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居宅の経営指標が大幅改善!どうなる、24改定

まさに快挙!居宅介護支援の収支が大幅改善

2月1日公表された「介護事業経営概況調査」(概況調査)で、居宅介護支援の収支差率が大幅に改善したという結果が示された。さらに2021年度の結果と22年度の結果を比較すると、居宅介護支援の収支差率は2.5→4.0%(コロナ補助金を含む)。介護部門全体の平均収支差率3.9→3.0%(コロナ補助金を含む)を1ポイント上回っている。

長年、マイナスだった居宅介護支援の収支差率がいきなり改善し、しかも、介護全体を上回る数字をたたき出したのだ。まさに、介護保険23年間でも「快挙」といえるできごとだ。

この「快挙」の主な要因は、21年度の介護報酬改定だろう。この改定で居宅介護支援の基本報酬の単位数は、他のサービスよりも少し多めに積み増された。

21年度 介護報酬:居宅介護支援費(ⅰ)※取扱件数40未満
改正前 21年4月~
要介護1
要介護2
1,057単位 1,076単位
要介護3
要介護4
要介護5
1,373単位 1,398単位

また、平均実利用者数の増加や人件費率の低下なども、収支差率改善の要因として考えられる。

「改定前から収支が改善」という謎

一方で、コロナ禍で活動制限された20年度とコロナ前の19年度の居宅介護支援の収支差を比較すると興味深いデータが見えてくる。19年度の収支差率がマイナス1.6%だったのに対し、20年度の収支差率は1.9%。収支差率が3.5ポイントも跳ね上がっているのだ。20年度と19年度との比較は、「介護事業経営実態調査」(介護実調)と概況調査との比較であるため、精緻な議論はできないものの、途中、介護報酬改定があったわけでもないのに、居宅介護支援の収支差率が改善したという異例の事態には注目せざるを得ない。

コロナ禍で、居宅の業務効率化と経費削減が進んだ?

このわけのわからない現象は、なぜ起こったのか―。あくまで仮説の域を出ないが、私はコロナ禍が居宅介護支援の収支差に影響したと考えている。

20年度には、コロナ禍の影響で居宅介護支援事業所では訪問などの業務時間は減った一方、電話対応など事務所での仕事が増えたと予想される。利用者の玄関先にマスクを届けるなど、コロナ禍だからこそ増えた訪問もないわけではなかったが、総じて「訪問が減り、事業所内での業務が中心となった」のではないだろうか。サービス担当者会議や更新のための研修などでのリモート活用を認めた特例措置も、この傾向に拍車をかけたものと思われる。

つまり、コロナ禍やそれに伴う特例措置の影響で、居宅介護支援事業所では期せずして業務効率化と経費削減を実現できてしまったのではないかと推測されるのだ。特に交通費は大きく削減できたと考えられる。

事業規模が小さな居宅介護支援事業所にとって、業務効率化や経費削減で得られる効果は決して小さくなかっただろう。その結果、「改定もないのに大幅な収支差率の改善」という意味不明の状況が生じてしまったのではないか。

なお、この推測が当たっていれば、今後は次のような状況に陥る危険性もある。

「コロナ禍が収束し、ケアマネジャーの業務や研修が訪問・面談中心のスタイルに戻ったとたん、居宅介護支援の大幅な『黒字』は雲散霧消し、『赤字』に逆戻りする」

恐ろしい「数字の独り歩き」-24改定に悪影響も

いずれにせよ、今回示された居宅介護支援の「大幅な業績改善」については、慎重に、そして詳細にその背景を分析せねばならない。なにしろ、業界全体では改定後の21年度の全サービスの平均収支差率は20年度(3.9%)と比べて0.9ポイント悪化している上、23サービス中17サービスで収支差率が悪化しているのだから。その分析がないまま、「居宅介護支援の収支差率は大幅に改善」という数字だけが独り歩きすると、恐ろしい事態を招きかねない。

恐ろしい事態とは他でもない。24年度の介護報酬改定における、居宅介護支援の基本報酬の大幅削減である。

長年、法改正や報酬改定の議論を見続けてきた人なら誰でも知っていることだが、介護報酬改定においては「公的な調査で収支差率が改善したら、その直後の報酬改定では、厳しい結果が突きつけられる」という鉄則が存在する。この鉄則の適用を回避するためには、「大幅な収支差率改善」を詳細に分析し、その理由を明らかにする作業が不可欠だ。特に業界団体は、この分析の必要性をしっかり国に伝えると同時に、独自調査などの取り組みにも乗り出すべきと思う。

最後に今回の概況調査そのものについて、少し述べたい。正直にいえば、今回の結果が現場の実情を正しく反映しているかどうかという点について、わずかながらも不安を感じている。有効回答がすべての居宅介護支援事業所の1%強(590カ所)にとどまっていることや、あまりに驚異的に改善した収支差率を思うと、どうしてもそう感じてしまうのだ。

そうした意味からも、秋に示される介護実調の結果には、しっかり注目したいと思っている。より多くの事業所からデータが集められる介護実調ならば、より正確に現場の実情を反映しうるはずだから。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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