弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」

「まさか…」の事態でも慌てずに

ご利用者の入退院時の対応もケアマネジャーの重要な業務の一つですが、世の中には「まさか」という事態も起きるものです。今回は、担当ご利用者の入院中に同居家族が家を出て音信不通になってしまった事例と、その対応策をご紹介します。

ケース 入院中、妻に「捨てられた」利用者

◆担当しているご利用者と家族
利用者:70代、要介護2、妻と同居しており、その介助も受けていたが、夫婦仲はよくない。肺炎で入院治療を余儀なくされ、退院したばかり
家族:妻。70代、自立
◆在宅時サービス利用状況
現在はショートステイを利用中
◆相談者
50代の女性ケアマネ

まさかの事態に「もうダメ」と気落ちする利用者…

入院中に妻に「捨てられ」、独居状態となってしまったご利用者Aさんへの対応に困っています。

もともと夫婦仲はよくなく、ご家族からもAさんから暴力を振るわれたり、ものを投げつけられたりしたという相談を何度か受けていました。肺炎で入院する際、妻はむしろ喜んでいたくらいです。

でもまさか、入院中に完全に音信不通になってしまうとは思いませんでした。電話番号も変更したようで、もはや連絡の取りようもありません。しかも、住んでいたアパートまで引き払われており、退院後、ご利用者は住む家がない状態になってしまったというのです。

退院まで日が無いので、とりあえずショートステイに緊急入所してもらい、善後策を練ることにしましたが、途方に暮れています。

Aさんは認知症ではないので自分で諸々の対応はできるはずですが、気落ちしてしまい「俺はもうだめだ」と言うばかり。Aさんはまず何をすべきでしょうか。また自分は、ケアマネとしてどこまで関わるべきでしょうか。

A まずは部屋の賃貸契約書をチェック!

奥さんに言わせれば「自業自得」ということなのでしょうが、Aさんにとっては青天の霹靂、弱り目に祟り目とはまさにこのことですね。

こんなときは、焦らずに権利関係のチェックから始めます。

奥さんはアパートを引き払ったといいますが、部屋の賃貸借契約自体、解約してしまったのでしょうか?

法的には、Aさんが借主となり大家(あるいは管理会社)と賃貸契約を取り交わしたのであれば、Aさんでなければ解約もできないはずです。

もし、奥さんが「Aさんの了解を得ている」などと嘘の説明をして解約手続きをしてしまったのであれば事態は深刻になります。これは表見代理が成立するかという問題ですが、要するに「貸主の方で、奥さんが代わりに解約手続をすることについて信用した経緯がもっともであるといえるか」という点がポイントとなります。万が一そうなっていたときは、事情を説明し、引き続き住まわせてほしい旨を申し入れることなどが考えられますが、いずれにせよ大家か管理会社に問い合わせ、賃貸契約はどうなっているか確認されると良いでしょう。

単に家族が出ていっただけで契約は生きているということであれば、ひとまず戻る所については安心できます。

もしアパート退去が完了し完全に住むところが無くなってしまっている場合は、取りあえずショートステイで生活しつつ新たに借りる部屋を探すことになるでしょう。高齢であり条件を満たさないというのであれば、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料などの利用が考えられますが、費用面で選択肢が狭められることもあるかもしれません。

いずれ決着しなければならない問題…婚姻関係をどうする?

現状、奥さんは行方が分からず音信不通とのことですが、Aさんとの婚姻関係まで一方的に打ち切られてしまうということはありません。協議離婚するか、家庭裁判所に調停を申し立て離婚の条件を取り決めた上で離婚するか婚姻関係を手続きが必要となるでしょう。

一般に離婚が認められる理由としては①不貞行為②悪意の遺棄③3年以上の生死不明④回復の見込みのない強度の精神病⑤婚姻を継続しがたい重大な事由の、5つが挙げられますが、本件では奥さんとしてはAさんの暴力行為などを理由として⑤を主張することが考えられます。

この状況に至っては、「覆水盆に返らず」の言葉通り、Aさんとしてもよりを戻そうとは思わないでしょう。双方の心情的には、離婚が成立している状況と推測されます。

でも、だからこそ法的にも婚姻関係をどうするのかを決めなければならない状況といえます。今すぐという課題ではありませんが、しばらくすると奥さんの側から連絡が来る可能性があります。Aさんが行方を捜すとなると、例えば弁護士に依頼し、職権で現在の奥さんの住民票を取得してもらうことが考えられます。住所が判明したら、そこに手紙を送るなどしてコンタクトを試みます。

ケアマネジャーがやるべきことは?

残る問題は「上記のような対応に、支援者であるケアマネジャーはどこまで関わるべきか」です。

ケアマネジャーの業務範囲はあくまで他の専門職や事業所等との「連絡調整」です。そして本件は法律の問題がメインですから、市役所で実施している弁護士の無料相談や「法テラス」などを紹介し、Aさんに相談に行って頂くことが妥当かと思います。

もしAさんが認知症になってしまえば、役所の申立で後見人をつけることになります。いずれにせよ、Aさんの心身状態が落ち着いてから、上記のようなことを少しずつ試みて頂くのが良いでしょう。

外岡潤
1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。

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