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小濱道博の介護経営よもやま話小濱道博の介護経営よもやま話

小濱道博の介護経営よもやま話

BCP作成、ケアマネが入りがちな“脇道”

先日、新型コロナのクラスターが発生した介護施設の職員が壇上で当時の体験を発表し、他の複数の施設の職員や医療チームとパネルディスカッションを行う企画があった。私も、感染症対策の業務継続計画(BCP)作成のパートで講演を担当させていただいた。

そのパネルディスカッションである医療機関の医師が、「一番大切なのが職員一人一人、次に介護サービスを提供する組織であり現場、最後に生存者だ」と言ったことが心に残った。

いくら感染対策を徹底していたとしても、クラスターが発生した場合は、自分たちの身を守ることを最重要と考えるべきである。職員一人一人の安全を確保できてこそ、サービスが提供できるからだ。

介護サービスは“チームプレー”である。組織のマネジメントがしっかりと機能していなければ成り立たない。裏を返せば、職員が健康であり、組織が機能する状態を維持できれば、利用者へのサービスの提供は継続できるということだ。

職員が一人でも倒れてしまうと、サービスの提供に支障が出る。ましてや、新型コロナに感染したり、濃厚接触者に認定されたりすると、その影響は数週間にも及ぶ。この考え方は、感染症対策のBCPだけでなく、自然災害のBCPにおいても同じである。

利用者個々人の対策は不要

BCPを作成する時、利用者一人一人の状況を考え、特に重度者の安否確認の手段や避難方法、備蓄品について、細部まで検討を進めるケースを見かける。

ケアマネジャーとしては当然の考え方ではあるが、ことBCPの作成においては、入ってはいけない“脇道”となる。

先に記したように、BCPの対象はあくまで職員と組織である。職員一人一人が安全で健康であり、組織が機能していれば、利用者へのサービスの提供は継続できるからだ。利用者個々人の対策の検討は、BCPにおいては必要ないことをご理解いただきたい。

少人数の業務継続が重要テーマ

居宅介護支援事業所で感染者や濃厚接触者が発生した際、感染症対策の指針やBCPなどで検討した内容と現実との間に大きな違いが生じることも珍しくない。

最大の経営リスクは、職員の多くが濃厚接触者に認定されることにある。新型コロナの場合、濃厚接触者に認定されると、たとえPCR検査が陰性でも、2週間は自宅待機を余儀なくされる。

現在はオミクロンの特例として、4~5日の自宅待機後、PCR検査の結果が陰性だった場合は、職場復帰が認められているが、あくまで特例であり、2週間の自宅待機が原則となっている。

こうした場合、出勤可能な職員は一人で何役もこなさなければならない。定期的な消毒作業や1時間に一度の換気、休職中の職員の業務を分担して担当する―などである。

これは自然災害においても同様だ。事業所が被災すると、近隣に住む職員も被災するため、発生直後に出勤できる職員の数は少なくなる。限られた職員で役割を分担し、どうすれば業務を継続できるかを考える必要がある。

利用者の安否確認については、他の事業所と分担して行うことも事前に検討しておく。さらに、通所サービスなどが休業を余儀なくされた場合に備え、訪問サービスへの移行なども併せて検討し、BCPに位置づけておくことも、居宅介護支援事業所におけるBCP作成の重要なテーマである。

冒頭のパネルディスカッションで、ほとんどの施設の参加者が訴えていたのが、職員のメンタルケアの重要性であった。

特にケアマネジャーは、被災者であると共に救援者でもある。二重の立場にいることで感じるストレスは計り知れない。これを放置すると、急性ストレス反応から、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したり、うつ症状やアルコール依存などを招いたりして、組織の疲弊・劣化につながるリスクがある。セルフケアの研修を定期的に行うなど、日頃の教育的な介入(予防)が重要になるだろう。

参加者の訴えを聞きながら、職員のストレスやセルフケア関連の研修などを、平時の対策としてBCPに盛り込んでおくことの重要性を改めて痛感した。

組織・職員の危機感が作成の鍵

2021年度の介護報酬改定に伴い、全サービス事業者に作成が義務づけられたBCPは、自然災害と感染症の2つである。いずれも、組織や職員個々人の危機感が作成の鍵を握る。

過去に自然災害や感染症に被災したことのある事業所・施設は、経験値があるため比較的作成は容易だ。しかし、被災経験の無い多くの事業所・施設では、適切なBCPを作ることは難しいだろう。

幸い、今は多様な体験談や事例がインターネット上で公開されている上、各地でシンポジウムなども開催されている。こうした情報を職員間で積極的に共有しなければならない。

自然災害については、昨年夏に静岡県熱海市を襲った土石流の記憶が新しい(被害がハザードマップ通りに起こったことをご存じだろうか)。今年3月には、東北地方で最大震度6強の地震が発生、東北新幹線が脱線した。さらに今夏の集中豪雨で、東北・北陸地方で大きな被害が出ている。

毎年、大きな自然災害の爪あとが全国各地に残っている。BCP作成の重要性を再認識している経営者も多いのではないだろうか。

BCPは「永遠に完成しない」

BCPは、現段階で考えた対策に過ぎない。研修や訓練の際にギャップを感じた場合は、内容の見直しを行う必要がある。作成時点がスタートとなるが、永遠に完成しないことも知っておいていただきたい。

2021年度の介護報酬改定では、高齢者虐待を防止するための指針の作成なども義務化されたが、こちらはある意味、一度作ってしまえば完成である。インターネットを検索すれば、ひな型はいくらでも出てくるし、誤解を恐れずに言えば、“コピペ”をしてもそれなりに形になるだろう。

しかし、BCPは皆で知恵を出し合い、検討を重ねながら、内容を練り直す作業が必要になる。先に記したように、BCPは永遠に完成しないのだ。

厚生労働省がBCPのひな型を出しているが、これを見ると、後半のパートから一気にハードルが上がる。地域の連携や共同訓練などが検討テーマになるからだ。こうした項目は、後日修正しても問題はない。ざっくりとでも良いので、できる範囲でいったん作成しておくことが重要だ。

作成後は、定期的に研修や訓練を実施し、内容を肉付けしていく。他の事業所とBCPを共有し、お互いのBCPを補完し合うのも良いだろう。経験豊富な専門家にアドバイスをもらうことも有益だ。BCPを常にバージョンアップさせるという意識が大切である。

小濱道博
小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。

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