

結城教授の深掘り!介護保険
ケアマネが国家資格?職能団体の指摘について考察する
- 2022/02/17 11:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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見直した登録証、認定者の名前は「石原都知事」
昨今、ケアマネジャーの資格が既に「国家資格」であったというニュースが業界内で話題になっている。最初、このニュースを見た時には、かつてこの仕事に就いていた者として「本当か??」と思ってしまった。
そこで、まずは、改めて自分が持っている資格の登録証を確認してみた。誰もが国家資格と認識している社会福祉士や介護福祉士の登録証には、発行日とともに厚生大臣の名前が認定者として記載されていた。ところが、「介護支援専門員」の登録証に記載されていた認定者の名前は、このほど亡くなられた石原慎太郎氏。その肩書は東京都知事だった。
指摘されたページを確認してみたら…
続いて、既に国家資格化であるという職能団体の指摘の根拠として挙げられた文部科学省のホームページを確認してみた。
ここでは「国家資格とは、一般に、国の法律に基づいて、各種分野における個人の能力、知識が判定され、特定の職業に従事すると証明されるものとされる」と記されている。
国家資格の概要について(文部科学省ホームページ)
国家資格一覧(文部科学省ホームページ)
この定義に従うと、厚労省が所管する「国家資格」だけでも膨大になる。「介護支援専門員」だけでなく、「福祉用具専門相談員」「訪問介護員」「ボイラー技士」「フォークリフト運転技能講習修了者」などが含まれてしまう。「准看護師」もその範疇に入ってしまうのだ。そのほか、総務省管轄では、「危険物取扱者」「防火管理者」も国家資格の位置付けとなる。
ただ、そのすべてが同じ位置付けの資格ではないようだ。指摘の根拠となったページでは、「国家資格」の試験実施主体を、「国」「地方公共団体」「法律で指定された団体」といった3種類に分けられることが明記されている(表を参照)。
国が行う試験 | 地方公共団体が行う試験 | 法律で指定された団体が行う試験 |
---|---|---|
医師 看護師 薬剤師 管理栄養士 社会福祉士 介護福祉士 |
介護支援専門員(ケアマネ) 准看護師 保育士 栄養士 調理師 |
技術士 |
文部科学省HPを参考に筆者オリジナルの作成
言い換えるなら、国家資格の中でも、「国」「都道府県」「法律で指定された団体」のいずれが責任主体となるかで、その資格の社会的位置づけが異なると考えられるのだ。例えば、「看護師」は国が責任主体の資格だが、「准看護師」は都道府県が責任主体だ。
そして、「介護支援専門員」の責任主体は都道府県だ。国ではない。だからこそ、私の登録証にも東京都知事の名前が書かれていたのだ。
国家資格には独自の根拠法があるはず
さらに言うなら、資格独自の法律が根拠法となっているかどうかで、資格の位置付けは異なる。
「介護支援専門員」は、介護保険法の中で位置付けられているにすぎず、「資格」そのものの法律は存在しない。
一方、誰もが国家資格と疑わない社会福祉士及や介護福祉士には「社会福祉士及び介護福祉士法」という法律が存在する。同じく医師には「医師法」、薬剤師には「薬剤師法」、保健師・看護師・助産師には「保健師助産師看護師法」がある。
これらのことから考えて、通常、専門職間で認識されている国家資格には、「介護支援専門員(ケアマネ)」は該当しないと判断していいのではないだろうか。
ほぼ「業務独占」といえる介護支援専門員
資格の位置付けを評価する上でもう一つ大事な観点がある。「業務独占」か「名称独占」か、という観点だ。
「業務独占」とは、資格を持った人しか、その業務を行えない状態のこと。治療行為における医師がその代表例だ。一方、「名称独占」とは、「資格を持つ人だけが、その名称を用いることができる」こと。無資格者でもよく似た業務に従事できる介護福祉士が、それに該当する。
そして、介護支援専門員(ケアマネ)は、ほぼ「業務独占」といえる。この資格を有していなければ、在宅や施設で、第三者のケアマネジメント業務ができないからだ。
その意味では、介護支援専門員の資格は、国家資格と同じように評価されるべきものといえる。
専門職も認める「国家資格」となるための3条件
以上の状況を鑑み、ケアマネの資格が専門職も認める「国家資格」となるためには、次の点の実現が不可欠と考える。
- 都道府県から国が主体となる「国家資格」に位置付ける
- 「介護支援専門員(ケアマネ)法」といった法律を設定して根拠法とする
- 明確に「業務独占」である資格として法律に位置付ける
福祉系大学もしくは大学院卒での受験資格ルートを
さらに、確固たる「国家資格」とするためには、福祉系大学などで規定のカリキュラム履修し、資格試験に合格すれば、現場経験がなくても介護支援専門員の資格が得られる新たな仕組みを構築すべきである。
具体的には、「ケアマネジメント学」をしっかりと業界内で確立させた上で、4年制大学に受験資格ルートを新たに設け、その後、大学院教育も充実させるなどの取り組みが必要だろう。
深刻化しつつあるケアマネの人材不足を解消するためにも、ケアマネジメントの質を向上されるためにも、こうした仕組みの構築は不可欠と思うのだ。
「22歳の学卒が試験に合格するだけでケアマネ業務に就くことは難しい」と批判する人もいるだろうが、社会福祉士や介護福祉士、看護師も、22歳の若さで現場にでて経験を積んでいく。むしろ、若い世代にケアマネ職へのルートを築くことで、ケアマネの質の向上にも繋がるのではないか。
それでも4年制大学卒では無理というのであれば、例えば、社会福祉系大学の社会福祉士の養成を経た上で、さらに2年間の大学院養成で「ケアマネジメント学」を履修すれば、受験資格を与えるといった方法も考えられる。
いずれにせよ、今回の「ケアマネは国家資格?」という指摘をきっかけに、改めてケアマネの資格のあり方について、議論を深めていかなければなるまい。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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