弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
「いざ」という時に備えて―事業継承を始める前に―知っておくべきイロハのイ
- 2025/10/29 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 武田竜太郎
-
「事業承継なんて、まだ先の話」-。そう思っていませんか?
しかし、居宅介護支援事業所において「いざ」という日は、ある日突然やってきます。所長の急病や主任ケアマネの突然の退職……。どの事業所でも、いつでも起こりうる現実です。
事業承継は、人が亡くなったときの相続と同じで、どの事業所にも必ず訪れる未来です。「まだ元気だから」「うちは小さいから関係ない」と考えていても、所長の病気や事故、家族の介護、主要職員の退職など、承継を考えるタイミングは必ずやってきます。
今回は、「イロハのイ」として、今から備える最低限の準備を、事業承継のコンサルティングも行っている筆者から解説します。
事業承継のための準備~そもそも、後継者いますか?~
当然ですが、事業承継をするには、引き継ぐ相手=後継者がいなければ始まりません。社内・社外を問わず、後継者の存在は事業継続のカギです。
逆の言い方をすれば、後継者がいないことは、経営上の大きなリスクとも言えます。
実際、私の顧問先の中にも、後を継ぐお子さんがいなかったり、経営を任せられる従業員が見当たらなかったりといった理由で、事業承継を断念し、最終的に廃業を余儀なくされたケースがあります。その結果、長年勤めてきた職員や利用者に不安を与えてしまうことにもなりました。
したがって、居宅介護支援事業所が事業承継を検討する際には、まずは後継者候補に目星をつけることが第一歩です。
親族、職員、あるいは外部の第三者…どの方向性が現実的なのかを早めに考えるだけでも、事業の未来は大きく変わります。
事業承継の3つの方法とは
「事業承継」といっても、「誰に引き継ぐか」によって進め方が大きく異なります。
代表的な3つの方法と、そのメリット・デメリットを紹介します。
【1】親族内承継
後継者を経営者の親族から選び、経営を引き継ぐ方法です。
- <メリット>
- 組織文化の維持がしやすい。
- 既存の運営方針を継続しやすく、従業員や既存の取引先との関係を維持しやすい。
- 利用者やその家族にとっても安心感がある。
- <デメリット>
- 適任者がいない場合がある。
- 親族内にこだわることで能力のない人に任せてしまう危険性がある。
【2】従業員承継(役員・職員承継)
他の役員や幹部職員が運営の責任者となる形で承継する方法です。親族内に適任者がいない場合に、この方法を選択するケースが多いです。
- <メリット>
- 現場をよく理解しているため、スムーズな承継が可能
- 従業員や既存の取引先との関係を維持しやすい。
- 利用者やその家族にとっても安心感がある。
- <デメリット>
- 経営者としての資質があるとは限らない。
- 株式会社の場合、オーナーから株式を取得するために、多額の資金が必要になる場合もある。
【3】外部承継(事業譲渡)
親族や従業員に適任者がいない場合、外部の知り合いなど第三者に経営を引き継ぐ方法です。特に近年、居宅介護支援事業所では、この方法による承継が増加しています。
- <メリット>
- 同業他社が承継するケースが多く、適切な後継者を見つけやすい。
- 承継先が大手の場合、事業の安定化や効率化が図られる可能性。
- 事業を売却することで、経営者は引退後の資金の確保が可能(退職金等の方法)。
- <デメリット>
- 承継先の方針によっては、サービス内容や運営方針が変わる場合もある。
- 経営者の交代により、利用者や職員に不安が生じるケースもある。
事業承継までのプランニングを紙に書きだしてみる
ざっくりでも構いませんので、「誰に」、「いつ」、承継するのかを、まずは紙に書き出してみることが大切です。
例えば、次のように5年先までの見通しを作ってみましょう。
所長と後継者候補のそれぞれの年齢や役職、承継の時期や社内や金融機関・取引先への報告のタイミング等を並べてみるだけでも、今後の道筋が見えてきます。計画は完璧でなくて構いません。まずは、書くことで、「最初の準備」が始まります。

まとめ―「まだ早い」と思える時期こそが最大のチャンス
事業承継を始める前に知っておくべき「イロハのイ」は、まず「誰に・いつ・どのように引き継ぐか」をあらかじめ想定しておくことです。
この想定があるかないかで、事業所の命運が大きく分かれます。例えば、所長が突然の病気や事故で不在になった場合でも、後継者が決まっており、あらかじめ引き継ぎの準備ができていれば、利用者対応や行政手続きなども滞りなく進めることができます。
一方で、何の想定もないままでは、誰が判断・対応すべきかが曖昧になり、現場や利用者に混乱が生じるおそれがあります。
今のうちから「誰に任せたいか」「いつ頃交代するのか」「どのような形で引き継ぐのか」を具体的に描いておくことが欠かせません。
「まだ早い」と感じる今こそが、最も冷静に準備を進められる時期であり、将来の混乱を防ぐ最大のチャンスなのです。

- 武田竜太郎
- おかげさま横浜法律事務所所属の弁護士・公認会計士試験合格者。介護業界に珍しく、大手法律事務所で企業法務・M&Aに従事し、不動産会社での社内弁護士経験や公認会計士試験に合格し監査法人勤務経験を有し、外資系法律事務所での実務を経て、現職。2025年には介護職員初任者研修を修了し、法務・会計の専門知識と現場理解を兼ね備え、介護・福祉事業者の支援に取り組んでいる。
スキルアップにつながる!おすすめ記事
このカテゴリの他の記事
こちらもおすすめ
ケアマネジメント・オンライン おすすめ情報
介護関連商品・サービスのご案内
ケアマネジメント・オンライン(CMO)とは
全国の現職ケアマネジャーの約半数が登録する、日本最大級のケアマネジャー向け専門情報サイトです。
ケアマネジメント・オンラインの特長
「介護保険最新情報」や「アセスメントシート」「重要事項説明書」など、ケアマネジャーの業務に直結した情報やツール、マニュアルなどを無料で提供しています。また、ケアマネジャーに関連するニュース記事や特集記事も無料で配信中。登録者同士が交流できる「掲示板」機能も充実。さらに介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネ試験)の過去問題と解答、解説も掲載しています。



