

結城教授の深掘り!介護保険
※この記事は 2019年2月20日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
特定処遇改善加算の居宅ケアマネ外し、その意味を考える
- 2019/02/20 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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今年10月、「介護職員等特定処遇改善加算」(特定処遇改善加算)が創設される。その主な対象は、介護福祉士で勤続年数が10年を超えるようなベテランだ。また事業所の判断で、経験の浅い介護職員や介護職員以外の職員の処遇を改善することもできる。
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ただし、改善の優先順位は、「ベテラン」→「経験の浅い介護職員」→「介護職員以外の職員」だ。具体的なルールとして、
「ベテランの賃上げ幅は、経験の浅い介護職員の2倍以上」
「介護職員以外の職員の賃上げ幅は、経験の浅い介護職員の2分の1以下」
―と、することが決まっている=図1=。
施設などに勤務するケアマネジャーは最も優先順位が低い「介護職員以外の職員」に相当する。そして居宅のケアマネは、この加算の対象ですらない。特定処遇改善加算は、居宅介護支援事業所を対象としない既存の「介護職員処遇改善加算」の算定を前提としているからだ。
なぜ「居宅」が外れ、「施設」が残った?
居宅のケアマネが特定処遇改善加算の対象外となったのは、介護職員よりケアマネの給与の方が高いためだろう。事実、ケアマネと介護職員の給与を比べると、月給ベースに均すと約5万円もケアマネのほうが高い=表1=。
一方、施設のケアマネが対象に含まれたのは、職場内での多職種の連携に配慮した結果と考えられる。介護職員とケアマネが毎日のように顔を合わせる施設の場合、待遇の不公平が生み出す「不協和音」は、より深刻に、より直接的に多職種連携に悪影響をもたらす可能性があるからだ。
加算の創設がケアマネを目指す人の減少を招く?
在宅のケアマネの立場で見れば、特定処遇改善加算の創設は大きな懸念材料といえる。特に心配なのは、ケアマネより高い賃金を得るベテラン介護職員が一気に増え、ケアマネを目指そうとする介護職員が、ぐっと減ってしまうかもしれない点だ。
既に報道されている通り、今年度に誕生したケアマネは、かつてない少なさだった。そんな中、特定処遇改善加算が導入され、介護職員とケアマネの給与が逆転してしまえば、介護職員からケアマネを目指そうとする人は、さらに減ってしまうかもしれない。
前回の寄稿でも指摘した通り、今、現役で頑張っているケアマネの多くは、10年もすれば引退する。それだけに、ケアマネを目指す人の確保は、中長期的には極めて重要なテーマだ。
なお、この加算の導入によって、在宅のケアマネとして働いている人が大量に介護職員に戻ってしまうという事態を懸念する人もいるが、私自身の経験や現場で聞いた声に照らせば、ちょっと想定しづらい事だと思う。
それでも特定処遇改善加算を歓迎すべき理由
ケアマネにとって深刻な問題を招きかねない特定処遇改善加算だが、それでも私は、その創は、おおむね歓迎すべきと考える。
理由は単純だ。そんな“荒業”でも持ち出さないとどうにもならないくらい、ヘルパー不足が深刻化し続けているからだ。
それに以前の寄稿でも指摘した通り、ヘルパー不足は、居宅のケアマネの業務も圧迫する。その問題に少しでも歯止めがかかる可能性があるのであれば、ケアマネも特定処遇改善加算を前向きに評価すべきではないか。
そもそも2018年度の介護報酬改定では、わずか総額0.54%の報酬引き上げの中で、居宅介護支援の基本報酬は引き上げられた=表2=。こうした状況を鑑みれば、居宅のケアマネも、特定処遇改善加算の創設を受け入れるべきと思う。
ベテランより若い人材の確保に注力を!
ただし、私も特定処遇改善加算のすべてを是としているわけではない。具体的には「ベテラン」→「経験の浅い介護職員」→「介護職員以外の職員」の優先順位を設けた点がいただけない。
私としては、ベテランより経験の浅い介護職員への処遇改善こそ充実すべきと思う。特に、「介護職経験1年~5年未満で、30歳以下の介護職員」の処遇改善に力を注ぐべきだ=図2=。
昨今の少子化を受け、介護だけでなく全産業で人手不足が深刻化している。その状況で他産業との人材確保競争をしなければならない以上、ベテラン介護職員を定着させるといった施策より、介護現場に新たな人材を流入させる「確保」の強化こそ最優先させるべきと思うのだ。
今から気がかりな21年度介護報酬改定の動向
もう一つ懸念がある。21年度に予定される介護報酬改定がマイナス改定になってしまうかもしれないという懸念だ。
介護報酬では昨年4月、そして今年10月とプラス改定が連続することになる。こうなると黙っていないのが財務省だ。おそらく財務省は、21年度の介護報酬改定に向け、近年にない強烈な報酬削減圧力を掛けてくるだろう。
仮に21年度の介護報酬がマイナス改定となってしまえば、特定処遇改善加算の効果も失われてしまう。とにもかくにも、今から21年の介護報酬改定の動向が気掛かりだ。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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