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また有罪判決が出た誤嚥事故…ケアマネが心がけるべきことは?

今月、名古屋地裁が「特別養護老人ホームに入所していたパーキンソン病の80代男性が食事中に誤嚥によって亡くなったのは、注意義務を怠ったため」とし、施設に約2500万円の賠償命令を下した。こうした介護事故に伴う有罪判決は過去に何度もあった。主な当事者は介護職員だが、ケアマネジャーもリスクと無縁ではない。今回は、ケアマネがこのようなトラブルに対処し、防止していくには、どうしたらよいのかについて考えてみよう。

最も多いのは「転倒等の事故」

介護労働安定センターの調査報告によれば、消費者庁から厚生労働省老健局に報告された276事例の介護事故(重大事例:概ね30 日以上の入院を伴う事例)では、「転倒・転落・滑落」が最も多く、次いで「誤嚥・誤飲・むせこみ」が多かった(表参照)。

調査報告は人身事故に限定されており、276件のうち入所系介護サービス254件、在宅系介護サービス22件であった。ちなみに死亡事故の割合は19.2%だった。

この調査報告からもわかるように、転倒などの介護事故は、常に入所施設やデイサービスで生じかねない。また、誤嚥による食事介助時などでの事故も一定の割合を占めている。

転倒と誤嚥。ケアマネも含めた介護従事者は、この2つのリスクと、それに伴う介護事故は、常に想定しなければならないといえる。

表:消費者庁より厚生労働省老健局に報告された 276 事例の介護事故分析   (2014年8月15日~2017年2月27日介護事故発生日を対象)
事故の種類 件数 割合 (%)
転倒・転落・滑落 181 65.6%
誤嚥・誤飲・むせこみ 36 13.0%
施設と利用者の送迎中の交通事故 7 2.5%
ドアに体を挟まれた 2 0.7%
盗食・異食 1 0.4%
その他 16 5.8%
不明 33 12.0%

(公) 介護労働安定センター 「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業報告書」2018年3月3頁より作成

記憶に新しい特養窒息死ドーナツ裁判

ところで誤嚥といえば記憶に新しいのが、長野県の特養で起こった「ドーナツ窒息死」とそれに伴う裁判だ。

事故は、 介護職員からおやつの配膳の手伝いを頼まれた准看護師が、入所者の女性にドーナツを提供したところ、女性は食後に一時心肺停止になり、約1カ月後に低酸素脳症で死亡したというもの。一審の長野地裁松本支部では被告を有罪としたが、二審の東京地裁は、無罪判決を下している。

この裁判でもそうだったが、これまでの介護事故の訴訟では、「不法行為責任(ある人他人の権利ないし利益を違法に侵害する行為)」か「契約上の安全配慮義務違反(利用者の安全に配慮する義務)」の、いずれかが争点となる例が多かった。そして、その判断基準として、「予見可能性」と「結果回避可能性」が争われてきた。

「予見可能性」と「結果回避性」が争われる、ということは介護事業者側が「事故」に対して予見することができ、その事故が回避できると思われれば、介護事業者側に損害賠償の責任が生じてしまうということだ。

さらにいえば。サービス提供に伴う事故を予見しようともしない介護事業者は、いざという時、厳しく責任を追及される可能性が高い、ということでもある。

ケアマネの「護身」の工夫-サ担での話し合いと記録

事故を予見しようともしない事業者が、いざという時、責任を問われる―。確かにもっともな話ではある。

だが、しかし。実際のアセスメント、ケアプラン作成といったプロセスにおいて、担当する利用者の心身の状況を鑑み、介護事故の可能性まで予見しようとするケアマネは、果たしてどのくらいいるだろう。仮に、生じるリスクを予想できたとしても、その予想を実際のケアプランや記録には明記しているケアマネは、どのくらいいるだろう。

自分の経験に照らしても、これは決して簡単なことではないと思う。ただ、これまで述べてきた通り、ケアマネだって、いつ何時、利用者の誤嚥や転倒に伴う事故に巻き込まれるか、わからないのだ。

そうしたリスクを回避するため、できる範囲の現実的な「護身」の工夫として、サービス担当者会議などで、何らかのリスク(介護事故)が生じてしまう可能性を考慮し、話し合っておくことがあげられる。サービス担当者会議でそうした話が出るだけでも、介護職員らに対する転倒や誤嚥への注意喚起にはなる。

当然ながら、サービス担当者会議で話し合ったという事実も、きちんと記録に残しておくべきだ。「契約上の安全配慮義務違反(利用者の安全に配慮する義務)」を果たしているという姿勢を示す意味でも、記録の有無は重要なポイントとなる。

事故を気兼ねなく共有できる態勢を整えて!

だが、いくら注意を払っても、何らかの事故は生じてしまうものだ。

ならば、起こってしまった事故とはどう向き合うのか―。まずは、小さな事故でも介護従事者同士で確認し、情報を共有する態勢を整えておかなければならない。

最悪なのは、事故がサービスの担当者レベルで、隠されてしまうことだ。

例え小さな事故であっても「この程度なら…」と隠され続ければ、いつか深刻な事故が起こってしまうのは火を見るより明らか。そんな状況を避けるためには、どんな事故でも、担当者同士が気兼ねなく共有できる環境が不可欠だ。

ケアマネに求められるのは、そうした環境を整えるための工夫と配慮だろう。

そういう視点に立ては、事故を起こしてしまったワーカーを責めて詰めるなど、もってのほかだ。事故が起こってしまった背景をともに考え、解決するために寄り添う姿勢ことが求められるのではないか。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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