小濱道博の介護経営よもやま話小濱道博の介護経営よもやま話

小濱道博の介護経営よもやま話

初年度は1~3月提出、経営情報の報告義務の最新動向

4月1日に施行された改正介護保険法において、介護サービス事業者は、事業を所轄する都道府県知事に対して、経営情報を報告することが義務化された(第115条の44の2第二項)。

厚生労働省はこのほど発出した介護保険最新情報のVol.1297とVol.1305において、この報告義務に関する留意事項とQ&Aを公表した。今回は、この内容も踏まえた最新の動向をご紹介する。

個別の情報は利用者に開示されない

各事業者は今年度以降、決算を終了するごとに、定期的に都道府県知事に経営情報を届け出る必要がある。厚労省が新たに整備する「介護事業財務情報データベースシステム」(仮称)上で、必要な情報を手入力するか、または会計ソフトで作成したCSVファイルを送信する。

提出された経営情報は、属性などに応じてグルーピングされ、国が行う分析の結果が公表される=図=。事業所・施設ごとではないため、特定の事業所の経営状態や役員報酬の金額などが、利用者や家族に把握されてしまうという懸念は杞憂である。

図:公表のイメージ(第102回社会保障審議会介護保険部会令和4年11月24日資料より

税務署に提出する決算書とは異なる

都道府県知事に届け出る経営情報は、税務署に提出する決算書とは異なる点に注意が必要である。

複数の拠点や併設するサービスがある場合、介護保険制度の運営規程においては、「会計の区分」に従って拠点ごと、サービスごとに損益計算書を作成しなければならない。「会計の区分」とは、厚生省令第38号第28条に規定された運営基準である(下記を参考)。

(会計の区分)
第二十八条指定居宅介護支援事業者は、事業所ごとに経理を区分するとともに、指定居宅介護支援の事業の会計とその他の事業の会計とを区分しなければならない。

同一法人内で複数のサービス拠点を運営している場合、その拠点ごとに会計を分けなければならない。これを会計用語では「本支店会計」と言う。

同一の拠点で複数のサービスを営んでいる場合は、それぞれを分けて会計処理を行う。これを「部門別会計」と言う。

「会計を分ける」とは、少なくても損益計算書をそれぞれの拠点ごと、介護サービスごとに作成するということだが、この時、収入だけでなく、給与や電気代、ガソリン代など全ての経費を分けなければならない。水道光熱費などの共通経費に使用する按分基準などは、厚労省の通知で定められている。

こうした作業は、税務署に提出する決算書では求められていないものである。

事業所・施設ごとに会計処理を行っている場合は、事業所・施設単位で報告する必要があるが、それが難しい場合、法人内のサービス種別ごとの報告でも差し支えないとされている。

法人単位で報告する場合は、都道府県ごとではなく、法人内の全国の事業所・施設のデータを一つにまとめて報告することも可能となっている。

令和6年度の報告スケジュール

令和6年度の報告に向けてのスケジュールは以下の通りである。

今年秋頃報告システムにおける操作方法のマニュアル・動画の公表
来年1月以降報告システムの運用の開始、令和6年度分報告の開始
来年3月末令和6年度分(初年度分)報告締め切り

令和6年度は、令和5年度決算分、すなわち、昨年4月~3月に決算期を迎えた財務データが対象で、介護サービス事業者は来年1~3月にこれを報告しなければならない。既に提出が義務化されている社会福祉法人についても、改めて「介護事業財務情報データベースシステム」での報告が必要となる。

原則、全ての介護サービス事業者が報告義務を負うが、▽介護サービス提供の対価として受け取った金額が過去1年間で100万円以下のもの、及び災害その他都道府県知事に報告できない正当な理由があるものは対象外とされている。

この場合、いわゆる「みなし指定」の事業所も対象となるが、居宅療養管理指導や介護予防支援は対象外となっている。

報告の対象となる介護サービスを提供する事業所・施設
  • 訪問介護
  • 訪問入浴介護
  • 訪問看護
  • 訪問リハビリテーション
  • 通所介護、通所リハビリテーション
  • 短期入所生活介護
  • 短期入所療養介護(則第14 条第4号に掲げる診療所に係るものを除く。)
  • 特定施設入居者生活介護(養護老人ホームに係るものを除く。)
  • 福祉用具貸与
  • 特定福祉用具販売
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
  • 夜間対応型訪問介護
  • 地域密着型通所介護
  • 認知症対応型通所介護
  • 小規模多機能型居宅介護
  • 認知症対応型共同生活介護
  • 地域密着型特定施設入居者生活介護(養護老人ホームに係るものを除く。)
  • 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
  • 複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)
  • 居宅介護支援
  • 介護福祉施設サービス
  • 介護保健施設サービス
  • 介護医療院サービス
  • 介護予防訪問入浴介護
  • 介護予防訪問看護
  • 介護予防訪問リハビリテーション
  • 介護予防通所リハビリテーション
  • 介護予防短期入所生活介護
  • 介護予防短期入所療養介護(則第22 条の14 第4号に掲げる診療所に係るものを除く。)
  • 介護予防特定施設入居者生活介護(養護老人ホームに係るものを除く。)
  • 介護予防福祉用具貸与
  • 特定介護予防福祉用具販売
  • 介護予防認知症対応型通所介護
  • 介護予防小規模多機能型居宅介護
  • 介護予防認知症対応型共同生活介護

指定があったものとみなされた日から起算して1年を経過しない者によって行われる訪問看護等については、この限りでない。

経営情報の提出に当たっては、デジタル庁が運営する行政サービスの認証システム「GビズID」のアカウント(gBizIDプライム)の取得が必要となる。

アカウントの作成や運用の方法などについては、厚労省が今年秋頃に、運用マニュアルの発出と併せて周知するが、既に取得済みの場合、再取得の必要はないとしている。

報告が求められる経営情報とは?

報告が求められる経営情報は以下の内容である。※は任意記載の項目

A.事業所又は施設の名称、所在地その他の基本情報
  • (1)事業所又は施設の名称
  • (2)法人等の名称
  • (3)法人番号
  • (4)介護事業所番号
  • (5)介護事業所で提供しているサービスの種類
  • (6)法人等の会計年度末
  • (7)法人等の採用している会計基準
  • (8)消費税の経理方式
B.事業所又は施設の収益及び費用の内容
  • (1)介護事業収益
    ①うち施設介護料収益 ※
    ②うち居宅介護料収益 ※
    ③うち居宅介護支援介護料収益 ※
    ④うち保険外収益 ※
  • (2)介護事業費用
    ①うち給与費
    ア)うち給与 イ)うち役員報酬 ※ ウ)うち退職給与引当金繰入 ※ エ)うち法定福利費 ※
    ②うち業務委託費
    ア)うち給食委託費 ※
    ③うち減価償却費
    ④うち水道光熱費
    ⑤うちその他費用
    ア)うち材料費 ※ ⅰ)うち給食材料費 ※ イ)うち研修費※ ウ)うち本部費 ※エ)うち車両費 ※ オ)うち控除対象外消費税等負担額 ※
  • (3)事業外収益 ※
    ①うち受取利息配当金 ※
    ②うち運営費補助金収益 ※
    ③うち施設整備補助金収益 ※
    ④うち寄付金※
  • (4)事業外費用 ※
    ①うち借入金利息 ※
  • (5)特別収益 ※
  • (6)特別費用 ※
  • (7)法人税、住民税及び事業税負担額 ※
C.事業所又は施設の職員の職種別人数その他の人員に関する事項

(1)次の職種ごとのその人数(常勤・非常勤別)
① 管理者 ② 医師 ③ 歯科医師 ④ 薬剤師 ⑤ 看護師 ⑥ 准看護師 ⑦ 介護職員(介護福祉士) ⑧ 理学療法士 ⑨ 作業療法士 ⑩ 言語聴覚士 ⑪ 柔道整復師・あん摩マッサージ師 ⑫ 生活相談員・支援相談員 ⑬ 福祉用具専門相談員 ⑭ 栄養士・管理栄養士 ⑮ 調理員 ⑯ 事務職員 ⑰ その他の職員 ⑱ 上記のうち介護支援専門員・計画作成担当者⑲ 上記のうち訪問介護のサービス提供責任者

(2)(1)に掲げる職種ごとの給与及び賞与 ※

D.その他必要な事項
  • (1)複数の介護サービス事業の有無
  • (2)介護サービス事業以外の事業(医療・障害福祉サービス)の有無
  • (3)医療における事業収益 ※
  • (4)医療における延べ在院者数 ※
  • (5)医療における外来患者数 ※
  • (6)障害福祉サービスにおける事業収益 ※
  • (7)障害福祉サービスにおける延べ利用者数

小規模法人には大きな負担増に

ここで問題となるのは、介護サービス事業者の7割が小規模事業所であることだ。

事務員がいない法人も多く、代表者やその家族が経理事務を行うことも少なくない。また、会計事務所に領収書を丸投げし、単なる「記帳代行」を依頼しているケースも多いようだ。

こうした経営者の多くは、財務諸表の読み方がわからないだろうし、関心があるのは「納める税金の額くらい」というのが現実であろう。

会計事務所も、「税金の申告のみ」という顧問形態が大部分である。介護保険制度に精通していることはまれで、先述した「会計の区分」の知識も皆無である場合が多い。

会計事務所の主な業務が、税金の申告やそのための税務会計であることを考えると、当然ともいえる。

しかし、今回の経営情報の報告義務により、会計事務所の利用目的そのものも大きく変わるであろう。税務申告と共に、経営情報報告のための資料作成を依頼することになり、単に領収書を整理し、決算書を作るだけの従来の対応では足りなくなるからだ。

今後は、介護事業に精通している会計事務所を選ぶべきであり、今回の義務化を機に、この点をしっかりと見極める必要がある。

令和6年度の報告期間となる来年1~3月は、会計事務所の繁忙期である確定申告のタイミングと重なるため、急な依頼には対応できないことが想定される。早い時期からの打ち合わせが必要であることも付け加えておきたい。

小濱道博
小濱介護経営事務所代表。株式会社ベストワン取締役。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手掛ける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。個別相談、個別指導も全国で実施。全国の介護保険課、介護関連の各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。C-MAS介護事業経営研究会・最高顧問、CS-SR一般社団法人医療介護経営研究会専務理事なども兼ねる。

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