

CMO特別インタビュー
※この記事は 2019年7月19日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
ナースこそ、同じ目的を持ったケアマネの仲間/齋藤訓子(日本看護協会副会長)
- 2019/07/19 09:00 配信
- CMO特別インタビュー
「『どうしてもっと早く連絡しないのか』『なぜ放っておいたのか』など、相談者を責める対応はしない」「ケアマネジャーへの相談業務に携わる訪問看護師は、ケアマネジャーの資格を持つ人や、相談員などの研修受講者が望ましい」-。いずれも、日本看護協会が厚生労働省の調査研究事業で取りまとめた訪問看護師向けのガイドラインに盛り込まれた心得だ。医療が必要な利用者を抱えるケアマネを訪問看護師が支援するために作られたこのガイドラインには、ケアマネを理解し、その業務に配慮した上で、連携を促す内容がたっぷり記載されている。検討委員会の委員長を担った日本看護協会の齋藤訓子副会長は「ナースこそが、目的を共有するケアマネの仲間」とし、その連携の必要性を力説する。齋藤副会長にガイドラインを作った狙いなどを聞いた。
―ガイドラインの正式名称は「医療ニーズを有する利用者のケアマネジメントに関する看護師による介護支援専門員への相談支援事業 実施の手引き」ですね。この手引きを作った狙いについて、お聞かせ下さい。
医療のニーズを抱えたまま、在宅で暮らす要介護者が増えていることが一番の理由ですね。その一方、医療ニーズへの対応を盛り込んだケアマネジメントに自信が持てなかったり、困難を感じたりするケアマネが多いことも分かっています。
こうしたケアマネを医療専門職の視点から支えることが、手引き作成の目的です。
訪問看護との連携が利用者と向き合うケアマネを後押しする
―医療ニーズを抱える在宅療養者をケアマネが担当する際、特に困難なのは、具体的にどのようなことでしょうか。
病気の進行が見極めにくいことでしょうね。見た目で分かるような症状が出てしまった時は、もう相当に病気は進行しているといえます。
―看護職や医師と連携すれば、そうした困難も乗り越えやすいということですね。
深く静かに進行する症状を、利用者の身体状況や日常生活状況、行動、会話、検査データ等、あらゆる側面からから読み取っていくのが医療職ですから。ケアマネが訪問看護師らと深く連携し、「医療の目」をケアマネジメントにもっと生かせれば、要介護者が在宅で療養する際のリスクは、ぐっと低くなるはず。さらに看護職との連携はケアマネが、日々、要介護者と向き合う際にも、大きな力となるようです。
―どういうことでしょうか。
手引きを作るにあたって取り組んだモデル事業(※注)に参加したケアマネからは、要介護者に対し、近い将来に起こり得る症状の変化を、自信を持って説明できたという声が多く寄せられました。訪問看護師らからのアドバイスが確かな根拠となり、ケアマネの日々の活動を後押ししたのだと思います。
「心得」を盛り込んだ理由
―手引きでは、「『どうしてもっと早く連絡しないのか』『なぜ放っておいたのか』など、相談者を責める対応はしない」など、看護職に対し、ケアマネへ配慮することを求める「心得」も盛り込まれました。
当たり前のことですが、介護保険の領域で専門職種の間には上下関係はありません。利用者の療養生活を支えるという共通の目的の下、それぞれの専門性にあわせたアプローチをする仲間です。そんな仲間同士であるからこそ、お互いに配慮しあうべきと思い、「心得」を盛り込みました。
―ちょっと意地の悪い見方をすると、その「心得」をあえて盛り込まなければならない現実があるのでしょうか。実際、ケアマネからは看護職との連携に苦労することもあるという声を聞くこともありますが‥。
まあ、確かにケママネからは、「ナースはいつも忙しそうに走っていて、おっかない」と言われることもあるようです(苦笑)。また、病院にいらっしゃったケアマネから「『私に話しかけないで!』というオーラが出ている…」なんて言われた看護職もいたようです。
特に病院の看護職は1人で同時進行の仕事をいくつも抱えて、常に切羽詰まっているような状況に置かれていますから、ぴりぴりしている時もあるでしょう。ただし訪問看護ステーションの看護職は、病院の看護職に比べて、そこまで切羽つまることは少ないです。
また最近は、制度改正の影響で、医療側にとってもケアマネと連携しないとうまくいかないことが多くなってきました。その点から考えても、看護職と向き合う際のハードルはずいぶん低くなったはずです。そもそも、医師に比べれば、看護職の方が連携は取りやすいのでは?
―そうですね。ケアマネジメント・オンラインの調査でも、ケアマネが一番連携しにくいと感じるのは医師という結果が出ています。
医師との連携のハードルが高いなら、訪問看護師らを通じて連携するのもあり得ます。そういう点から考えても、ケアマネと訪問看護師らが連携する意味は大きいと言えます。
訪問看護とケアマネ、定期的な情報交換が必要
―モデル事業で実施された訪問看護ステーションでの相談支援窓口は大変、魅力的ですが、全国で実現するには、まだ時間が掛かりそうです。相談支援窓口が実現するまでの間、ケアマネと看護職は、どのように連携すればいいのでしょうか。
まずは、訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所が定期的に情報交換する場を持つようにすることですね。
利用者の中には、具体的な病気を抱えていなくても、ちょっと体の状態が気にかかるという方がいるのではないでしょうか。例えば、糖尿病を持っている人とか。あるいは、明らかに血圧が高いとか。そういう利用者の情報を訪問看護師と共有し、ちょっとした知恵やアドバイスをもらえる関係を作ってほしいのです。
在宅で長く頑張っている看護職は、本当にいろんなケースを見ています。一見、元気に見える人が、あっという間に急変していく様を何度となく経験しているのです。そうした看護職からのアドバイスは、ケアマネがちょっと気にかかる利用者の生活を支える上で、大きな力になるでしょう。
―ケアマネの中には、そうした情報交換の場を持つきっかけを得るのが難しいと感じている人もいるのではないでしょうか。
例えば、都道府県ごと、市町村ごとにある連絡協議会などのネットワークに参加すれば、きっかけをつかみやすいのではないでしょうか。
あとケアマネが看護職に相談する場合、相談してアドバイスをもらうだけでなく、利用者がどのように変わったかといった情報もフィードバックしてほしいですね。そうすると、その後の情報交換もより自然な形でできるようになるはずです。
ちなみに今、日本看護協会では、地域の看護職のネットワークづくりを進めています。看護職は、病院にも、訪問看護ステーションにも介護施設にもいます。市役所などの行政にもいるのです。その看護職が組織を超えて手をつなぐネットワークです。
将来的には看護職だけでなく、ケアマネや別の職種との連携も、このネットワークで進めたいと考えています。既に福井県では、坂井地区のモデル事業で実施した多職種連携による在宅ケアモデルを全県展開し、退院支援ルールやICT活用に基づいた訪問看護師とケアマネの連携強化が進められています。
ケアプラン有料化、「現段階では反対」
―ところで、今回のインタビューのメーンテーマから少し離れますが、ケアマネジメントへの自己負担の導入が改めて提起されています。この点について、副会長のご意見をお聞かせ下さい。
現段階では、私たちとしては反対する立場です。
介護保険の自立支援という理念を正しく普及させるには、もう少し時間が掛かると思うのです。「保険料を払い、自己負担も出しているのだから、やってほしいサービスをつけてよ」と思う利用者さんも出てくるかもしれませんから。
あと、自己負担の導入によって、本来、利用するべき人が利用を控えてしまうことへの対応はどうするのか。そこへの対応策がなければ、安易に負担だけを導入すべきではないと思います。
ただし、現状の介護保険財政を鑑みますと、未来永劫、ケアマネジメントは自己負担なしでよい、というわけにはいかないとも思います。
「ケアマネの隣には看護職がいる」
―今回のインタビューで、副会長はケアマネのことを何度も「同じ目的を持つ仲間」と位置付けました。仲間であるケアマネへのメッセージをお願いします。
これからのケアマネの役割は、ますます大きくなるのではないかと思うんです。いわゆる「8050問題」など、介護保険の枠から外れた問題とも向き合わなければならなくなるでしょう。
それでも怯む必要はないと思います。隣に看護職がいますから。もちろん、看護職も迷うことは多いですが、ケアマネさんたちが私たちを仲間と思ってくれて、支え合うことができれば、お互い、対応できる幅は大きく広がると思うんです。
※注:日看協では平成30年度厚生労働省老人保健健康増進等事業により、昨年10月から12月、22カ所の訪問看護ステーションなどでモデル事業を実施。地域のケアマネを対象とした相談窓口を設置し、利用者の医療ニーズのアセスメントなどについて、看護の視点から助言したほか、必要に応じて看護師がケアマネと共に利用者宅に訪問し、助言や支援も実施した。
- 齋藤訓子(さいとう・のりこ)
- 北海道立釧路高等看護学校を卒業後、旭川医科大学医学部付属病院に入職。富良野市役所や順天堂大学医学部付属順天堂医院を経て日本看護協会に。その後、事業開発部長や政策企画部長、常任理事などを経て、2017年、同協会副会長に就任。社会保障審議会介護保険部会や介護給付費分科会などの委員も務める。
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