

CMO特別インタビュー
※この記事は 2018年12月6日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
ケアマネ×牧師、“二刀流”が考える死生観とは?/佐々木炎(NPO法人 ホッとスペース中原 代表)【後編】
- 2018/12/06 09:00 配信
- CMO特別インタビュー
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この春の制度改正では、「共生型」という新たなサービス類型がつくられた。今後、65歳を迎える障がい者が増えることが予想される中、一つの事業所でサービスを受けやすいようにすることで、障がい者が住み慣れた地域で暮らし続けることが狙いだ。「ケアマネは地域共生社会のハブ、つなぎ役になるべきだ」。NPO法人「ホッとスペース中原」の佐々木炎代表はこう主張する。ケアマネジャーと牧師、“二刀流”の宗教者が考える死生観とは―。
―佐々木さんはどのような経緯で牧師になられたのですか。
牧師になったのは26歳の時です。もともと、私は「妾(めかけ)」の子どもでした。今で言う「非嫡出子」(法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子供)です。精神疾患を抱えた父は仕事ができず、私は貧しさの中で、非行に走りました。父親から虐待を受けていたため、同じように暴力で人を押さえ付ける、支配するという方法しか知らなかったのです。
キリスト教と出合ったのは、傷害事件を起こし、道に迷っている時でした。その時は、何が教えかさえ分かりませんでしたが、人の優しさと思いやりの心地良さ、そして、教会にいる子どもたちから必要とされたことで、私は変わりました。
そして、18歳で洗礼を受け、神学校を卒業してから、26歳の時に社会福祉主事任用資格を取り、福祉の世界に入りました。当時、介護福祉士という資格はまだありませんでした。その後、特別養護老人ホームの職員などを経て、川崎市内にある今の事業所を立ち上げました。32歳の時です。
看取り期にケアマネの“力量”が試される
―宗教者としての経験や知識が、ケアマネの業務に生かされていると感じることはありますか。
哲学や人間観、世界観でしょうか。ケアマネにとって、死生観は大切だと思います。看取り期になると、人間観であるとか経験値であるとか、その人の“力量”が出ます。看取りって結局、自分の死生観の現れなんですよね。
私たち宗教者は、死を見詰めることによって、命に限りがあることを知り、一人ひとりに尊厳があることに気付いてほしいと考えています。死を意識することで、その方をかけがえのない存在だと捉えられるようになる。そうなると、見える世界ががらりと変わり、ご本人やご家族との関わり方も変わってくると思います。
―ご利用者が亡くなると、事業所の中で葬儀をやるそうですね。
記念会をやる時もあります。デイサービスで亡くなった場合は、葬儀をしてから火葬する時もあります。事業所から少し離れたところにお墓もあります。葬儀は、キリスト教の方式でやってほしいという方もいますし、宗教は何でもいいという方もいます。
宗教色はそれほど強くありません。葬儀はグリーフケアにもなります。その方の人生は、葬儀によって社会化するからです。一方的に終わるんじゃなくて、みんなで思い出を語り合う。そして、「見えないけれど、死後の世界があって、向こうで会えるんだよ」と確認するんです。私は職員にいつもこう言っています。「向こうの世界に行った時、『ありがとう!』と言われる存在を目指そう」と。
―最近では、一人暮らしの高齢者による孤独死も増えています。
だからこそ、地域でつながっている実感を持ってもらうことが大切なんです。介護職員とつながっているとか、デイサービスの仲間とつながっているとか、そういった「つながり」を持つと、すごく安心すると思います。
死ぬということは、その方の最後の“役割”でもあります。多くの方が病院で亡くなる中、今、死に際に立ち会ったことがない方が大勢いる。そこに、自分が死んでいく様を見せる、教えるといった役割が生まれるのです。
私は、「死に価値がある」と考えることが、福祉の視点だと思います。死というのは、ギリシャ語で「完成」や「目的」を意味します。死によって、その方の生が完成する。そういう視点で捉えると、死に対する見方が変わりますし、それこそが福祉的視点です。
宗教者は社会資源の一つと捉えよ
―この春の制度改正では、地域共生社会の実現に向けた制度の見直しが行われました。ご利用者の人生の最終段階で、ケアマネは今後、どのような役割を果たすべきだとお考えですか。
ケアマネは地域共生社会のハブ、つなぎ役になるべきだと思います。これからの時代は民生委員のように、地域のことをよく知っている、地域に根を下ろしている存在が、とても重要になるでしょう。ケアマネは、ケアプランを作るために地域と連携するのではなく、地域を豊かにし、文化を創っていく。「ケア文化」「共生文化」ですよね。これを実現させるためにケアマネがすべきことは、地域を掘り起こし、地域とつながることです。
私は、宗教者を社会資源の一つとして捉えてほしいと考えています。何も、ケアマネが宗教者になる必要はありません。宗教者とつながりを持つことが大切なのです。そして大いに使ってほしい。病院や介護サービス事業所だけが社会資源ではありません。「社会資源として宗教を使いましょう」と、声を大にして言いたいし、それが看取りを豊かにすると思います。
仏教にしてもキリスト教にしても、長い歴史があります。ケアマネは、資格が出来てから20年も経っていない“新参者”です。だからこそ、地域の資源に頼ればいいのです。
利用者の死生観について知る努力を
―ケアマネは、どのようにして宗教者とつながりを持てばいいのでしょうか。
ご利用者の死生観について知る努力をしてほしいと思います。例えば、どんな宗教を信仰しているのか聞いてみる。檀家のお寺があるのならば、そこへ行って、その方がどういう人なのか、住職に尋ねてみる。そうすることで、宗教者との関わり方も見えてくるでしょう。
―多死社会の中で、ケアマネがご利用者の死に深く関わるようになると、ケアマネに対するグリーフケアも必要になると思います。
グリーフケアが必要な背景には、一人ひとりが死生観を持っていないことがあります。だから、死に直面するとパニックになる。「こうしましょう」という技術論の話はたくさんありますが、結局は、死生観が無いから、無力感にさいなまれるのです。まず、ケアマネ一人ひとりが死生観を持つことが大切です。
プロとして、後悔はたくさんあると思います。もちろん、それはそれで大事です。一方で、「『向こうでまた会おう』『ありがとう』と言われたよね」とか、ご本人の声を届け、“死の意味付け”をするのもケアマネの仕事です。
永六輔さんは、「人間は二度死ぬ」と言っています。1回目は肉体的な死、そして2回目は、記憶からの死です。多くの方に支えられながら、看取り期にたくさんの思い出が残った。それが死んだ後も生き続ける、それこそが福祉の視点です。肉体が無くなった後、故人とのつながりを自覚することは、グリーフケアにもなります。
この方が歩んできた道を完成させるためには何をすればいいのか―。こうした視点もケアマネに必要だと、看取り介護の利用者は問いかけていると思います。
- 佐々木炎(ささき・ほのお)
- 1965年静岡県生まれ。聖隷学園福祉医療ヘルパー学園(現聖隷クリストファー大介護福祉専門学校)、聖契神学校、日本社会事業学校専修科を卒業後、特別養護老人ホームの職員やプライベート介護を経て、98年11月に宗教法人「ホッとスペース中原」を設立、「中原キリスト教会」を開設した。2009年4月にNPO法人となり、代表に就任。現在、主任介護支援専門員として現場に携わり、スピリチュアルケアやグリーフケアの実習生を引き受けながら、東京基督教大や上智大などで講師も務める。
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