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同時改定直前で内閣改造…武見新大臣は期待できるのか?

9月13日、第2次岸田第2次改造内閣が発足した。同時改定の直前というタイミングでありながら、厚生労働大臣として長く活躍してきた加藤勝信氏が退任。そして、武見敬三氏が新大臣に就任した。そこで今回は、武見新大臣の誕生が同時改定、特に介護報酬改定にどのような影響をもたらすのかについて、掘り下げてみたい。

武見氏のバックボーンは「医療」

武見新大臣は、全国比例区から3回(※2007年の参議院選挙では落選しており、後に義家弘介の辞職で繰り上げ当選)、東京選挙区から2回当選を果たしている。

全国比例区では、日本医師会の組織内議員だった。東京選挙区から出馬して以降は地域代表になったわけだが、それでも日本医師会とのパイプは強いことに変わりはない。なにしろ、武見氏は偉大な元日本医師会会長・武見太郎氏の三男だ。

こうした経緯と背景を思えば、「医療団体の代表ではない」という、武見氏の就任会見での発言を、そのまま受け取るわけにはいかない。

政策・制度には明るく、常識人ではあるが…

武見氏個人は、医療や介護に精通している上、厚労副大臣も経験しているため、政策・制度には明るい。私自身、テレビでコメンテーターとして共演したこともあったが、知識のある常識な人物という印象を受けた。

その点、武見氏の厚労大臣就任は、妥当な人事といえる。

しかし、介護報酬改定という点で考えると、彼が大臣になってしまったからこそ、大幅な引き上げは難しくなったともいえる。常識的で既存の政策に精通している分、思い切った改革ではなく、手堅い施策を選ぶように思えるからだ。

以前も述べた通り、医療と介護の同時改定では、介護業界は、常に不利な状況に置かれる。改めて、以下の表を参照していただければわかる通り、同時改定の年、診療報酬本体の改定率を介護報酬の改定率が上回ったことは一度もない。

診療報酬改定 介護報酬改定
本体 全体
2024年
2022年 0.43% -0.94%
2021年 0.70%
2020年 0.55% -0.46%
2018年 0.55% -1.19% 0.54%
2017年 1.14%
2016年 0.49% -0.84%
2015年 -2.27%
2014年 0.73% 0.10%
2012年 1.38% 0.004% -0.8%(実質)
2010年 1.55% 0.19%
2009年 3.00%
2008年 0.38% -0.87%
2006年 -1.36% -3.16% -2.4%
※2015年10月改定分を含む。
2004年 0% -1.0%
-2.3%
2002年 -1.30% -2.7%

厚労省資料より作成

その長年の「不文律」を武見新大臣は打破できるだろうか?個人の資質を鑑みても、これまでの支持団体を思い起こしても、その可能性は極めて低いと思う。

“医師会系”大臣が2人いる重さ

さらに改造内閣では、日本医師会の現在の組織内候補である自見英子氏も入閣している。自見氏は国際博覧会担当大臣だから、厚生労働行政に直接介入することはないだろう。

それでも、“医師会系議員”が2人も入閣しているという事実は重い。医療政策と介護の優先順位を考えるとなると―同時改定では、必ずそうしたタイミングがあるが―どうやっても、介護は後回しにされてしまう気がする。

もちろん、医療・介護連携やリハビリテーション、看取りなど、医療に関連した取り組みについては、報酬の上乗せがあるかもしれない。だが介護報酬全体の思い切った引上げや改革は、期待できそうにない。

どこまでできる?財務省との駆け引き

さらに気になるのは財務省や官邸と、厚労大臣として対峙する際の姿勢だ。

財務省は介護職員の処遇改善に関しては、さらに賃上げが必要との見解を示しているが、介護事業所に関しては、それほど危機感を抱いていない。さらに岸田首相も、介護職員の処遇改善は念頭に置いているが、介護報酬本体の大幅な引き上げを念頭においた発言をしたことはない。

こうした状況下にあって、武見氏がどこまで、介護業界のために知恵を絞り、闘ってくれるだろう。

先にも述べた通り、武見氏自身は確かな知識を持ち合わせた堅実な常識人だ。

だが、堅実な常識人であるだけに、駆け引きというものは、あまり期待できないようにも思える。財務省側から「介護も苦しいだろうが、中小企業の懐具合はもっと厳しい」「収支差を見る限り、介護業界はコロナ禍といえども健全な経営を実現しているのではないですか」と言われてしまえば、うまく反論できない気がするのだ。

全体の予測改定率は「0.3~0.5%プラス」

これらの事情を鑑みて、次の介護報酬改定は0.3~0.5%の引き上げにとどまると予測する。このブラス改定分の多くは、処遇改善加算の上乗せ分であり、物価高などに高騰分の引き上げはわずかであろう。

言い換えるなら、介護事業所が受け取る報酬の引き上げは、ほとんど期待できないということだ。

期待できない居宅介護支援費の引き上げ

当然ながら、居宅介護支援費の引き上げも期待できそうにない。そもそも、介護経営概況調査では、全サービスの平均収支差率が悪化した中、居宅介護支援は収支が改善していたのだ。もちろん、最終的には介護事業経営実態調査の結果を待たなければならない。だが、現状では居宅介護支援費を引き上げる環境が整っているとは言い難い。

細かく見れば、居宅介護支援事業所が直接、要支援者を担当できるようになる制度改正に向け、介護予防支援費は、多少は引き上がるであろう。しかし、それとて5000円を超えるとは思えない。

介護報酬改定以外の改革には期待!

まとめると、武見氏が厚労大臣になったことにより、介護報酬改定の方向性が大きく変わることはない。

だが、武見氏が新大臣となったことで、将来的な規定やルールなどの改革は期待できるかもしれない。

既に述べた通り、武見新大臣は医療や介護には精通した政治家であり、現場の問題にも一定の認識、見解を持ちあわせている。

今の居宅介護支援の現場には、ケアマネジャー不足や認定調査結果の遅延、ローカルルールなど問題は山積みだ。このような問題に対して、武見新大臣が辣腕をふるうことを期待したい。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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