、業務が成立致しません。その点をどうかご理解賜われればと思います。

前項以外にも遵守頂く必要が認められる事項があれば、また改めてお願いすることもあろうかと存じますが、ご利用契約に基づく相互の信頼関係を維持するためにも、ご協力のほど宜しくお願い申し上げます。

どうぞ宜しくお願い致します。

草々

ポイントは、相手に止めてほしいことを正面からはっきりと、第三者が見ても分かるように記述することです。相手の反応を恐れ、遠回しな言い方をしてしまったり、「担当ケアマネが退職するため」といった全く別の理由を捻り出したりする対応も散見されるのですが、それでは根本的解決に繋がりません。

次に重要なことは、相手の人格を問題視するのではなく、客観的な行動態様にフォーカスし、具体的にやめてほしいことを特定して申し入れることです。「上から目線」「偉そう」などといった表現は、自分たちから見た状態としては正しいかもしれませんが、どうしても主観が入ってしまいます。そこで、「その家族による、具体的にどのような言動がそのような印象を与えたのか」をじっくり考え、文例にあるように「お前呼ばわりしない」など、できる限り個別具体的に記述することが重要です。

相手と直接話すときは、「この申し入れにより絶対相手に従ってもらわなければ」などと気負わないことです。他者を思い通りに動かすことなど不可能であり、こちらとしては解除に向けたルールを決め、そのルール通り動き、その結果を記録しさえすれば足りるのです。相手が申し入れを拒絶すれば、やむを得ず解除に踏み切る理由となりますし、一度従っておきながら後日約束を破った場合も、解除しやすくなります。

そのような心構えのもと、気負わず淡々と話すようにしましょう。間違ってもこちらが感情的になったり、動揺したりしてはいけません。

契約解除という「レッドカード」の切り方と注意点

もし相手が「イエローカード」に従ってくれなければ、ある程度様子をみた上で、いよいよ契約解除に踏み切ります。

契約解除については、相手の同意などは一切不要。相手方に届けさえすれば効果が発動します。ただし、一度通知を送ると、もう後戻りできません。まさに「レッドカード」です。ですので、その決断はできる限り慎重に下したいものです。

解除通知の文例もご参考までに提示します。

令和 年 月 日

A様 ご家族様(B様)

株式会社〇〇

冠省

平素よりA様におかれましては弊所の居宅介護支援サービスをご利用頂き有難う御座います。しかしながら、この度誠に遺憾ながら以下の理由により、弊所より本サービスの利用契約を契約書第 条第 項に基づき解約させて頂きたく、ご連絡致しました。

同条項記載の「利用者に対して適切な介護サービスを提供することが困難である」と認められるB様による言動は以下の通りです。

1.利用開始以来、担当ケアマネジャーの助言や相談の申入れ等を理由なく拒否し、ご自身のケア方針に無条件で従うよう、サービス担当者会議等において繰り返し強く求められたこと。

2.ハラスメントに相当すると思われるご家族様の発言等
利用開始以来、担当ケアマネジャーに対し「お前」等と呼びかけたこと。
  年 月 日、サービス担当者会議において新たに導入したリハビリの経緯について説明を行うが、ご本人の強い拒否により訓練ができていないことについて、「あんたらは何でも母親のせいにして仕事をさぼっている。それでもプロなのか、恥ずかしいと思わないのか」と発言されたこと。

3. 年 月 日、担当ケアマネジャーに対し「うちの母だけしっかりサービスしてくれればいいから。それができないなら新規(の利用者を)取ったりしちゃだめでしょ」と発言されたこと。

 該当する言動は上記に限られませんが、主に上記事象を理由として 年 月 日、弊所はB様をお訪ねし上記言動に相当する行為を控えて頂くようお願いしました。ところがB様は「自分はそんなことは言っていないし、していない。いい加減なことを言うようなら役所に言いつけて営業できないようにしてやる。ブログにも書いて晒してやる」等と返答され、そのため弊所としては、B様が改善される見込みは無いものと判断せざるを得ませんでした。

従いまして誠に遺憾ではありますが、本利用契約を 年 月末日付で解除させて頂きます。つきましては、同日までに次の引継ぎ先となる事業所選定等のご準備を進めて頂けますようお願い申し上げます。その際、弊所としてもできる限りの協力や引継ぎはさせて頂きますので、ご要望等あれば管理者〇〇までお知らせください。

以上、突然のお知らせとなり恐縮ですが、事情をご理解頂きますよう、宜しくお願い申し上げます。

草々

引き継ぎは包括と連携して

最後に、解除後にご利用者を引き継ぐ事業所を決めることが課題として残ります。ただ、これは前任の事業所が具体的に引き継ぎ先を見つけなければならないということではなく、最低限その候補となる事業所を複数紹介すれば足ります。具体的には地元の地域包括支援センターと適宜連携しながら進めることになるでしょう。

福祉という仕事の特性上、ご利用者・ご家族を悪者にして縁を切るということに抵抗がある方も多いかと思いますが、一方で理不尽なクレームやハラスメントから現場職員を守ることも大切です。常に慎重かつ冷静に対応していくべきですが、いざというときは解除も辞さないという毅然とした態度で臨んで頂ければと思います。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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