生成AI×編集部で紡ぐショートストーリー

【ケアマネ小説】ずっと忘れないこと

文書生成AIを活用し、ケアマネジメント・オンライン編集部が作成した「ケアマネ小説」。今回は糖尿病のご利用者を担当するケアマネジャーさんのストーリーです。

目の前に、先週も通った街路樹が見えてきました。前に来た時よりも、せみ時雨が激しくなったようにも思えます。時雨という名前からほど遠い、暑苦しい音の洪水に包まれながら、私はふと思いました。

(今日はちゃんと、話を聞いてくれるかな…)

今、ケアマネジャーとして訪問しようとしているのは、90歳の吉田ミチコさん。要支援2で、軽度の認知症を抱えていらっしゃいます。今、私が悩んでいるのは、彼女がデイサービスの利用を納得してくれないことでした。

彼女はI型糖尿病を患っており、インスリン注射を1日4回打たなければならない上、食事も制限する必要があります。ただ、ミチコさんは、そのどちらも苦手。だれか見ている人がいなければ、注射を打とうとしないし、しょっちゅうお菓子を買い込んでいます。既に夫とは死別し、子どもも別居しているため、誰かに注射を打ってもらうこともできません。私や主治医は「この注射は吉田さんの命を守るための注射ですよ」と何度も説明しましたが、それでも1本の注射すら打てていないという日も珍しくありませんでした。

そこで私は主治医とも相談し、訪問看護と訪問介護、そしてデイサービスを組み合わせて、昼の分だけは確実に打てるようプランを組む方針を固めました。デイサービスを週3回利用してもらうことを提案したのも、看護師やヘルパーに注射の見守りをお願いするためでした。

ところが、ミチコさんはこのデイサービスの利用を激しく拒んだのです。

「デイから帰ってくるのは、17時くらいになる?!そんなに家は空けられないよ。そんなに夕方まで外出しろというなら、あんたらの話は聞かない!」

あとは取り付く島もなし。結局、その日はわけもわからず平謝りし、ミチコさん宅を退散しました。

外出を嫌がる理由は、私にも他の関係者にも見当がつきません。ミチコさんの日々の生活を思い返しても、どうしても夕方にまでに帰らなければならない理由がないのです。

(夕方、決まって何かの家事をしているわけでもないし、楽しみにしているテレビ番組があるわけでもない。あの日はたまたま機嫌が悪かった、そういうことなんだろう)

今日、ミチコさんへの訪問に向かう前には、そんなふうに無理やり自分に言い聞かせました。

この日、ミチコさんは前回訪問のことを忘れたように、ニコニコと対応してくれました。が、「デイサービス」という言葉を出した途端に激高。またまた家から追いだされてしまいました。

「何度言えばわかる!息子もいる私が、そんな遅い時間まで家を空けられるわけがないよ、そんな提案しかできないなら帰ってくれ!!」

結局、この日も、ただ平謝りして帰るしかありませんでした。

翌日、私は息子さんに電話で相談することにしました。ミチコさんが「息子もいる私が」と怒ったことが少しだけ気になったためでした。

その話を聞いた息子さんは、「…ああぁ」と小さくうめき、こんなことを話してくれました。

「母が夕方や夜の外出を嫌がるのは、私の病気が原因だと思います。といっても、もう治っていますけどね。小児喘息だったんです」
「私の場合、夕方から夜にかけて発作が起こりやすい体質でした。ひどい時などは、歩くどころか、腕を上げるのも息苦しく感じることもありましたよ。とにかく、じっと座って呼吸をするだけで精一杯。何かの拍子で咳でもしようものなら、白目をむき、よだれを垂らすような有様だったとか」
「そんな私を抱えて病院まで走ってくれたのが母でした。発作が頻繁に起きた小学校低学年くらいまでは、母はできる限り家で待機し、“いざ”という時に備えてくれていたと聞いています」
「小児喘息は、小学校を卒業するころには、ほぼ治ってしまいました。中学では水泳部でそれなりに活躍したくらいです。母も『水泳なら、喘息にもいいしね』と歓迎していました。中学以降、私は喘息の発作を起こしたことはありません。私が高校生になってからは、母は日中にパートで働きに出るようになりました。ただ、それでも暗くなる前には家に帰るようにしていたようです」
「一度、大学生のころ、聞いてみたことがあるんです。もう自分の発作もないのに、なぜ、なるべく夕方や夜には家にいようとするのか、と」

つい、私は息子さんの話をさえぎるように質問してしまいました。
「それで?お母さまは、どう答えられたのです?」

「『そうだねえ。あんたを心配する必要はないことは、わかっているんだけどねぇ。なんか、どうも落ち着かなくて』と。困ったような顔をして答えてくれましたよ」
そう語る息子さんの声音は、どこか切なげでした。

ミチコさんが夕方以降、外出しようとしない理由が明確になりました。彼女は認知症が進行しているけれども、大切なことは忘れていなかったのです。息子を守ろうとする母親の心、その愛情は、今も彼女の中に確かに息づいているのです。

そこで私は一つのアイデアを思いつきました。ミチコさんに通話機能だけの携帯電話を持ってもらい、夕方になったら息子さんに電話をかけてもらうことにしたのです。電話を受ける息子さんには「発作はないよ、大丈夫。ゆっくりしていて」と答えてもらうだけでいい。これだけで、ミチコさんの不安は少し和らぐのではないかと考えました。

案の定、この方法は功を奏しました。電話を通して息子さんの状態を確認できるとわかったことで、デイサービスに行くことにも納得してくれたのです。インスリン注射も安定して打てるようになり、いまのところ、ミチコさんの心身の状況は落ち着いています。

この話には、おまけがあります。

先日、久しぶりに息子さんに会った時、彼は嬉しそうに語ってくれました。
「最近、ほぼ毎日、短いながらも母と話をするようになりました。内容はご飯をちゃんと食べているかとか、発作はないかとか、そんなことばかりですが、母親が私を息子として覚えていてくれることが嬉しくて。たまに涙が出そうになります。ちょっと、こっぱずかしいけど、なんだか、久しぶりに親子に戻れたような気さえしているんですよ。ケアマネさんのおかげですね。ありがとうございました」

どれだけ時が経っても、記憶が薄れても、大切な人を想う気持ちは決して消えない。ずっと、忘れない。当たり前かもしれませんが、つい見落としがちなことでした。ミチコさんと息子さんの関係は、そんな大切なことを、改めて私に教えてくれました。

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