小濱道博の介護経営よもやま話小濱道博の介護経営よもやま話

小濱道博の介護経営よもやま話

居宅の「黒字」の裏に潜むケアマネの業務負荷増大

厚生労働省は先月26日、「令和7年度介護事業経営概況調査」の結果を公表した。

これを見ると、居宅介護支援事業所の経営は一見、安定しているかのように映る。

令和6年度決算における1事業所当たりの収入は月142.2万円、支出は月133.3万円で、差し引き8万9千円、収支差率(利益率)6.2%の黒字である。

しかし、この数字の背後には、ケアマネジャーが日々実感している深刻な問題が隠されている。

担当件数の増加が示す現場の実態

最も注目すべきは業務負荷の急増である。

1事業所当たりの実利用者数は月116.5人で、令和4年度の月104.7人から大幅に増加。ケアマネジャー1人当たりの担当件数は月48.4人で、こちらも4.4人増えている。ところが、実利用者1人当たりの収入は月1万2206円で、こちらは709円減少している。

利用者数は増えているにもかかわらず、1人当たりの単価は下がるという逆転現象が起こっているのである。

これは、利用者数を増やすことで事業所の収支を維持しようとした結果、一人ひとりの利用者に提供できるサービスの質が相対的に低下している可能性を示唆している。

小規模と大規模の“経営格差”も

事業所規模による“経営格差”も明確である。

実利用者数40人以下の小規模事業所では、月額収支がマイナス8千円の赤字経営に陥っている一方、実利用者数201人以上の大規模事業所の月額収支は35万7千円、収支差率9.2%と健全である。

大規模事業所では、ケアマネジャー1人当たりの担当件数が月53.1人と、平均の48.4人を大きく上回っている。これは、ケアマネジャーに過重な業務負荷を課すことで高い収益性を実現していると考えられる。

この53.1人という数字は、個々のケアマネジャーが実際に担当する利用者数ではなく、事業所全体の「実利用者総数」を「常勤換算の介護支援専門員数」で除した平均値である点に注意が必要ではある。

しかし、大規模事業所が制度の許容範囲内で、「1人当たりの業務負荷の最大化」を図っている現実を定量的に示しているといえるだろう。

小規模は悪循環に陥っている?

ただし、この担当件数を単なる「過重労働」以外で実現している可能性にも目を向けるべきである。

大規模事業所は、小規模事業所に比べて資金的余裕があり、ICT化やAI活用への投資が可能である。ケアプランデータ連携システム、記録業務の電子化、利用者情報の一元管理、AIによるアセスメントやケアプラン作成支援など、テクノロジーの活用で業務効率を大幅に向上させている可能性が高い。

実際、ケアプラン作成にかかる時間は、従来の紙ベースとICTの活用とでは大きく異なる。

AI搭載型のケアプラン作成支援ツールを使えば、アセスメントデータの入力から課題抽出、サービス提案まで、従来の半分以下の時間で完了できる場合もある。また、利用者の状態変化をリアルタイムで把握できるシステムがあれば、モニタリングの効率も飛躍的に向上するだろう。

一方、赤字経営の小規模事業所はICTに投資できないため、生産性が上がらず、結果として経営がさらに苦しくなるという悪循環に陥っている可能性がある。

すなわち、ICT化などで業務を効率化できる大規模事業所と、そうした投資余力のない小規模事業所との間に格差が生まれているのである。

大規模事業所の53.1人という数字は、単なる「過重労働」だけでなく、「テクノロジー活用による効率化」と「小規模事業所とのデジタル格差」という2つの意味も併せ持つ。今後の制度設計の際は、小規模事業所へのICT導入支援を強化し、規模によらず質の高いケアマネジメントを提供できる環境を整備することが不可欠である。

収支差率だけで安易な判断は禁物

「介護事業経営概況調査」には構造的な問題もある。居宅介護支援の有効回答率は39.3%で、全体の46.2%よりも極めて低く、経営が厳しい事業所ほど調査に回答していない可能性が高い。実際の経営状況はさらに厳しいことも考えられるだろう。

加えて、事業所の収支を大きく左右する特定事業所加算の取得状況が詳細に分析されていない。法定研修の負担やICTの導入状況、管理者の兼務状況といった、経営に直結する重要な要素についても同様である。

収支差率6.3%という表面的な数字だけで「経営は安定している」と安易に判断してはならない。

2027年度の介護報酬改定に向けては、小規模事業所の赤字経営、ケアマネジャーの業務負荷増大、業務の効率化とケアの質のバランスという構造的課題に正面から向き合う必要がある。具体的には、小規模事業所への基本報酬の引き上げ、適正な担当件数の設定、ICT活用への財政支援の強化が求められる。

居宅介護支援事業所は地域包括ケアシステムの要であり、ケアマネジャーが疲弊せず、質の高いケアマネジメントを提供できる環境整備こそが、介護保険制度の持続可能性を左右するといえる。

小濱道博
小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。

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