弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
万引き癖のある利用者の支援法
- 2024/11/29 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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担当するご利用者が、外出して万引きを繰り返すようなとき、ケアマネとして何を、どこまで支援すべきでしょうか。また、そのご利用者のご家族が愛想をつかし「これ以上関わりたくない」と言い出したとき、どのように考え対応すべきでしょうか―。事例をもとに解説します。
ケース 万引きさえしなければ…
- ◆担当しているご利用者と家族
- ご利用者Aさん:70代、要介護1。2か月ほど前から前頭側頭型認知症(FTD)が出現。日常生活はほぼ自立。足腰は弱っているものの、杖を突けば外出可能。子供(娘)が一人結婚し他県に住んでいるが、日頃接点はない。
ご家族・妻Bさん:70代。認知機能・身体機能とも問題はない。夫婦仲は良くなく、認知症が出始めた夫の介護や世話を嫌がっている。 - ◆使っているサービス
- 福祉用具(手すり)、デイサービス(週2回、入浴目的)
- ◆相談者
- 50代の男性ケアマネ
万引き癖が出始めたご利用者への対応に悩んでいます。
Aさんは私の事業所の近所に住む方で、1年ほど前から地域包括支援センターの紹介により当事務所で受け持つようになりました。現役時代は、真面目な公務員だったそう。実際、謹厳実直で、何も問題を起こすようなことは無かったのですが…。
2か月前、万引きで補導され、警察署にいると連絡を受けたときは耳を疑いました。
もしやと思い、急ぎ検査を受けて頂いたところ、病院では前頭側頭型認知症(FTD)と診断されました。脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで、さまざまな症状が生じる病気ですが、特に自分本意な行動や万引きなどの反社会的な行動、同じ行動や言葉の繰り返し(常同行動)、無関心・自発性の低下、食事や嗜好の変化が起こりやすいといわれています。
なかでも万引きはFTDの典型的症状です。事実、Aさんは、その後も何度となく万引きを繰り返しています。つい先週などは、ちょっと高価な事務用ハサミをポケットに入れたまま店の外に出ようとし、店内の万引きGメンにつかまりました。
Aさん本人は、万引きは悪いことと理解しています。そのせいか、Gメンにつかまると「俺はやっていない!誰かがポケットに入れたんだ!」など、明らかに妄想と言い訳をしつつ大騒ぎするため、毎度毎度、警察沙汰となってしまいます。
現場に駆け付けた警察官は奥様であるBさんに連絡しますが、Bさんも最近は嫌気が差し、携帯の電源を切っていることが多い様子。そうなると、最後の連絡先とばかりに電話が掛かってくるのは、担当ケアマネである私です。その結果、やむを得ず私がAさんを引き取りに行ったことも二度ありました。
もちろん、こうしたことをいつまでも繰り返す訳にはいかないと感じています。ただ、困ったことに、Bさんは夫のことを元々嫌っています。契約時に最も身近なご家族に身元引受人になって頂くのですが、「私じゃなくて、娘じゃダメなんですか?」と言われたほど。
どうもBさんは、Aさんの亭主関白な態度に苦しめられてきたことを恨んでいるようです。初めて万引きが発覚し、店に呼び出されたときなどは、Bさんは人前もはばからず激怒し、「あんたなんか、さっさと刑務所に入ってしまえ!」と言い放ったこともあるくらいです。
後日、Bさんと改めて今後についてお話をしたところ、彼女は怒りに震えながら「もう、あの人の面倒は見切れない。これ以上、近所で恥をさらしたくない。次に万引きが発覚したら、刑務所にぶちこんでもらうよう刑事さんにこちらからお願いするつもりです」と言ってのけました。私としてはAさんの施設入所をお勧めしようと思っていたのですが、あまりの剣幕に言い出せませんでした。
このケースで、いくつかご質問があります。
- ご利用者が犯罪をしたとき、担当ケアマネが責任を負うことはあり得るのでしょうか?
- ご利用者が警察に保護されたとき、ご家族がいけない場合はケアマネが迎えにいく義務があるのでしょうか?
- このケースのようにご利用者が日常生活を送ることが難しいのに、施設入所を勧めても相手が応じないときはどうすればよいでしょうか。取り返しのつかないことになる前に、こちらから契約解除して縁を切るべきでしょうか。
A ケアマネは保護者ではなく、支援者―それが原則
なかなかハードな困難ケースといえるでしょう。ですが、常に意識して頂きたいことは「ケアマネとしての業務範囲」です。介護保険法は次の通り定めています。
介護保険法第7条第5項 この法律において「介護支援専門員」とは、要介護者又は要支援者からの相談に応じ、及び要介護者等がその心身の状況等に応じ適切な居宅サービス(中略)を利用できるよう市町村、居宅サービス事業を行う者(中略)等との連絡調整等を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有するものとして(中略)介護支援専門員証の交付を受けたものをいう。
ここでいう「連絡調整」とは、ケアマネが他の専門部署・機関と連携しケアマネジメントを実践していくという意味です。言い換えれば、「餅は餅屋」で専門機関に丸投げすれば後は責任を負う必要はない、ということになります。
この点が保護者の役割を負う家族と決定的に異なります。本件におけるBさんは、Aさんの万引きという対外的な違法行為につき監督責任(民法第714条1項)を負うことになります。
従って、何かあっても家族を飛び越えてケアマネが責任を負うことはありませんし、警察までケアマネが迎えに行く義務もありません。
ただ、そうは言っても現実には、やむを得ず応じざるを得ないということもあるのでしょうが…。本件でも、相談者の方はできる限り応対を断り奥様であるBさんに連絡してもらうよう、警察にも繰り返し伝えるべきでしょう。
カスハラとは言い切れない難しさ
最後のご質問(3)は大変難しい。いわば究極の選択です。ただ、本件のような状況は認知症であるAさんの行為に起因するものであり、いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)とは言い切れません。そのため「万引きを繰り返すから」という理由で契約解除することはできないでしょう。施設入所を拒むからという理由も同様です。さらに言えば、在宅で可能な限り暮らし続けるということは憲法上の人権でもあります(居住の自由)。
このようなときケアマネがすべきことは、「巻き込む」ことです。地域包括支援センターや行政、警察、精神科医など思いつくあらゆる機関に相談し(個人情報であるため、新規の第三者機関に話すときは事前にBさんの同意が必要となりますが)、どうすればよいか一緒に考えてもらいましょう。場合によっては現状がBさんによるネグレクトに該当するという人もいるかもしれませんし、Bさんを説得してくれることもあるかもしれません。
付け加えれば、Aさん自身は認知症なので窃盗をしても刑罰は受けず、Bさんの言うように刑務所に入れることはできないのです。そうなると医療保護入院など別の手を考える必要がありますが、そうした実情を説明した上で、逆にBさんにサービス付き高齢者向け住宅などへの入居を検討してもらうということも一つの方法かと思います。前号でも述べましたように、ケアマネ一人で手に負えない場合は、事業所のメンバー間で共有し、更に包括や行政機関など外部とも広く繋がってチームで対処していくことが重要です。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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