

結城教授の深掘り!介護保険
今度こそ実現か?!ケアマネの賃上げ、その動向を先読みする
- 2025/06/24 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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最近、各地のケアマネ関連団体に加え、日本介護支援専門員協会までがケアマネジャーの「賃上げ」を目指し署名活動を開始した。そして、石破茂首相は介護報酬の引き上げの必要性に言及している。こうした業界・政界の動向を概観すると、今度こそケアマネへの「賃上げ」が実現する機運が高まっているようにも思える。だが本当にケアマネの「賃上げ」は実現するのだろうか。もし、実現するとしたら、どのタイミングで、どのような形となるのだろうかー。今回は、どうしても気になるケアマネの賃上げについて予測したい。
予測その1-次期介護報酬改定まで「ケアマネ」の賃上げはない!
6月13日閣議決定した『25年骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2025)』で、は「医療・介護・保育・福祉等の人材確保に向けて、保険料負担の抑制努力を継続しつつ、公定価格の引上げを始めとする処遇改善を進める」「医療・介護・障害福祉の処遇改善について、過去の報酬改定等における取組の効果を把握・検証し、2025年末までに結論が得られるよう検討する」と明記された。
明記されている割には、何をいつまでにやるのか、はっきりしない。まさに、霞ヶ関文学そのものの文章である。
少し骨が折れるが、この意味不明の言葉を読み解いてみよう。
「過去の報酬改定等における取組の効果を把握~」という文言は、現在の「処遇改善」のみを対象としていると認識できる。さらに、「保険料負担の抑制努力を継続~」と書かれている点は、今の処遇改善の枠組み以上の取り組みをするつもりはない、と宣言しているといえる。
ケアマネの処遇改善について具体的に述べられていないことまで思い合わせれば、骨太の方針からは、次のような結論が導き出される。
「26年4月に介護報酬臨時改定引き上げが実現したとしても、それらは介護職員を対象としたものであって、ケアマネは対象外」
予測その2-ケアマネの賃上げ、プラン有料化とセットに?
ならばケアマネの賃上げが実現するとしたら、いつのタイミングなのか―。私は、ケアマネの賃上げが実現されるのは、2027年度の介護報酬改定の時期と考えている。
同時に、賃上げの実現には、重い条件が付けられるのではないか、と危惧してもいる。
重い条件とは他でもない。ケアマネジメントへの自己負担導入(ケアプラン有料化)である。つまり国は、利用者自己負担導入から財源を捻出し、ケアマネの賃上げを実現しようとするのではないか、と予想している。
これまで国は、介護職員等処遇改善加算などを通じ、処遇改善のための予算を大盤振る舞いし続けてきた。そして、介護人材不足の実情を思えば、27年度以降も、これまでの制度を維持することは不可欠だ。いや、むしろより豪快に介護職員の処遇改善に予算を付けなければならないだろう。
その上で、ケアマネの賃上げも…となれば、相応の財源を確保しなければならない。
例えば、「第2号被保険者の対象年齢を40歳以上から30歳以上に引き下げる」や「介護保険財源の公費負担割合を引き上げる」など、思い切った施策が導入されれば、介護職員への大盤振る舞いも、ケアマネの賃上げも両立できるだろうが、残念ながら、そうした動きはない。
だが、ケアマネの賃上げも待ったなしの状況だ。それができなければ、今でも深刻なケアマネ不足は、さらに壊滅的となり、「ケアマネ難民」が全国で一気に増加するだろう。
さすがに国も、その点は認識しているはずだ。だが、賃上げをしたくても、その財源を確保するのは簡単ではない。そこで、新たな財源確保=ケアプラン有料化に踏み切るのではないか、と予測されるのだ。
なお、23年度における居宅介護支援費の給付費は約5300億円(表参照)。他の在宅サービス系と比べても一定程度の給付費額となっている。仮に、ケアマネ1割自己負担が導入されるとしたら、約500億円の財源が工面できることになる。27年度はさらに給付費額が増えているため、全額は難しくとも400億円程度がケアマネの処遇改善に使われれば、それなりの賃上げが期待できるだろう。
予測その3-賃上げは「新たなケアマネ処遇改加算」で?
さらに、ケアプラン有料化による財源を用いたケアマネの賃上げは、どのような「姿形」について、少し予測する。
あり得る選択肢としては、「基本報酬の大幅引き上げ」や「介護職員等処遇改善加算に居宅介護支援を含める」「新たなケアマネのための処遇改善加算創設」といったところだろう。
私は、ケアプラン有料化とセットでの賃上げであれば、「新たな処遇改善加算創設」の形を取ると予測する。ケアプラン有料化という特定の財源を生かすには、その形が仕組みとして、最もわかりやすいからだ。
そして、加算を算定する要件として「ICT化やDX化」などの生産性向上に関連する取り組みなどが設けられるかもしれない。さらに、「ケアプランデータ連携システム」を活用する居宅介護支援事業所には、処遇改善加算の中でも、特に高い処遇改善が期待できる区分が設けられてもおかしくはないと思う。
だがしかし…「プラン有料化」と「ケアマネの賃上げ」のセット論は避けるべき!
繰り返すが、ケアマネの処遇改善策は喫緊の課題である。
だが、以前のこのコーナーで警鐘を鳴らした通り、「ケアプラン有料化」と「ケアマネの賃上げ」をセットで検討するのは、避けるべきだと思う。
【関連記事】
本当に見送りで決着か?!「ケアプラン有料化」~待遇改善策とセットで議論されるのでは?~
繰り返すが、目先の処遇改善とバータで利用者自己負担導入にケアマネ業界が黙視してしまうと、利用者にもケアマネ自身にも、さらには介護保険制度にも、大きな負の遺産を生んでしまうだろう。この秋から介護保険制度改正の議論が本格化する。現場のケアマネも、職能団体も、ケアプラン有料化×ケアマネの賃上げという「セット論」には、慎重に向き合い、発信すべきことは、思い切って発信してほしい。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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