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本当に見送りで決着か?!「ケアプラン有料化」~待遇改善策とセットで議論されるのでは?~

いよいよ社会保障審議会介護保険部会で、次の介護保険法改正に向けた議論がスタートした。最大のポイントは「ケアマネジメントへの自己負担導入」(ケアプラン有料化の是非)だろう。介護保険制度改正の議論が行われるたびに議論され、そのたび、結論が先送りにされてきたテーマだが、最近、もはや導入はないとする「楽観論」もささやかれている。今月は、改めて、このテーマについて深掘りする。

改めて強調したい「ケアプラン有料化に反対する理由」

展望を論じる前に、私自身のスタンスを明示しておきたい。

ケアプラン有料化には反対である。なぜなら、その導入がケアマネの働く環境の悪化を招く懸念があるからだ。

まず、「集金」という新たな業務がケアマネに課せられ、負担が増してしまうという問題が挙げられる。中には「口座引き落としが主流となるだろうから、業務負担は大したことはないはず」と考える人もいるだろうが、高齢者の中には口座引き落としを嫌い、現金払いを求める人も多い。実際、訪問介護や通所介護などにおいても毎月、現金払いをするケースが珍しくない。既に多忙を極めているケアマネが、わずかでも不慣れな集金業務を強いられることになれば、その労働環境は、ぐっと悪くなるだろう。

第二に、自己負担の導入が、いわゆる「シャドーワーク」を増やしてしまう恐れがある。今でも電球の交換や役所の書類解説、通院同行などといった「シャドーワーク」が問題となっている。そんな中、利用者がケアマネにお金を支払う状況となれば、「金を払ったのだから」と、より多くの雑用をケアマネに押し付けようとする人も増えるのではないか。

第三に、自己負担を嫌がり「セルフプラン」に切り替えるケースが増える懸念もある。「セルフプラン」が増えると、自治体職員や地域包括支援センターの職員の負担が、一気に重くなる可能性が高い。素人が手掛ける実績管理事務ではミスも生じやすく、「不突合」といった返戻が相次ぐことが予測されるからだ。最悪の場合、介護報酬の支払いが滞ることだって、起こり得るだろう。

だが、プラン有料化は「ある」

もちろん、制度設計を担う厚生労働省の役所職員は、その問題点をしっかり把握しているだろう。だがそれでも、2027年度の制度改正で、ケアプラン有料化が実現してしまう可能性は十分にある。

「ケアマネの待遇改善のための財源確保」という“錦の御旗”の下、ケアプラン有料化が実現してしまう恐れがあると思えるからだ。

プラン有料化で期待できる「500億円」の重み

ケアプラン有料化で得られる財源は、決して軽視できる規模ではない。例えば、2023年度の居宅介護支援費(約5356億円)と介護予防支援費(約463億円)を合わせると、約5800億円。単純に1割負担が導入されれば、約580億円の財源が確保できる。「特定事業者加算分は自己負担から除外する」や「定額制として要介護度に限らず1000円負担」とした方策が導入されたとしても、500億円程度の財源効果は期待できるのではないか。

ちなみに半年間、介護職員の賃金を5.4万円引き上げるために必要だった財政規模は806億円。それを思えば500億円という財政があれば、居宅介護支援のケアマネにも、それなりに大きな処遇改善が期待できるだろう。

それだけに、国がケアプラン有料化の大義名分として「確実なケアマネの処遇改善」を掲げたら、案外多くのケアマネが受け入れてしまうのではないか。この10年間、何度となく現場の関係者に取材を続けてきた経験から、そう考えるケアマネは、決して少なくはないと思えるのだ。

処遇改善のためのプラン有料化という「セット論」の危険性

しかし、仮に多くのケアマネが賛意を示したとしても、私は「処遇改善のためのプラン有料化」という「セット論」の実現は避けるべきと考えている。同じ理由で、「介護職員の処遇改善のための2割負担対象者拡大」にも反対である。

理由は単純だ。「セット論」が実現してしまえば、ケアマネや介護職員の処遇改善が果たされる一方で、負担増に伴うサービスの利用控えが顕著になるというリスクも生じてしまうからだ。

今後、介護ニーズの高まりに比例して、ケアマネや介護職員の処遇改善を求める声は、さらに大きくなっていくだろう。その状況で「セット論」を推し進めてしまえば、利用者の負担は、際限なく高まり続けることになってしまう。

処遇改善のためのケアプラン有料化や2割負担の対象者拡大は、持続性を期待できない、一時しのぎの施策である。ケアマネも介護職員も、有識者も厚生労働省の職員も。安易な「セット論」に惑わされることなく、介護保険法改正の議論と向き合い続けてほしい。

結城康博
1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。

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