

結城教授の深掘り!介護保険
驚愕の「一時金の居宅外し」…ケアマネ枯渇を防ぐ、一縷の望みとは
- 2024/12/18 09:00 配信
- 結城教授の深掘り!介護保険
- 結城康博
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「2024年度補正予算」が国会で成立した。既に報道されている通り、政府は新たな総合経済対策で、介護職員1人あたり5.4万円程度の一時金を配ることができる措置を講じるようだ。しかし、居宅介護支援のケアマネジャーは、その対象から外れてしまった。今回は、この補正予算がもたらす影響について深掘りしたい。
一時金は介護全体の士気を低下させる!
補正予算では、介護分野の賃上げに、総計806億円が計上された。それなりに大きな額と思う人もいるかもしれない。だが、いくら額が大きくてもしょせんは一時金、一回きりの支給だ。それだけで介護職員不足の解消につながるとは、到底思えない。
むしろ、「なぜ、恒常的に賃上げ策を講じず、チマチマと金を配って、お茶を濁すのか!」「どうせ、『やった感』を出すためだけの、アリバイ的な取り組みだろう」と、不信感を抱く介護職員も多いのではないか。
つまり、一時金の支給とは、人材不足の解消は期待できない上、現場に要らぬ不信感だけを植え付けるだけの、愚策でしかないのだ。
一時金の要件にまで「生産性」を課すことの問題
しかも今回の一時金には、介護現場の業務見直し、効率化に向けた課題の顕在化、職員の負担軽減策といった「生産性向上」の取り組みの要件まで付けられている。
もちろん、「生産性の向上」の取り組みは重要だ。だが、喫緊の課題である人材確保のためも施策にまで、「生産性向上」の条件を付けるというのは、いかがなものか。もはや人の取り合いともいえるほど厳しさを増した労働市場で介護事業者が勝ち残るためにも、一時金の支給くらいは条件なしにすべきだったのではないか。
ありえないケアマネ外し…このままでは「不足」は「枯渇」に
そして、なによりも驚かされたのは、居宅のケアマネが、その一時金の対象にすらなっていないということだ。
2009年に介護職員処遇改善交付金が誕生して以降、十分ではないにせよ、介護職員への処遇改善は着実に行われてきた。その一方、居宅のケアマネは、その恩恵にあずかるは一度もなかった。今では「ベテランの介護福祉士の給与は、ケアマネと同程度か、それよりも高い」といった状況も、普通に耳にするようになった。
この居宅ケアマネへの冷遇が、ケアマネ不足に拍車をかけていることは、疑いようがない。
事実、厚労省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」で示された調査でもケアマネ不足の要因として最も多く指摘されていたのは「賃金・処遇の低さ」(66.2%)だ。(厚労省「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会 第6回(参考資料)」2024年12月2日61頁)。
今回も処遇改善の取り組みから「仲間外れ」にされたことで、ケアマネの「士気」は、すさまじく下がるだろう。これから60歳を過ぎた多くのケアマネが退職していくことも思い合せれば、ケアマネ不足どころが、ケアマネ枯渇に直面する地域も増えるのではないか。
介護支援専門員の人員状況の過不足感

厚労省「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会 第6回(参考資料)」令和6年12月2日58頁より
介護より保育が優遇されたという現実
さらに今回の補正予算を俯瞰してみてみると、保育士らの賃上げには1150億円が計上されている点が注目される。しかも、今年度の保育士らの給与を、前年度比で10・7%引き上げる策も織り込まれている。
これは、保育士らには一時金ではなく恒常的な賃上げが保障されことを意味する。
「介護は保育に比べ優先度が低い」―。石破政権がそのように判断しているとしか思えない補正予算といえる。
次の介護報酬改定に向け、人手不足を訴え続けるべき!
ただし、これで完全にケアマネの処遇改善への道が絶たれたというわけでもない。与党が国会で多数派を確保できていないため、今後、政府が示す予算案がそのまま通過するかどうか、常に保証されているわけではないためだ。
さらに次の介護報酬改定で、ケアマネへの処遇改善が実現する可能性も十分ある。実際、12月12日に「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」が取りまとめた中間整理には「他産業・同業他職種に見劣りしない処遇を確保」すべきということが改めて明記されている。
だからこそ、いまこそ、介護関係者やケアマネは、あらゆる手段を通じ、人手不足の深刻さを訴えるべきだ。職能団体に頼るのではなく、現場のケアマネや介護職員一人ひとりがSNSなどを通じて、各自の現場での深刻さを訴えることで、事の重大さを世間に知らしめていく努力が必要なのだ。
とにかく、今、ここで諦めてはいけない。市民の意識が「ケアマネの処遇改善」に傾けば、政治も動かざるをえないのだから。

- 結城康博
- 1969年、北海道生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒、法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職やケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事。現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)。社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーの資格も持つ。著書に岩波ブックレット『介護職がいなくなる』など、その他著書多数がある。
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