弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
退職したいのに辞められない…どうすれば?
- 2025/02/28 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
-
人手不足が益々深刻化する中、自分の代わりがいないので、なかなか辞めさせてもらえない…という現場職員の方のお悩みケースが増えています。しかし、待てど暮らせど後釜が見つからない場合、一体いつになったら抜け出せるのでしょうか。事例を基に解説します。
呪いの言葉「あなたに辞められたら困ります」
40代の女性ケアマネジャーです。今の事業所を辞めたいのですが、周りが許してくれません…。私の直属の上司は50代男性主任ケアマネですが、別の職場に移りたいとはっきり告げたところ、上司とご利用者の両方から強く引き止められ、困っています。
家族:妻 80代女性 自分自身のことはできるが、体力も落ちている上、夫との体格差がかなりあるため、夫の介護はほとんどできない
食事の支度や掃除、見守りをしたりすることはできるが、車いすを押すのは難しく、排泄介助も難しい状態。入浴介助はできない
息子:50代男性、同じ町内で両親とは別のマンションで生活している。妻と子ども(1人)あり。共働きで忙しく、月に1、2回しか実家には顔を出さない
子どもの進学に合わせより多くの学費が必要になってくることから、昨年から給与がより高い事業所を目指し転職活動に取り組んできました。
そして半年ほど前、よい縁に恵まれ、年収で50万円ほど高くいただける事業所で働けることが決まったのです。
ところが、退職を上司に伝えると「今、辞められるのは困る!すぐに求人を出すから、なんとか後任が決まるまでは、ここで働いてください」と、土下座せんばかりの勢いで懇願されました。
さらに、その上司から話がいったのか、ご利用者やそのご家族まで「あなたがいなくなってしまうなんて、考えただけで不安で寝られない。あなたに辞められたら困るんです。お願いだから、担当しつづけて」と電話が相次ぐように…。
とりあえず、新たな転職先には「後任が確保できるまで、2か月くらいは時間をくれませんか」とお願いし待ってもらっている状況ですが、もうすぐその期間も過ぎようとしています。それでも、今の事業所は後任を確保できそうにない様子。
先日、改めて上司と話し合った際、「もう先方との約束の期間も過ぎようとしている。後任云々に関わらず、そろそろ、やめさせていただかないと、こちらも、新たな転職先も迷惑です」とはっきり伝えたところ、「このケアマネ不足の状況で、そんな簡単に人を雇えるはずがない!」「あなたは、こんなにあなたを頼りにしているご利用者やご家族を放り出すつもりなのか!それでもあなた、ケアマネですか!」と意味不明の怒られ方をしました。
このままでは、せっかく決まった転職もふいになってしまいそうです。一体、どうすればいいのでしょうか。
後任を確保できないのは、経営者の責任!
A 心を鬼にして退職を。退職代行サービスも一つの方法です。
退職の自由は労働者に認められた基本的な権利の一つであり、雇用期間に定めがないときは退職の申入れから2週間が経過すると雇用契約は自動的に終了します(民法第627条第1項)。
そもそも、日本国憲法第18条には奴隷的拘束の禁止が定められていますし、憲法第22条では職業選択の自由が保障されています。
少なくとも日本国内で働くにあたり、労働者が不当に拘束されることはありません。これは、本件のように引き継ぎ先が無くとも同じことです。
つまり、後任を確保できないのは一重に経営者の責任であり、労働者はあくまで雇われの立場である以上、賃金の対価として労働を提供する義務に留まるのであって、人員を揃えるという経営上の課題は関係ないのです。
この点を履き違えている経営者がたまに見受けられますが、これが事実です。たとえ、明日に全職員が一斉に退職届を提出したとしても、経営者は、職員らに職場に戻るよう強制することはできません。実際、給与未払いが続いたことで嫌気がさした職員が一斉に辞めるという事件が過去に起きています。
退職連絡はメールでも手紙でもOK、だが「退職願」という体裁はNG
今回のご相談ケースでは、メールや手紙で構いませんので、「〇月〇日付で退職する」という意思をはっきりと書き、相手に送ることで退職が成立します。
その際、「退職願」という体裁で出してはいけません。細かいことですが、これでは「雇用主に辞めてよいかお伺いを立てる」という意味になってしまい、相手の同意がなければ辞められない事態に自らを追い込むことになります。体裁でも文面でも、「辞めます」とはっきり伝え、断行することが重要なのです。
もちろん、ご利用者やご家族に懇願され後ろ髪を引かれる思いはあることでしょう。ただ、相談者の方でなければ絶対にできない仕事というものは考え難いですし、ケアマネだからといって、そこまで責任を負う必要もありません。
中には、「利用者を放棄することはネグレクトだ」などという人もいるかもしれません。だが、ネグレクトとは、あくまで現場において物理的に利用者に必要なケアを怠るといった状況を指します。本件のような契約関係の話には当てはまりません。
退職代行という選択肢も視野に
ともかく、労働者が職場を辞める自由は、当たり前の権利として認められているのだとはっきり認識してください。
最近は全国的に、退職代行というサービスが流行しているようです。弁護士である自分にも、施設や事業所から「急に退職代行会社から辞めるという通知が来て戸惑っている」という相談が来るのですが、直接上司に伝えることが難しい場合はこのようなサービスを使うことを検討しても良いかもしれません。ただ、弁護士の立場からは民間企業が提供する退職代行よりは、弁護士が関与しているサービスを選ぶことをお薦めします。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
スキルアップにつながる!おすすめ記事
このカテゴリの他の記事
こちらもおすすめ
ケアマネジメント・オンライン おすすめ情報
介護関連商品・サービスのご案内
ケアマネジメント・オンライン(CMO)とは
全国の現職ケアマネジャーの約半数が登録する、日本最大級のケアマネジャー向け専門情報サイトです。
ケアマネジメント・オンラインの特長
「介護保険最新情報」や「アセスメントシート」「重要事項説明書」など、ケアマネジャーの業務に直結した情報やツール、マニュアルなどを無料で提供しています。また、ケアマネジャーに関連するニュース記事や特集記事も無料で配信中。登録者同士が交流できる「掲示板」機能も充実。さらに介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネ試験)の過去問題と解答、解説も掲載しています。



