弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
「いざ」という時に備えて―まずやるべきはじめの一歩-「見える化」の大切さ
- 2025/11/27 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 武田竜太郎
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前回では「後継者を確保する重要性」についてお伝えしました。しかし、後継者が決まっても、その方が現場の実態や業務内容を十分に理解できなければ混乱が生じ、利用者や関係者に迷惑をかけるおそれがあります。
そこで今回は、事業承継の最初のステップとして、事業所の「見える化」について解説します。
事業継承に向け、忘れてはならない3つの視点
居宅介護支援事業所では、利用者との契約、行政手続、加算要件の確認・維持、職員の雇用、財務の管理など、多様な業務が複雑に絡み合っています。これらを整理しないまま事業運営を承継しても、利用契約書の更新漏れや契約内容と実際の支援内容の不一致、届け出や体制不備による報酬返還、リーダー・幹部職員の退職など、現場に深刻な影響を及ぼす問題が発生する可能性があります。
そのため、事業承継を見据える際には、事業所運営の基盤となる「経営」「財務」「人事」の3つの視点から、事業所の状況や業務の流れを誰でも理解できる形で整理し、いつでも後継者や残された職員がこれを共有できる状態にしておく必要があります。
つまり、経営や財務、人事の「見える化」が極めて重要なのです。
「経営の見える化」のために―「所長にしか分からない」をゼロにする
事業所が突然止まってしまう最大の原因は、「経営に関する情報が所長だけの頭の中にある」 という状況です。
例えば、読者の皆様の事業所でも、以下のようなことが起きていないでしょうか。
- 行政への書類の届出期限や必要な届出書類を所長しか把握していない
- 地域の医療機関・地域包括支援センター・訪問介護事業所やデイサービスとの連絡窓口や担当者が曖昧
- 銀行やリース会社、家主、顧問税理士や顧問弁護士等の連絡先が分からない。契約書の保管場所も不明確。
- 苦情対応や事故対応の流れなどがマニュアル化されていない
このように必要な情報が見えていない状態で承継が行われると、後継者は何から始めればよいのか判断できず、スムーズな運営が難しくなります。その結果、現場も混乱し、職員や利用者にしわ寄せが生じる可能性があります。
「経営の見える化」で最初に作るべきもの
経営者が把握している利用者との契約書や取引先の連絡先などの情報は、まずエクセルシートなどで一覧化し、ひと目で全体像が分かるように整理します。特に、所長だけが把握している情報は、徹底的に洗い出し、誰でも引き継げる状態に整備することが重要です。
具体的には、次のような情報をまとめておくと効果的です。
- 利用者や家族との契約書(変更に関する契約書やその他の覚書も含め)、重要事項説明書の保管場所
- 承継の際に同意が必要な利用者リスト(特にコミュニケーション上の配慮や丁寧な説明が求められる利用者・ご家族等)
- 初回面談・契約からモニタリング等の業務フロー・マニュアル
- 医療機関、地域包括支援センター、行政担当者、主要な訪問介護・訪問看護事業所など関係機関の連絡先一覧
「財務の見える化」のために―事業所の「健康状態」を知る
次に重要なのが「財務の見える化」です。居宅介護支援事業所は、決して利益率が高い事業ではありません。そのため、財務状況が曖昧なまま承継を進めると、「後継者が決まっても、引き継いでみたら経営が想像以上に厳しい」「数字が見えず不安で、そもそも後継者が見つからない」といった事態になりやすくなります。
次の数字だけでも把握しておくと、財務面から見た事業所の健康状態が分かるようになります。
- 月次の売上の内訳(利用者数、売上の推移)
- 月次の経費の内訳(特に人件費がどれくらい占めているか)、固定費の一覧(家賃・車両・システムなど毎月必ずかかる費用)
- キャッシュの残高(何ヶ月分の運転資金があるか)
これらを整理しておくことで、「あと何人ケアマネを採用すれば黒字体質が安定するか」「どの固定費を見直すと経営が楽になるか」といった判断を、後継者と共有できるようになります。
財務が整理されると「承継先」が見つかりやすくなる
前回の連載では、事業所の事業承継には「親族内承継」「従業員承継」「外部承継」という3つの方法があることをご説明しました。いずれの方法を選ぶ場合でも、後継者が必ず確認するのが事業所の財務状況です。事業所の数字が整理されていれば、後継者の不安が減り、話が前に進みやすいといったメリットが生まれ、承継がスムーズに進みます。
「人事の見える化」のために―利用者支援を止めないための「チームの見える化」
そして事業承継で最も大切なのが、人の問題です。後継者がやる気を持って事業所を引き継いだとしても、そこで働くケアマネや職員のことを十分に理解できなければ、現場では働きづらさが生まれます。その結果、離職が発生し、最終的には利用者の流出を招くおそれがあります。
そこで必要になるのが、「人事の見える化」、つまり、各職員のことをよく理解して、チームとしての働き方を共有できる状態にすることです。
次のような内容を一覧化しておくと、チームの強みや課題がひと目で分かり、後継者も短期間で事業所の体制を把握できます。
- 各ケアマネの担当件数・担当者の特徴(得意分野/苦手分野)
例:生活保護に関する知識が豊富、加算の算定要件や手続きに詳しい、家族調整が苦手等 - 業務分担の状況
例:計画作成、モニタリング、苦情対応、緊急時対応などの業務分担があれば、その内容 - 研修履歴の整理
例:更新研修・主任研修の受講状況や今後必要な研修 - 働き方の希望や負担感の可視化
例:時短希望、訪問件数の負担感、リーダーへの昇進意欲など
こうした情報をまとめておくことで、「誰にどの業務を任せれば事業所が安定して回るか」「各職員の満足いく働き方は何か」という点を後継者が短期間で理解でき、利用者支援が途切れません。
人事の情報が整理されていることは、承継後の混乱を防ぐだけでなく、今いる職員が安心して働ける「強いチームづくり」にもつながります。
事業承継の第一歩に、特別な手続きや専門知識は必要ありません。今日から始められる 「経営」「財務」「人事」の3つの見える化を進めるだけで、「もし所長が急に不在になったら…どうしよう」という不安が、「誰が担当しても事業所は回る」という安心へ確実に変わります。

- 武田竜太郎
- おかげさま横浜法律事務所所属の弁護士・公認会計士試験合格者。介護業界に珍しく、大手法律事務所で企業法務・M&Aに従事し、不動産会社での社内弁護士経験や公認会計士試験に合格し監査法人勤務経験を有し、外資系法律事務所での実務を経て、現職。2025年には介護職員初任者研修を修了し、法務・会計の専門知識と現場理解を兼ね備え、介護・福祉事業者の支援に取り組んでいる。
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