白木裕子の「実践! 仕事力の磨き方」 VOL.43
新たに示されたケアマネの業務範囲。その線引きが現場に及ぼす影響は(後編)
日本ケアマネジメント学会副理事長の白木裕子先生が、介護保険制度や社会情勢に対応するためのポイントや心構えを、わかりやすく伝授する「実践! 仕事力の磨き方」。今回は、厚生労働省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」で新たに示されたケアマネジャーの業務範囲が、ケアマネジャーの働き方や居宅介護支援事業所の運営にどのような影響をもたらすのか、そして、現場のケアマネジャーが改めて心がけるべきことは何かについて、白木先生がアドバイスします。
「ケアマネの業務範囲は地域の問題」という意識を
「保険外サービスとして対応し得る業務」や「他機関につなぐべき業務」が、ケアマネジャーの仕事として常態化しかねない場合は、本来、誰が担当すべき業務かを、自治体や地域包括支援センターの関係者も交えて打ち合わせをすべきでしょう。
この打ち合わせを自治体や地域包括支援センターに打診すると「それは契約上、民間同士の話だから、民間で解決してほしい」と言われることもあるかもしれません。だが、この認識は明らかに間違っています。もし、あなたの地域の役所職員や地域包括支援センターの職員からこのように言われたら「これは地域の問題ですので、地域包括支援センターや介護保険課の職員の方も、相談に出席していただきたいです」と、しっかり伝えてください。
業務によっては、打ち合わせをするまでもなく、ケアマネジャーが担当すべきではないものもあります。
まず挙げられるのは、ご利用者の入院の同意書へのサインです。急病で倒れたご利用者をケアマネジャーが発見した場合、救急車に同乗するのは、突発対応といえるでしょう。でも、入院の同意書にサインをするのはケアマネジャーの業務範囲を完全に逸脱しています。実際、この業務については厚労省の分類でも「対応困難な業務現在」と位置付けられました。
また、マイナンバーの申請をケアマネジャーが支援するよう通達している自治体もありますが、マイナンバーは、個人情報の最たるものです。本来、やるべき仕事とは思えません。預貯金の引き出しなども同様です。個人の情報や財産に直結する支援は、ケアマネジャーが単独で取り組むべきではないのです。
悩ましいのは、やむを得ず、ご利用者の自宅の鍵を預かってしまっているケースです。そうした場合は、預かっている鍵の番号などを事業所や地域包括支援センターと共有するなどして、鍵を預かっているという責任を1人で背負いこまない工夫が不可欠です。
ケアマネこそ意識すべき、「業務外でも対応」が招く影響
最後に、誰よりも、業務範囲を強く意識していただきたい職種に触れておきます。ほかでもない、ケアマネジャー自身です。中には、「業務外であっても、できる限り対応してあげることこそがご利用者のため」と考え、行動してしまう人がいると思います。
もし、実際にご利用者のために、業務範囲などを考えず、できる限りの取り組みをなさっている方がいるなら、ぜひ、想像してみてほしいのです。あなたの後任の人が「前の人は買い物も、ペットの世話もしてくれたのに。同じケアマネでしょ?サービスしてよ」と後任の人が言われてしまうことを。
良かれと思ってやったことが、後に続く人には大きな迷惑になることもあるのです。そのことをしっかり意識する上では、国の検討会が業務範囲を提示したことは、良いきっかけといえるかもしれません。
- 白木 裕子 氏のご紹介
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株式会社フジケア社長。介護保険開始当初からケアマネジャーとして活躍。2006年、株式会社フジケアに副社長兼事業部長として入社し、実質的な責任者として居宅サービスから有料老人ホームの運営まで様々な高齢者介護事業を手がけてきた。また、北九州市近隣のケアマネジャーの連絡会「ケアマネット21」会長や一般社団法人日本ケアマネジメント学会副理事長として、後進のケアマネジャー育成にも注力している。著書に『ケアマネジャー実践マニュアル(ケアマネジャー@ワーク)』など。
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