

結城教授の深掘り!介護保険
※この記事は 2018年10月26日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
介護離職防止へ、企業と連携する新しいケアマネジメントを
- 2018/10/26 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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毎年10万人前後いる「介護離職者」
2018年7月13日に総務省が発表した「平成29年就業構造基本調査」によれば、16年10月から17年9月までの1年間の「介護離職者」は約10万人だった。その数は、07年には一時的に14万人を超えたものの、ここ10年ほどは10万人前後で推移してきた。
要介護高齢者が増加傾向にあることを思えば、「介護離職者」が横ばいであるということは、離職防止に施策が功を奏していると言えなくもない。
しかし、政府は「20年代初頭までに介護離職ゼロ」という大目標を掲げている。20年初頭といえば、もうほんの数年後だ。
さらに10万人の介護離職者が日本経済に与える損失は年間で6500億円にもおよぶとする試算もある。そんな状況が「横ばい」で続いていると思えば、離職防止策が十分に効力を発揮していると評価するのは難しい。
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養成課程に家族支援のカリキュラムも入ったが…
ちなみに、介護離職防止の施策はケアマネジャーの養成課程にも影響している。具体的には、17年5月19日の「介護支援専門員資質向上事業の実施について」の一部改正で、「専門研修課程Ⅰ」や「専門研修課程Ⅱ」に、「家族への支援の視点が必要な事例(講義及び演習4時間)」といった項目が盛り込まれた。
もっとも、現状では「介護離職防止」といった視点でケアマネジメントすべきということは、明確には示されていない。そのため多くのケアマネは、「働きながら介護を担う家族の支援」に配慮するといった内容に戸惑いを感じているのが現実だろう。
ケアマネ仕事の本義は、要介護者本人の支援である。その家族の支援となると二次的な取り組みとなってしまうのは、ある意味、当然だ。
「家族への支援も大切だが、それでも、ケアマネは要介護者本人の支援を中心に考えるのが原則」
これが大方のケアマネの認識だと思う。
家族が支援の妨げになる場合も
利用者支援の視点に立てば、時に家族はその妨げになる場合すらある。
私も、58歳の息子(無職)と85歳(要介護2)の母親の2人暮らしの担当をしたことがあるが、この息子は母親の年金の一部で暮らしており、どんなささいなサービスを付ける場合でも、いちいち息子の了解を得ないと事がすすまなかった。私は何度となく「この息子が居なくて一人暮らしなら、充分なサービス提供できる」と、考えたぐらいだ。
特に、家族が人格障害や精神疾患を抱えている場合、担当したケマネは、その対応だけで相当な苦労を強いられる。
「就労支援」的アプローチの難しさ
もちろん、親の介護のために仕事を辞めないように支援するケアマネジメントは、こうした処遇困難ケースとは全く違う「前向きな支援」だ。それでもケアマネジメントに「就労支援」的なアプローチが加わり、ケアマネの負担が増えることは間違いない。
具体的には、次のような事例が業務の追加があり得るだろう。
家族の仕事と介護の両立を支えるためには、その家族の勤務実態を把握した上で、必要なタイミングで、介護休暇や介護休業、有給休暇の取得などを勧めなければならない。場合によっては、時短勤務の提案などもしなければならないだろう。いずれにせよ、働いている企業の福利厚生制度は知っておかなければならないし、企業の人事担当者とのやり取りが必要になるかもしれない。
このような取り組みがケアマネジメントの範囲なのかと、疑問を抱く者も多いのではないか。ただでさえ、事務処理対応が迫られ忙しい中で、介護離職を防止するための支援など、充分に時間を費やすことはできないと考えるケアマネも少なくないはずだ。
企業からケアマネに連携の働きかけを
そもそも、真っ先に「就労支援」に取り組むべきは、ケアマネではなく、家族が働く企業だ。
最近、介護離職防止策を充実させる企業は増えてはいる。ただし、せっかく整えた研修や制度が、あまり利用されていないのが実情のようだ。
用意した施策があまり利用されないのは、企業が在宅介護の実態をあまり把握していないからではないか。いくら仕組みが優れていても、在宅介護の現状と照らしながら対応していかなければ、社員が利用したくなるような実効性のある施策を講じることは難しいだろう。
企業側が在宅介護の現状を理解するには、ケアマネとのネット―ワークを築くのが最も有効ではないだろうか。つまり、企業側からケアマネとネットワークを構築するよう働き掛けるべきということだ。
ケアマネも、こうした企業からの働きかけがあった場合は積極的に連携しなければなるまい。日々の業務の中で多忙を極めているケママネだが、少しでも介護離職防止の必要性を実感しているなら、家族が働く企業側とのネット―ワークも範疇に入れた新しいケアマネジメントを模索すべきだ。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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