弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

ご利用者の入院時に医療同意を求められたら

医療ニーズの高い利用者は、在宅での生活をベースとしつつも入退院を繰り返すことも多く、担当するケアマネジャーにとっては、病院側との連携が重要となります。高齢になるほど突然容体が悪化するリスクも高まり、緊急入院も想定しておかなければなりません。

そうした中、延命措置などに関する意思決定(医療同意)が必要となったとき、誰が同意書に署名するかという問題が生じることがあります。そして、ご利用者の状況によっては、担当のケアマネが代わりに同意を求められたりすることも…。今回はそのような場合の対策について解説します。

利用者が緊急入院!…内縁の妻よりケアマネが医療同意にふさわしい?

利用者Aさん:82歳。要介護1、認知症は無し。排泄・食事は自立だが嚥下に問題がある。自宅のアパートでは福祉用具、訪問介護、リハビリデイを利用。最近重い誤嚥性肺炎により意識を失い、緊急入院が必要となった。離婚歴があり、前妻との間に子(長男)がおり、現在は連絡を取っていないが携帯電話の番号は知っている。前妻は昨年他界している。

内縁の妻Bさん:71歳。パートで働いている。Aさんと同居し、身の回りの世話をしていた。利用者の子どもとは没交渉。

Aさんの長男:47歳。利用者とは離れたところで生活。不倫をして妻と離婚した利用者を恨んでいる。Aさん、Bさんとはここ数年間やり取りしていない。

延命措置の同意ができる人がおらず、病院での手続きが進まず困っています。
ご利用者のAさんは10年前に奥様と離婚しました。離婚の理由は、今の内縁の妻との不倫だとか。ご長男もいましたが、そのときはもう成人していました。

ご長男は、Aさんが老いらくの恋の挙句、長年連れ添った妻をあっさりと見捨てたことに怒り心頭で、Aさんを憎んでいます。「離婚は母さんがかわいそうだから認めるけど、その女との結婚は、家族として認めがたい」と言い続けてきました。そのため、現在もご利用者は、元不倫相手=現在の内縁の妻と、同居はしていますが籍は入れていません。

ところが先日、Aさんが重い肺炎を発症。意識を失った状態で病院に緊急搬送されました。

自分も連絡を受け慌てて病院に駆け付けましたが、ここで困ったのが、病院側から「本人は意識がはっきりしないし、内縁の妻では医療に関する同意を取る相手としてふさわしくない。命も危ない状態だし、とりあえず入院は受け入れますが、今後の処置については、ケアマネさんに同意などをお願いできませんか?」と言われたこと。

「医療同意についてはケアマネに判断を求められても困ります」と強く言い、なぜ、内縁の妻ではダメなのか、息子に連絡を取れないのかと聞いたのですが「内縁ではねえ…。息子さんもここ数年連絡を取っていないようでしたら、今、連絡したところで拒否されることは目に見えていますし」と言いよどむばかり。

どう考えても、病院側は頼みやすい相手である私に押し付けようとしているとしか思えない状況です。本当に内縁の妻では、医療行為に関する同意はできないものなのでしょうか。

A 少なくともケアマネは同意できません!

これは、“現場あるある”かもしれませんが、ご認識のとおりケアマネの立場でAさんに代わり同意をすることはできません。

この点、いわゆる医療同意権というものについてわが国では現状明確な法整備がなされていないのですが、医療における自己決定権(医療同意権)は、「幸福追求権を定める日本国憲法第13条により保障される一身専属権」(患者本人のみが行使でき、他人に移転しない権利)とされています。その観点から、成年後見人ですら医療同意権が与えられておらず、家族が代諾者として医療行為に同意する場合には,家族固有の意思ではなく患者本人の意思を推測して同意(または不同意)をなすべきであると考えられています。

そのような思想のもと厚生労働省が策定したのが、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」です。その中で「本人の意思が確認できない場合」は「家族等が本人の意思を尊重し、本人にとっての最善の方針を採ることを基本とする」とあります。

本件では、ご長男に連絡を取り延命等について意思表示してもらうことは望み薄であるといえるでしょう。ですが、だからといって最初から諦めてはいけません。病院はご長男に一度は連絡し、意思確認の努力をすべきといえます。

その上で予想通り意思表示を得られないようであれば、内縁の妻Bさんの意向を確認すべきかを検討します。本件のような内縁関係(事実婚)の場合、法律上の配偶者とは異なり、医療行為に対する同意権は原則として認められません。医療機関によっては、内縁関係を証明する書類の提示を求めたり、本人の意思確認が難しい場合に同意を拒否したりする場合があります。

本件でも、どのくらいの期間同居しているのか、生活の実態が夫婦と変わらないかといったことを確認した上で、最後は病院の判断に委ねられます。その結果、Bさんの意向を聞き入れる可能性もあります。

ただ、たとえ、それが認められないからといってケアマネに委ねるのは明らかに間違いです。ケアマネは介護保険上、利用者の生活をコーディネートするために関係機関と連絡調整することが主たる業務であって、自身が利用者にかわり同意などを担う立場には元々ないためです。

こうした模索を経ても同意すべき人がいないときは、病院としては先ほどのガイドラインに従い「本人にとって最善の方法」を医療・ケアチーム間で協議し見出すことになります。

これから家族やパートナーの形も、より多様化していくことが予想され、いざというときに困らない様手を打っておくことが重要になるでしょう。内縁関係にあるカップルは、事前にパートナーシップ契約書や医療同意書を作成したり、任意後見制度を利用したりして医療に関する意思を明確にしておくことが望ましいといえます。そして、周囲の支援者が、そのようなアドバイスまでできれば素晴らしいことと思います。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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