

CMO特別インタビュー
一体なぜ?ケアマネが市長に転身した理由 /松本哲治(沖縄・浦添市長)【後編】
- 2022/07/12 09:00 配信
- CMO特別インタビュー
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「良いケアマネは良い政治家になれる」―。ケアマネジャー出身の松本哲治市長の持論だ。そもそも、松本市長はなぜ、政治の道へ進んだのか。ケアマネと政治家の共通点とは―。インタビュー後編では、行政の当事者としてかじ取りする際の苦労にまで話は及んだ。

―ケアマネから一転、政治の道を志したのは、何かきっかけがあったのですか。
特別支援学校に通う子どもの支援をしていた時、送迎のことで行政ともめたことがありました。車椅子の女の子が小学校に進学する際、「みんなと同じ学校に行きたい」と言っているのに、学校側は「エレベーターを含めてバリアフリーじゃないと受け入れられない」と断ってきたんです。とにかくルールがガチガチで、教育委員会に行ったり、学校の先生を交えて会議をやったりしたんですが、一向にらちが明かない。
これはたくさんある中の一つの例です。「これは決まりですから」とか、「この子だけ特別扱いできない」とか、そんなことを何度も言われ、「行政を変えないと、いつまで経っても、エネルギーの浪費なんじゃないか」と思うようになりました。
10年間、浦添市内だけでサービスを提供していたので、利用者さんもご家族も事業者も、みんな知り合いでした。「市がこうやれば話が早いのにな」とよく話していて、その流れで市長選に出ることになったんですが、事はそれほど単純ではなく、市長になった後は大変でした。
―行政の立場になると、また別の問題があるのでしょうか。
私は当時、介護・福祉の現場から不満を抱いていましたが、市役所は市全体を見ています。当然ですが、何か事業をやろうとしたら、お金が必要になります。介護や福祉の現場以外からも、さまざまな要望がある中、優先順位をつけて予算を配分しなければなりません。関係者の意見を調整するのが難しいんです。
市長が「これを重点的にやるんだ!」と言えば、すぐに実現できそうですが、予算案を通すためには、議会の承認を得る必要があります。特に1期目は、圧倒的な少数与党で、27人の議員のうち、与党はわずか5人。圧倒的な野党多数の状況の中で、政治行政を動かすのは大変でした。
ケアマネ業務は政治に通じる経験
―「良いケアマネは良い政治家になれる」が持論です。
私は政治家になるためにケアマネになったわけではありませんが、政治家になってみると、ケアマネの時にやっていたことが役に立つというか、仕事の内容が似ていると感じることがあります。
ケアマネって、例えば、ヘルパーさんが現場で何をしているかも把握しておかないといけないし、ドクターが何を考えているかも知っておかなければなりません。どちらが正しいという話ではなく、両方の意見を合わせて最高のケアプランを作る。要介護度別の限度額なども計算した上で、利用者さんにとって最適なケアを提供するわけです。
時には、ご家族とサービス提供者の思いにずれが生じることもありますが、それをうまく調整しながら、落としどころを見つけて、みんなの力を結集させる。ご家族の思いだけを聞けばいいわけではありませんし、かといって、行政の窓口で聞いたことを伝えるだけでもだめです。
利用者さんの立場、ご家族の思い、事業者の考え、行政の担当者の気持ちを巧みにつなぎ合わせ、押す時には押し、引く時には引いて、妥協点を見出す。こうした調整業務は、政治に相通ずる経験だと思います。だから私は、「良いケアマネは良い政治家になれる」と思っているんです。
もしチャンスがあれば、ぜひ政治の道を志してください。10年前は公共工事中心の世界でしたが、今は介護・福祉が大きなウエイトを占めています。時代は確実に変化しています。
アジアは介護で協力し合うべき
―高齢者人口がピークを迎える2040年に向け、国は既に対策を検討しています。介護・福祉、行政の現場を見てこられた市長の目に、日本の現状はどう映っているんでしょうか。
高齢者が右肩上がりで増え、社会保障費の負担が重くのしかかっていますが、私は「逆転の発想」で考える必要があると思っています。
少なくともアジアにおいては、しばらく高齢化が続くわけですから、この問題に最初に直面した日本の経験は、絶対にプラスになるはずです。外国人労働者の問題も含め、介護と高齢化の課題にどう取り組んでいくのか、これが非常に大切だろうと思っています。この分野でこそ、アジアは1つに協力し合うべきです。
アジアには、まだまだ生産年齢人口が増えている国もあります。こうした国とどう連携するのかが、大きなテーマになると思っています。
自分たちの仲間だけで介護を考えるのではなく、外国人労働者の力もお借りしながら、日本の高齢者を支えていく視点が大切です。一時代を共有する視点に立って、海外の若い人に、リスペクトを持って働いてもらうのです。このためには多様性を受け入れる、ある種の国際感覚を持つ人が必要になるでしょう。ケアマネが活躍する余地は非常に大きいと思います。
自分を大切にする“スキル”習得を
―最後に、ケアマネの読者にメッセージをお願いします。
ぜひ、無理をせずに、楽しく、喜びにあふれる仕事をしてもらいたいと思います。悩みを抱え込んでバーニングアウトしそうになったり、利用者さんや事業者との間で板挟みになって苦しい思いをしたりすることもあると思いますが、時には“逃げる”ことも大切です。
ケアマネは、介護の中核にいる人ですから、ケアマネ自身が楽しく、幸せに、笑顔で働いていないと、利用者さんやご家族を幸せにすることはできないと思います。ぜひ、自分を大切にする“スキル”を身に付けていただきたいです。
私も、何度か燃え尽きそうになったことがありました。“逃げる”という言葉は、響きが悪いかもしれませんが、お休みを頂いたり、誰かを頼ったりしてもいいと思うんです。これからも笑顔で、輝き続けてください。
取材・構成/敦賀陽平
- 松本哲治(まつもと・てつじ)
- 沖縄県浦添市出身。1991年3月、琉球大卒業。東京の金融コンサルティング会社に勤務後、96年に米カリフォルニア大バークレー校卒業(社会福祉学修士)。同市内の総合病院と介護老人保健施設での勤務を経て、2002年にNPO法人「ライフサポートてだこ」を設立。同法人では、訪問介護事業所や居宅介護支援事業所などを運営し、地域づくりに取り組む。2013年の浦添市長選に無所属で立候補し、初当選。現在3期目。ケアマネジャー、認知症介護指導者の資格を持つ。54歳。
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