弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
在宅か施設入居か…それが問題だ!(前編)
- 2022/09/28 09:00 配信
- 弁護士からの応援寄稿「知っておきたいトラブル事例と対応策」
- 外岡潤
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家族とともに、住み慣れた家で暮らし続けたい―。そう考えるのは、自然なことです。ただ、家族といってもそれぞれが違う人間。誰かが「みんなと、この家で最期まで…」と考えていても、違う誰かはその人のことを「最期まで?!冗談じゃない、一刻も早く出て行ってほしい」とひそかに憎んでいる場合もあります。困ったことに介護は、そんな家族間の愛憎をくっきりと浮かび上がらせてしまうことがあります。そして、あらわになってしまった家族間の愛憎に巻き込まれ、翻弄されがちなのがケアマネジャーの皆様です。
ということで今回は、在宅か施設入居かで亀裂が生じてしまった家族への対応に悩まされているケースについて、考えたいと思います。
想定ケース:絶対に家で暮らしたい本人、何としても利用者を入所させたい家族
ご利用者:
80歳代男性。要介護2、軽度の認知症。パーキンソン病で屋外では歩行器がないと歩けない。食事や排せつはできるが、入浴は一部介助が必要。最近、自宅で転倒し数針縫う大怪我をした。携帯から間違い電話を複数回かけトラブルになったことも。食べ物の好き嫌いが激しく「次男の妻の作る飯はまずい」などと悪態をつく。二世帯住宅(土地は利用者名義、建物は次男名義)で次男家族と近接して暮らしている。妻とは数年前に死別。
サービス利用状況:
訪問入浴(週1回)、福祉用具(歩行器)、訪問介護(週3回)。経済的な余裕があり、利用者負担は2割
ご家族:
利用者の長男。40歳代、精神障害者(障害区分2)。数年前から障害者のグループホームで生活。家族とは日頃接点がない
利用者の次男。40歳代、医師(皮膚科のクリニックを運営)。利用者の介護や育児は妻に任せきりで、父親である利用者に対して冷淡
利用者の次男の妻。40歳代、夫が運営する病院で事務などをパートで担当。中学生、高校生の二人の息子がいる
主に介護を担う次男の妻が、ご利用者の入所を強く主張しています。二言目には「病院の仕事も、家事も育児もあるのにこれ以上は無理!」と言い、私(ケアマネジャー)に会うと愚痴ばかり。実際、日々の雑事に忙殺され、ストレスがたまりやつれて見えますが、それでも夫のクリニックの仕事は続けたいという意欲は持っているようです。
次男は、育児も介護も妻に任せきりで関心が無さそう。「俺は忙しいんだ」が口癖です。私がサービス担当者会議で施設探しを提案しても、「息子を医師にしなくてはならないし、兄貴の介護もあるんだから、親父の介護にお金は出せない」と露骨に言ったりもします。在宅と施設入居のどちらが良いかについて考えを明らかにしていませんが「在宅介護が続けられるように知恵を絞るのがケアマネの仕事だろう。プロなんだから何とかしてください」と、かなり理不尽な要求をしてくることもあります。
一方、ご利用者は入所する気は全くなく、「ここが俺の家だから」と言い続けています。引きこもりがちで、デイもショートステイも「使う気にもならない」といいますが、私のことは信頼しているらしく、何でも話してくれてはいます。
ある日、ご利用者が携帯電話でちょっとしたトラブルを起こしたことがきっかけで次男の妻の怒りが爆発。ご利用者の携帯電話を叩き壊し、「今すぐ出ていって!」とご利用者に怒鳴りつける事態に…。ちょうどその時、私が訪問したのですが、私の姿を見ても次男の妻の罵声は止まりません。ご利用者も興奮して言い返しながら腕を振り回しています。
次男の妻は体力的・精神的に限界と思われます。ケアマネとして今後どのようにこのケースと関わっていくべきでしょうか。
対策1:まずは詳細かつ正確な記録を
「在宅か、施設か」のトラブルの典型といえるケースですね。法律問題というよりは、普段のケアマネジメント業務の課題といえますが、弁護士としてどのようなアドバイスができるか考えてみましょう。
まず基本は「記録」です。というと、「そもそも、なぜ、そこまで記録が求められるのか」と思ってしまう人もいるでしょう。
もちろん、「介護保険制度上求められているから」という理由もあります。だが、それより重要な理由があります。「最悪の事態が起きた時、あなた自身を守るため」です。
例えば、本件で次男の妻がご利用者に暴力を振るい怪我をさせたとしましょう。身体的虐待であり、怪我をさせれば傷害罪、もし刃物で死傷させた場合は殺人罪まであり得ます。そうなってしまうと「担当ケアマネは何をしていたのか」と矛先を向けられる可能性があります。この時、支援経過記録がスカスカであれば、いくら記憶に基づいて一生懸命釈明しても「何もせず、虐待を放置していた」とみなされかねません。
ということで、日々自分のとった行動やそれに伴うご利用者らの行動や反応、今後の見通しについては、逐一記録していく姿勢を忘れないようにしましょう。
対策2:「周囲」を巻き込みつつ、記録も忘れない
続いて、本件に関する具体的な対応策を考えます。
次男の妻と利用者の関係が一触即発状態となっているため、最悪の事態を想定し、急いで手を打たなければなりません。かといってレスパイトのためにデイやショートを使うことも事実上できず、次男も非協力的。一見、打つ手なしのようにも思える厳しい状況です。
こうした手詰まりの時こそ、思い出してほしい活路があります。「良い意味で周囲を巻き込む」ということです
具体的な対応としては、地域包括支援センターや役所へ報告・相談する、ということがあげられます。中には「地域包括支援センターに相談しても無駄よ…」とあきらめている方もいるかもしれませんが、大切なことは無駄だったとしても対策を考え行動に移し、それを記録することです。
例えば本件については、次のように対応し、記録することができるでしょう。
「◯月◯日 本ケースにつき次男の妻がご利用者と揉め、利用者の携帯電話を破壊し『今すぐ出ていって!』と大声で怒鳴っていた。ご利用者も次男の妻に言い返し殴ろうとするような素振りを見せた。次に何が起こるか分からない切迫した状況と判断し、地域包括支援センターに電話した。◯日◯時に訪問し相談予定」
このように、いかなる場面であろうと今できることを考え、その行動を随時記録していくことで、「ケアマネは状況を知りながら放置していた」との非難を免れることができるのです。本来の目的はいうまでもなく利用者の保護と家族の支援ですが、「行動と記録」には「ケアマネ自身を守る」という重要な側面があることを常に意識されると良いでしょう。
次号は、本件の核となる「在宅か、施設か」問題について深掘りします。お楽しみに。

- 外岡潤
- 1980年札幌生まれ。99年東京大学文科Ⅰ類入学、2005年に司法試験合格。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)後、ブレークモア法律事務所、城山総合法律事務所を経て、09年4月法律事務所おかげさまを設立。09年8月ホームヘルパー2級取得。09年10月視覚障害者移動介護従業者(視覚ガイドヘルパー)取得。セミナー・講演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することを得意とし、特に独自の経験と論理に基づいた介護トラブルの回避に関するセミナーには定評がある。主な著書は『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)、『介護トラブル対処法~外岡流3つの掟~』(メディカ出版)、『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(レクシスネクシス・ジャパン)など。「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」も、運営中。
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