“あるある”で終わらせない!失敗を生かすケアマネジメント

“引き継ぎができているアピール”を優先してしまった事例(2)

長女様は「自分だけではダメだ」と、娘様や妹様にも介入してもらい、手厚いケアでAさんとの時間を大切にしました。

「仕事したい」から「さみしい」に

ところが、Aさんから毎日、長女様に何度も電話がかかってくるようになりました。電話口の言葉は「仕事したい」から「さみしい」に変わり、しまいには「誰も私を構ってくれへん。もう私なんて誰も必要としていないんや。死にたいわ」とおっしゃるようになりました。

Aさんには短期記憶障害もあり、介護サービスのことも長女様の対応も全て、“無かったもの”となります。「誰も私を構ってくれへん。もう私なんて誰も必要としていないんや」というAさんの言葉は、長女様の精神的疲弊を強くしました。

この頃には、猫のご飯と自分のご飯との区別もつかないほど、認知症の進行がみられました。精神科の主治医に相談しても薬の変更ぐらいで、長女様は「効果がない…」と嘆いていました。

少しでも状態を改善させるため、自立支援介護・認知症ケアのレジェンドで医師の竹内孝仁先生が提唱されている認知症ケア「水・便・メシ・運動」の実践を試みました。

Aさんをアセスメントすると、水分はよく摂る方でしたので、やかんを用意するなど、あらかじめ水分量を決めておくことで、約1,500mlの飲水量は確保できました。食事は毎日、長女様やヘルパーが準備していますし、運動は、デイや自転車での外出で20分程度はできています。

問題は排便。一人暮らしなので、トイレの頻度もわからないのです。ショートステイなどで排便のアセスメントを試みましたが、自分でトイレに行くので、完全に把握できませんでした。

認知症のタイプは「回帰型」(特徴:元職業やその人のよき古き時代に戻ってしまう)とのアセスメントの結果をもとに、コミュニケーションのやり方も変えてみましたが、「仕事がしたい」「さみしい」というAさんの口癖については、どうにもなりませんでした。

Aさんの口から衝撃の真実が…

Aさんとの面談時は、いつも長女様が同席されます。ある日、長女様が面談の約束を忘れたことがあり、Aさんと二人でゆっくりお話をする機会がありました。以下はその時の会話のやり取りです。

私:「Aさん、この大きな絵はご主人が描かれたものですか?絵に名前のサインがありますね」
Aさん:「そうやで。上手でしょ。私の憧れ」
私:「素敵ですね。Aさんも絵が上手ですから、ご夫婦そろって絵描きさんですね」
Aさん:「いや~、私なんか、絵を描く主人の後ろで、じっとその様子を見て、真似して描いているだけです」
私:「そういえば、ご主人の話を聞いたことはなかったですね」
Aさん:「そうかな?かっこいい人で、私の一目惚れ」
私:「まあ、素敵ですね」
Aさん:「主人はモテてね。会社を経営していて、そこに若くて綺麗な女性がいたの。その人、綺麗だけではないの。仕事がバリバリできる人なの」
私:「そうなんですね」
Aさん:「でも…。実はその人、主人の愛人だったの。いつも主人に、『お前もあいつみたいに、社会的に認められる人間になれ』と怒られてね。それで、大手の眼鏡屋さんでパートを始めたの。ものすごく頑張ってね、私、店長にまでなったのよ。定年までいろんな店舗を任せられたわ」
私:「え?お仕事はヘルパーさんだけじゃないのですか?」
Aさん:「そうよ。定年して遊んでたら、別れた主人にまた怒られると思って、『何かしないと』と思って始めたんです」
私:「…ん?ご主人は既に亡くなっていると聞いてましたけど、離婚しているのですか?」
Aさん:「そう。悲しかった。別れるのは…」
私:「死別でなくて離婚…。家にご主人の作品がいっぱいあるので、離婚しているとは思いもしませんでした」
Aさん:「主人に“ダメ人間”って言われるから、働きたいの。何もしない私なんて、ダメよね。なんかしないと、心が落ち着かないの。私、本当は社交的でないから、いつもものすごく頑張って笑ってます。正直、疲れてます。私って何なの?」

こう言い放った後、Aさんは「気になる男性がいたけど、娘らが嫌がるだろうから、結婚はしなかった。本当の気持ちは、今でも元主人を愛しているのです」と、初めて涙ながらに語られました。

そこには、認知症を患うご利用者ではなく、1人の女性として苦悩するAさんの姿がありました。

アセスメント次第で支援は変わる

元ヘルパーだから、「人の役に立ちたい」という思いで仕事を探していたのではなかったのです。

「働かないやつは価値のない人間」という元夫の言葉から逃げるために働きたかった。常にパワフルでいないと、「愛人に負ける」と思っていた―。

焦りにも似たAさんの思いを知り、私は愕然としました。

このことを長女様に話すと、Aさんが気になる男性を自宅に食事に招いたことが何度かあったことを思い出されました。

母親が自分の気持ちを我慢してきた事実を知った長女様は、「もう、休んでいいねんで。ゆっくり絵を描いたり、歌うたったりしていいねんで」と、Aさんに慰めの言葉をかけられました。Aさんが「私、ダメな人間じゃないの?」と言って涙を流すと、長女様は「当たり前やん。今まで頑張ってきたんや。気付いてあげられなくてごめんね」とおっしゃいました。

1日でも早くこの事実を知っていれば、もっと癒しのあるコミュニケーションで接せることができましたし、もっとAさんの趣味を大事にした活動の場を一緒に考えることができたと思います。

私はAさんの事例を通して、そのことを反省するとともに、アセスメント次第で支援の方向性や関わり方は変わるということを、身をもって学びました。

山田友紀
特別養護老人ホームやデイサービス、訪問介護、居宅介護支援の相談業務などに従事した後、2016年、京都市内でデイサービスなどを運営する株式会社「ふくなかまジャパン」の取締役に就任。2018年以降は、同市内にある居宅介護支援事業所「ふくなかま居宅介護支援センター」の管理者も務める。現在は、マネジメントや人材育成の講師を務めているほか、一般財団法人生涯学習開発財団が認定する「プロコーチ」としても活動している。

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