

CMO特別インタビュー
※この記事は 2019年3月4日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
利用者数の“上限”、5年後には撤廃を/高橋泰(国際医療福祉大 赤坂心理・医療福祉マネジメント学部長)【後編】
- 2019/03/04 09:00 配信
- CMO特別インタビュー
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現在、ケアマネジャー1人が担当できる利用者の数は、35人が事実上の上限となっている。高橋氏は、こうした業務上の制約が、介護の効率性を高めるICTやAI(人工知能)などを普及させる上での最大の障害だとし、サービスの質が低下しないことが実証できた場合は、現行の基準を撤廃し、1人のケアマネが担当できる利用者の数を増やす必要があると指摘する。「5年後にはそうならないと、2025年以降のさらなる高齢化には対応できない」―。高橋氏はこう警鐘を鳴らす。
―AIの進化によって、いわゆる「ケアマネ不要論」が再燃するとの見方もありますが、これについてはいかがでしょう。
ケアマネの仕事は、ケアプラン作成とケアのコーディネーションに分けることができます。そして、現在AIができるのは、ケアプラン作成の支援です。AIは、高齢者が今後どのようになるかを予測する能力に優れているので、国が推奨する自立支援型のケアプランを短時間で作ることが可能なレベルになってきています。
しかし、ケアマネジメントが有料になっても、AIがケアプランを自動作成するようになっても、多くの利用者はこれまで通り、ケアマネに仕事を依頼するでしょう。なぜなら、利用者がお金を払うのは、ケアプランの作成に対してというより、介護サービスの調整など、ケアマネのコーディネーションの仕事に対しての方が多いからです。
地域の介護資源の現状、家庭環境や利用者の性格、家計の状況といった点にまで配慮したサービスのコーディネーションに関しては、AIが必要とする学習データの作成が技術的に困難なため、どうしてもケアマネの介入が必要になります。このような意味で、私は「ケアマネ不要論」は間違っていると考えています。
ケアマネがAIの将来予測能力を利用すれば、質の高い自立支援型のケアプランを作成できます。さらにICTを使いこなすことができれば、ケアマネの仕事の効率は飛躍的に上がります。今後、ケアマネの仕事は、AIの将来予測を参照しながらケアプランを作成し、ICTを駆使してコーディネーションを行うという形に急速に変化することを期待しています。
現在、ケアマネが1カ月に担当できる利用者の数は、1人35件が事実上の上限となっていますが、AIやICTを活用して、ケアマネジメントの質を落とさずに対処できる件数を、例えば100件まで増やせるケアマネが出てくるのであれば、現行の基準を撤廃すべきだと思います。
ICTやAIを使いこなして多くの利用者に対処するか、これまで通りのやり方で仕事を続けるのか、ケアマネや事業所は、今後その選択が迫られると思います。ケアマネの仕事の中に、テクノロジーが普及していくかどうかは、ケアマネジメントという仕事について、ケアマネ自身や事業所、そして国が、どのように考えるかに懸かっていると言えるでしょう。
診療報酬の入院基本料は、看護師の人数による評価が見直され、患者は治療などのアウトカム(成果)にお金を払う時代になりつつあります。同様に介護分野でも、質を落とさずにケアプランを100件分作ったら、きちんとお金を払う。裏を返すと、35件の“縛り”がある限り、入ってくるお金の量は変わらないので、ケアマネの給料は上がりません。この基準は、仕事の効率化を図る上で、むしろ足かせになっているのです。
現行の基準をなくせば、利用者からの依頼がたくさんあるケアマネと、そうでないケアマネとで二極化が進む可能性はあります。AIを使いこなすケアマネと、そうでないケアマネとの間の賃金格差も広がりますが、自立支援や利用者の満足度といったアウトカム指標で、一人一人のケアマネジメントの正当性が評価されるようになるでしょう。
AIでケアマネの給料は1.3倍に!?
―今後も、高齢者の数は右肩上がりで増えますが、35件のままでケアマネを増やすよりも、この基準そのものを撤廃して、ケアマネの仕事の効率性を高めた方が良いということでしょうか。
そうです。テクノロジーの進化と人員基準の緩和はセットで考える必要があります。先端技術が現場に導入されれば、業務の生産性が上がり、少ない人数で仕事を回せるようになる。例えば、クラウドの基盤を整備して、給付管理をオンライン上で全部できるようにするなど、紙のやり取りも減らす。どんどん仕事の生産性を高めていくと、35件という基準はかえって邪魔になると思います。
―100件というのは、10年先の話ですか。
いいえ、5年後にはそうならないと、2025年以降のさらなる高齢化には対応できません。働き方を変えることで仕事の生産性が劇的に上がれば、例えば、ケアマネの給料が1.3倍に増やすことが可能になります。賃金アップという前向きな視点で捉えないと、現場の人手不足は解消されませんし、将来の需要にも追い付けないと思います。
ここで問題になるのが、介護サービス事業所の規模です。現状では、とにかく小さ過ぎる。医師の働き方改革が進むと、チーム制がとれない、外科医が少ない病院は手術ができなくなるので、医療機関は集約化を迫られるでしょう。同様に、ケアマネの仕事の効率化に向け、AIやICTを導入できない事業所の統廃合が進むかもしれません。
死生観の変化で、重介護者は減る
―ケアマネの中には、テクノロジーを活用することに抵抗感を持つ方もいます。
どこの業界も同じような話はあります。私もケアマネとお付き合いがあるので、そのような方がいることも知っていますが、時代の流れでそうなることは避けられない。大事なのは、介護の仕事のイメージを変えることです。原資が無い中で給料を上げるには、仕事の生産性を高めるとともに、担当する利用者の数を増やすしかないと思います。
もう一つ重要な視点は、今後、老い方、死に方が大きく変わるということ。回復の見込みがない中、延命治療を選ぶ方は減り、口から食べられなくなったら看取ってほしいという欧米型の考えが、10年後には一般化するでしょう。そうなると、介護現場の風景は劇的に変わると思います。重度の要介護者に対する三大介助は大幅に減る一方で、重介護状態になる前に亡くなる方が増え、ぎりぎりまで自立した生活を行えるようにするための支援がより求められるというのが、私の未来予測です。
―そうした未来が訪れた場合、医療と介護の境目はどうなっていくのでしょう。
今後、医療は「とことん医療」と「まあまあ医療」に分かれていくでしょう。「とことん医療」は、病気を治すことだけに集中する。一方、「まあまあ医療」は治すことよりも、生活を続けていくためにADL(日常生活動作)を維持することがメーンで、そこに介護も関わってくる。
「とことん医療」は、医療の本質の部分なので確実に残りますが、将来的に「まあまあ医療」の比率が大きくなっていくと思います。「まあまあ医療」では、自立支援に関する予測が重要になります。だからこそ、AIを使いこなすケアマネが、“ベストケアマネ”になっていくのです。
- 高橋泰(たかはし・たい)
- 1986年、金沢大学医学部卒。東大病院の研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科を修了。米国のスタンフォード大学、ハーバード大学に留学後、1997年に国際医療福祉大学教授に就任。2018年4月に同大赤坂心理・医療福祉マネジメント学部の学部長となり、現在、同大大学院医学研究科医療福祉管理学分野の教授を兼任している。2016年9月から、政府の未来投資会議構造改革徹底推進会合の健康・医療・介護会合で副会長を務めている。医学博士(医療情報)。
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