

CMO特別インタビュー
※この記事は 2018年1月31日 に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
AIでケアマネジメントは進化する/岡本茂雄(株式会社シーディーアイ 代表取締役社長)【前編】
- 2018/01/31 09:00 配信
- CMO特別インタビュー
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ケアプランの作成にAI(人工知能)を活用した実証プロジェクトが昨年11月、愛知県豊橋市で始まった。2009年度から8年分、およそ10万件にも上る介護保険のデータをAIに学習させ、同市内のケアマネジャーの協力を得ながら、約200人のケアプランを作るという日本初の試みだ。このプロジェクトを進めるシーディーアイ(東京都中央区)の岡本茂雄社長は、「AIと連携することで、ケアマネジメントは進化する」と強調する。岡本社長に話を聞いた。
「AI×介護」の可能性を語る岡本社長
―介護分野におけるAIの可能性について、どのようにお考えですか。
自動運転の世界では、AIを活用した技術開発が進んでいます。タクシーのように、乗り降りの要素が加わると話は別ですが、ただ目的地まで移動するという意味においては、人間の代わりの機能を果たしつつあります。
でも、介護は自動車の運転とは異なります。医療には「治療」という共通の目的があるので、科学的な目標を立てることができますが、介護の世界に公式はありません。「良いケアプランとは何か」という定義は、利用者やご家族の考え方や置かれた環境によって違うのです。
ケアプランにおいて、利用者の自立支援は重要な視点ですが、家族というコミュニティーを崩壊させてもいけません。医学や看護学の視点だけでなく、心理学、あるいは経済的な要素など、さまざまな点に配慮する必要があるのです。ケアマネは、利用者の尊厳を中心に据えつつ、家族のニーズも踏まえて最終的な"ゴール"を考える。さまざまな方面に目配りし、最適なバランスを取っています。
こう考えると、少なくとも現時点で、AIが単独でケアマネジメントを行うのは不可能ですが、それでは、AIが全く役に立たないかといえば、それは違います。地域にどれだけのサービスがあって、どのようなサービスと組み合わせれば、IADL(手段的日常生活動作)が改善するのか。これはある意味、知識量の多さと経験で決まります。ここで、圧倒的な計算処理能力を持つAIの出番となるわけです。
現在、パソコンを使わずに仕事をする人はほとんどいません。おそらくこれからの時代、AIはケアマネにとって最良の"武器"になるでしょう。AIを使うことで、これまでよりも進化したケアプランを作ることができる。今後、人間とAIによる"ハイブリッド型"のケアマネジメントが主流になっていくでしょう。
ただ、AIだけが進化しても駄目です。スマートフォンによって仕事の進め方が変わったように、ケアマネ自身がAIを活用し、ケアマネジメントの業務を進化させる。AI活用型のケアマネジメントを発明するのも、それを進化させるのも、現場のケアマネでなければなりません。
従来のケアマネジメントは、利用者の生活を見て、どこに課題があるかを調べ、それを解決へと導く「課題解決型」でした。例えば、朝起きて、顔を洗って、服を着替えて、トイレへ行き、ご飯を食べるという一連の流れを助けるのが「モーニングケア」ですが、これまでケアマネは、それぞれの場面に応じた課題を解決するためのケアプランを作っていた。でも、それが自立支援につながるかどうかは疑問です。
なぜ、オリンピックの選手がすごい記録を出せるかと言えば、自分の能力以上の"負荷"をかけて、日々トレーニングをしているからです。「歩行が困難なので、車いすに乗る」という発想では、自立に向けて無理に脚を動かそうとは考えないでしょう。「少し時間がかかってもいいので、動ける時は動きましょう」と提案できるのが、AIを活用した「将来予測型」のケアマネジメントです。
私たち人間は、未来を見通せないと努力を継続できません。介護は、意欲による影響が特に大きい分野ですが、「半年後にこうなる可能性が高い」といった科学的な将来予測が一般的ではありませんでした。例えば、一日2回トイレまで歩けば、1年後に3、4回は歩けるようになるなど、機能回復の"見える化"ができるようになれば、リハビリをする方も頑張れると思います。
AIのデータの"チューニング"が重要
―実証プロジェクトでは、どのようにAIを活用しているのでしょうか。
実証プロジェクトでは、身体機能・生活機能や疾患名等を入力すると、AIが自立支援に向けた最良のサービスの組み合わせを提案します。これを利用者やご家族の意向や置かれた環境といった個別状態に応じた修正を行い、ケアプランを作ります。
―機能回復には、家庭環境などの外部要因もあると思いますが、実証プロジェクトでは、その点もAIに学ばせているのですか。
現時点で、家族の状況は学ばせていませんが、将来的には対象に加える予定です。よく誤解されるのですが、ビッグデータがあるからといって、AIが勝手に、要領良く学んでいくわけではありません。むしろ、どのようなデータを、どのように学ばせるかが、成功のかぎを握ります。
処理速度だけを競うのであれば、米国が世界をリードしています。ヘルスケアや介護の分野で日本が優位に立てるのは、AIにどのようなデータを学ばせれば良いのかという、ある種のノウハウがあるからです。例えば、同居する家族がいるからといって、介護がうまくいくとは限りません。AIに学ばせるデータの“チューニング”こそが最も重要です。
- 岡本茂雄(おかもと・しげお)
- 1983年に東大医学部保健学科を卒業後、株式会社クラレに入社し、介護ショップ事業の立ち上げに従事。その後、株式会社三菱総合研究所、明治安田生命保険相互会社、セントケア・ホールディング株式会社で介護分野における新規技術の開発とその事業化に一貫して従事。2017年に株式会社シーディーアイを設立して代表取締役社長に就任。自立支援型介護の実現を目指し、ケアプランを作成する人工知能の開発・事業化に取り組んでいる
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