

結城教授の深掘り!介護保険
24改正への議論で取り残された?!「ケアマネ不足の解決」
- 2022/10/25 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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介護保険法改正を議論する社会保障審議会介護保険部会で10月17日、介護職員の人材不足への対応が議論された。この日は現場の生産性を向上化させるため、ICTや介護ロボットの活用などが論じられたらしい。
このような対応策を否定するつもりはない。だが、介護職員の人材不足を解決するための「特効薬」は、なんといっても他産業に見劣りしないレベルまで賃金を引き上げることだ。これにくらべれば、生産性向上のための取り組みは、どこか遠回りでピントがずれているように思える。
ただ、遠回りだろうがピントがずれていようが、何らかの対策が検討されるだけ、介護職員はましなのかもしれない。10月17日の議論では、ケアマネジャー不足への対応策は、ほとんど議論されなかったのだから。
利用者急増が見込まれる中、伸び悩むケアマネ試験の受験者数
現場のケアマネなら誰もが実感しているだろうが、ケアマネ不足は全国的に顕在化しつつある。大人口を抱える団塊の世代が後期高齢者になり、介護保険サービスの利用者の急増が見込まれることを思えば、今後、その不足はますます深刻になっていくはずだ。
それになのに、新たにケアマネになろうとする人の数は伸び悩んでいる。
例えば10月9日に実施された介護支援専門員実務研修受講試験の受験者数は5万4000人余り。受験要件が厳格化されて以降、受験者数は4万人から5万人前後で推移している。受験要件の厳格化前に比べると、その数は半分以下でしかない。(表参照)。
表:介護支援専門員実務研修受講試験・受験者数及び合格者推移
受験者数(人) | 合格者数(人) | 合格率 | |
---|---|---|---|
第19回(平成28年度) | 124,585 | 16,281 | 13.1% |
第20回(平成29年度) | 131,560 | 28,233 | 21.5% |
第21回(平成30年度) | 49,332 | 4,990 | 10.1% |
第22回(令和元年度) | 41,049 | 8,018 | 19.5% |
第23回(令和2年度) | 46,415 | 8,200 | 17.7% |
第24回(令和3年度) | 54,290 | 12,662 | 23.3% |
第25回(令和4年度) | 54,449 | ? | ? |
厚労省HPより
国は「打ちたくても打ち手なし」?
利用者は急増するのに、新たな担い手は思ったほど増えない。その上、現場を支えているケアマネも、あと10年もすれば、どんどん引退するだろう。なにしろ、ケアマネの平均年齢は50歳を超えているのだから。
手をこまねいていれば、近い将来、ケアマネ不足が恐ろしく深刻化し、高齢化と過疎化が進んだ地域では「ケアマネ難民」が急増するだろう。
この問題を解決するための「特効薬」は、やはり賃上げだ。だが、マイナス改定になりかねない2024年度の介護報酬改定で、居宅介護支援の基本報酬を大幅に引き上げたり、ケアマネのためだけの処遇改善策を導入したりするのは、ちょっと期待できそうにない。介護職員については、その処遇改善がさらに進められる見通しがあるが、そこに財源が割かれる分、ケアマネの賃上げ実現は、より厳しい状況に置かれているともいえる。
さらに、21年介護報酬改定において鳴り物入りで導入された「逓減制」の緩和もほとんど活用されていないから、この施策による生産性向上も期待できないだろう。
思い切った賃上げはできない。その上、期待していた生産性向上のための施策は不発だった―。今、国は、ケアマネ不足に対し「打ちたくても打つ手がない」状況に追い込まれているようにすら思える。
ケアマネ不足への処方箋その1-資格の更新制撤廃を!
そんな状況下でケアマネの確保を進めるとすれば、相当に思い切った施策が必要だ。
まず考えられるのは資格の更新制度の撤廃だ。この仕組みは現場のケアマネにとって大きな負担となっているだけでなく、不人気の一因にもなっている。
医師、看護師、社会福祉士などの国家資格には更新制度はないが、それでも一定の「質」は担保されている。日本介護支援専門員協会が指摘するようにケアマネも国家資格だというのなら(そして、それを国も黙認するのなら)、資格の更新制度は撤廃してもよいのではないか。更新制度があるから「質」が保たれていると考える人もいるようだが、他の職種に勝るとも劣らないくらいに勉強熱心と言われるケアマネが、資格の更新制度をなくしたくらいで自らを磨く努力を放棄するとは思えない。
ケアマネ不足への処方箋その2-受験資格を厳格化以前に戻す
また、新たな成り手の確保も大切だ。そのためにも、できるだけ早急に、ケアマネ試験の受験資格を厳格化前に戻すべきだ。「質」の維持は、試験そのものの厳格化で実現すればよい。少しでも意欲がある人に対し、門戸を閉ざすような今のやり方は、どう考えても得策ではない。
ケアマネ不足への処方箋その3-小規模自治体からケアマネを公務員に
ケアマネの待遇も、これまでとは全く違う視点と発想から、根本的に見直した方がいい。介護報酬の枠組みだけで、深刻化するケアマネ不足を解決するための財源をねん出できるとは思えないからだ。
その手始めとして、人口2万人以下の市町村に限定し、国庫負担で市町村立の居宅介護支援事業所の設立を促す補助金を出すのはどうだろう。
人材が乏しい小さな自治体であっても、ケアマネの資格を生かせる公的な職があれば、資格を持っていても活用していない「潜在ケアマネ」を、いろいろな地域から呼び込むことができるはずだ。ケアマネだけでなく介護職員や看護師も、同様の仕組みを導入すべきと考える。なにしろ都市部では、介護関連の資格は持っていても、別の業界で働く「潜在化した人材」が数多く存在するのだから。
「潜在化した人材」を介護業界に呼び込むには、公務員化ぐらいしか手はない。それぐらいしか、他産業との人材獲得競争に勝てそうな手はないと思う。
繰り返すが、今、真剣にケアマネ不足対策を実施しないと、近い将来、介護現場は深刻な事態に陥る。国も介護業界も国民も、早急にこの現実と向き合わなければならない。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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