小濱道博の介護経営よもやま話小濱道博の介護経営よもやま話

小濱道博の介護経営よもやま話

本格的に始まった運営指導、居宅介護支援の注意点

今年度の介護報酬改定は、過去最大規模の改定となった。それは、変更された項目の数が過去最多という意味でもある。人員基準、運営基準はもとより、既存の加算の多くに算定要件の変更があった。

新型コロナの感染法上の分類が季節性インフルエンザと同じ5類へ移行した昨年度から、行政の指導件数が急増している。

毎年6月は、新年度の運営指導が本格的にスタートする月である。今回は、居宅介護支援事業所が特に注意すべき運営指導におけるポイントを見ていく。

前回の介護報酬改定の内容の再確認を!

今年度の運営指導では、令和3年度(2021年度)の介護報酬改定の内容が重点的に確認されるであろう。同年度はコロナ禍の真っただ中だった。今一度、漏れがないかどうか確認してほしい。

1. 限度額の利用割合でケアプラン提出

2021 年 10 月から、以下のいずれかに該当する居宅介護支援事業所は、保険者にケアプランを提出するとともに、その内容について地域ケア会議などで検証されることになった。

  • 事業所全体で、区分支給限度基準額の利用割合が7割を超え、かつ、訪問介護が利用サービス全体の6割以上を占める等のケアプランを作成する。
  • 同じサービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホーム等に居住する利用者のケアプランで、区分支給限度基準額の利用割合が高い利用者が多い。なお、利用割合や併設サービスの特定基準は自治体で行う。
2. 一定の条件下での逓減制見直し

今年度の介護報酬改定に伴い、ケアマネジャー1人あたりの担当件数は、無条件で44件まで引き上げられるようになった。

だが、今年3月末までの居宅介護支援費(II)において、44件目までの区分(i)を算定する場合、ICT機器の活用または事務職員の配置のいずれかの要件を満たす必要があった。この点に注意されたい。

対象となるICT機器は、▽事業所内外や利用者の情報を共有できるチャット機能のアプリケーションを備えたスマートフォン▽訪問記録を随時記載できる機能(音声入力も可)のソフトウエアを組み込んだタブレット等―となっている。

事務職員の配置については、常勤以外も可能だ。また、同一法人内の配置でも認められるが、常勤換算でケアマネジャー1人あたり月24 時間以上の勤務が必要だ。いずれの場合も、事業所のケアマネジャーが行う基準第13条に掲げる一連の業務等の負担軽減や効率化が前提となっている。

3. 運営基準減算の適用拡大

直近6カ月の間に作成されたケアプランに占める、訪問介護、通所介護、地域密着型通所介護、福祉用具貸与を位置づけたサービスごとの割合と、サービスごとに位置づけた担当事業所の割合について、利用者に書面を交付し、口頭で説明した上で、署名を得ることが義務化された。

これを行っていないと、運営基準減算の対象となり、居宅介護支援事業所の場合、初月が50%減算、それ以降は100%減算となる。この減算を受けてしまうと、特定事業所加算の算定要件を満たせなくなるため、運営指導で指摘されると、巨額の返還に至ってしまう。

基本的には、毎年、前期(3月1日~8月末日)と後期(9月1日~翌2月末)ごとに集計し、重要事項説明書に別紙として添付することとなる。新規契約時には、利用者に文書を交付し、口頭で説明した上で、署名を得る必要があるが、既存の契約者については、集計ごとに説明する必要はない。

これらの内容は、今年度の介護報酬改定で緩和されているが、今年3月末までは要件をクリアしなければならない点に注意されたい。

全事業者に4つの義務、その注意点は?

令和3年度の介護報酬改定においては、全ての介護サービス事業者に対して、▽ハラスメント対策▽感染症対策▽業務継続計画(BCP)の策定▽高齢者虐待防止措置―の4つが義務付けられた。ここからは、それぞれの注意点を見ていこう。

4. ハラスメント対策

ハラスメント対策については、利用者や家族からのカスタマーハラスメントについても、その防止のための方針の明確化等の必要な措置を取ることが大切とされている。

各事業者においては、就業規則などでハラスメントに厳重に対処する旨の方針を明確に示すとともに、職員に対する研修を定期的に実施しなければならない。また、法人内に相談窓口を設置し、担当者が相談を受けた場合の記録として、相談シートを準備する必要がある。

5. 感染症対策

感染症対策については、▽感染対策委員会の開催▽感染症の予防及びまん延の防止のための指針の作成▽研修と訓練―の3つが義務化された。今年3月末までは経過措置期間だったが、4月以降の運営指導から確認対象となり、未実施の場合は、運営基準違反の指導を受けることになる。

・感染対策委員会の開催

おおむね6カ月に1回以上の定期開催のほか、感染症が流行する時期等、必要に応じて随時開催する必要がある。メンバーは感染対策の知識を有し、外部を含めた幅広い職種で構成することが望ましい。構成メンバーの責任及び役割分担を記した委員会名簿を作成し、専任の感染対策担当者を決めておく必要がある。

・感染症の予防及びまん延の防止のための指針の作成

指針には、平常時の対策と発生時の対応の両方を定めておく必要がある。

平常時の対策は、▽事業所内の衛生管理(環境の整備等)▽ケアにかかる感染対策(手洗い、標準的な予防策)―等、発生時の対応は、▽発生状況の把握▽感染拡大の防止▽医療機関や保健所、市町村における事業所関係課等の関係機関との連携▽行政等への報告―等を記載する。

また併せて、発生時における事業所内及び関係機関への連絡体制を整備し、明記しておくことが必要である。なお、具体的な記載内容については、「介護現場における感染対策の手引き」を参照してほしい。

・感染対策の研修と訓練の実施

研修は年1回以上、定期的に開催するとともに、新規採用時にも研修を実施することが望ましい。研修内容は、▽感染対策の基礎的な内容等の知識▽指針に基づいた衛生管理の徹底や衛生的なケアの励行する内容―とし、終了後は研修記録を作成する必要がある。

また、感染症が発生した場合を想定した訓練(シミュレーション)も年1回以上、定期的に行うことが必要である。

訓練では、感染症発生時に迅速に行動できるよう、発生時の対応を定めた指針と研修内容に基づき、事業所内の役割分担の確認や、感染対策をした上でのケアの演習などを行う。机上のシミュレーションを含め、実施手法は問わないとしているが、シミュレーションと訓練を組み合わせながら実施することが適切である。

なお、後述するBCPにおける研修、訓練と併せて実施することも可能だ。

BCP未策定、減算ならずとも指導対象に

6. 業務継続計画(BCP)

業務継続に向けた計画等の策定だけでなく、定期的(在宅サービスは年1回以上、施設サービスは年2回以上)に研修と訓練(シミュレーション)を行い、記録を残しておかなければならない。

訓練では、感染症や災害が発生した場合に実践するケアの演習等を実施する。なお、感染症の業務継続計画研修は、感染症対策の研修と一体的に実施しても差し支えないとされている。また、いわゆる1人ケアマネの事業所については、他のサービス事業者と連携してBCP策定などを行う必要がある。

今年度の介護報酬改定において、「BCP未実施減算」が創設された。居宅介護支援事業所は来年4月からの適用だが、運営基準上は、今年4月から策定が義務付けられている。

経過措置期間中は、未策定でも減算にはならないものの、運営基準違反として指導の対象となる。それは研修と訓練の未実施についても同様である。

7. 高齢者虐待防止措置

今年4月から、障害福祉サービスにおける対応も踏まえ、▽「虐待の発生又はその再発を防止するための委員会」の開催▽指針の整備▽研修の実施▽専任の担当者の配置―が義務付けられ、こちらも未実施の場合は運営基準違反として指導対象となる。

・虐待の防止のための対策を検討する委員会

虐待等の発生の防止・早期発見に加え、虐待等が発生した場合はその再発を確実に防止するための対策を検討するため、定期的に開催する。メンバーは、管理者を含む幅広い職種で構成され、役割分担を明記した委員会名簿を作成する必要がある。虐待防止の専門家を委員として積極的に活用することが望ましいとされている。

・指針の作成と研修の実施

虐待の防止のための指針は、以下に例示した内容を盛り込んだものを作成する。

虐待の防止のための指針に盛り込む内容の一例
イ 事業所における虐待の防止に関する基本的考え方
ロ 虐待防止検討委員会その他事業所内の組織に関する事項
ハ 虐待の防止のための職員研修に関する基本方針
ニ 虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針
ホ 虐待等が発生した場合の相談・報告体制に関する事項
ヘ 成年後見制度の利用支援に関する事項
ト 虐待等に係る苦情解決方法に関する事項
チ 利用者等に対する当該指針の閲覧に関する事項
リ その他虐待の防止の推進のために必要な事項

研修は年1回以上、定期的に実施するだけでなく、新規採用時にも必ず行い、終了後は記録を保存しておかなければならない。

職員教育を組織的に徹底させるため、指針に基づいた研修プログラムを作成。研修内容は、▽虐待等の防止に関する基礎的内容等の適切な知識▽指針に基づいて虐待防止を徹底させる内容―とする。

また、専任の担当者を置く必要があり、虐待防止検討委員会の責任者と同一の従業者が務めることが望ましいとされている。

小濱道博
小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。

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