vol.9 富山市【前編】
地域特有の食の課題、間口は広く、粘り強く取り組む
第9回は富山市の取り組みを紹介します。立山連峰の伏流水が育む農作物や富山湾の海の幸に恵まれたこの街は、古くからの「地域の味」を数多く残す土地でもあります。そして、その「地域の味」が高齢者の健康に思わぬ影響を及ぼしているともいいます。市では、介護を必要としない人も対象とする、間口の広い自立支援事業などを通し、健康な食への意識を根付かせるよう、粘り強く取り組み続けています。今回は、市の長寿福祉課と富山市保健所の方にお話しをお伺いしました。前編・後編の全2回でご紹介します。
地域特有の食の課題、間口は広く、粘り強く取り組む
課題は「塩分摂取量の多さ」 背景にあるのは…
富山における食の課題の一つは、塩分摂取量の多さです。
県が2016年に行った「県民健康栄養調査」によると、住民の1日当たりの食塩摂取量は、男性が11.0グラム、女性が9.1グラム。いずれも国の目標(男性8グラム未満、女性7グラム未満)を上回っています。
その背景として考えられるのが、魚のみそ漬けや昆布締めなど、ちょっと味が濃く、塩味も効いた「地域の味」の消費が多いことです。事実、2018年の総務省の家計調査報告によれば、富山市民は「ブリ」「エビ」「さしみ盛り合わせ」「魚介の漬物(みそ漬け、昆布締めなど)」「もち」「昆布」などを、全国で一番多く購入していました。特に「ぶり」は47年連続で全国1位をキープ。「昆布」については、都市別データが確認できる昭和35年以降、58回も全国1位になっています(2人以上の世帯の1世帯あたりの年間の食料の支出金額を比較)。
この市民の食の好みが、塩分摂取量に影響していることが考えられます。
なお、塩分が多い食事を続けると、胃がんになりやすいともいわれますが、がんのうち、胃がんで亡くなる県民の割合は、全国の平均に比べても高い傾向があります。
胃がん死亡率の推移(富山県の生活習慣病 その推移と現状 平成30年6月より)
昭和から続く「富山市食生活改善推進連絡協議会」
こうした状況を踏まえ、市では、高齢者一人ひとりの状況に応じた食の支援を実現するための取り組みを長年継続しています。
まず、高齢者のための取り組みの拠点として、市内に32カ所の地域包括支援センターを設置しています。
さらに、1976年から継続している「富山市食生活改善推進連絡協議会」があります。この取り組みでは、「食生活改善推進員」(以下、推進員)が、地域の健康づくりの担い手や高齢者への食育アドバイザーとして活動します。
食に関する講演や教室、1年で400回あまり実施
各推進員は、高齢者を対象に「生活習慣病予防食」についての研修会を開いたり、介護予防のための食事についてセミナーを企画したりしています。また、市内では、異なる世代が同じ家の中で生活する世帯も多いことから、高齢者から子供までを対象とした「三世代ふれあいクッキング」という食育活動も積極的に実施しています。
2018年度には、こうした講演や料理教室などを、市全体で約400回実施。1万3000人を超える参加がありました。
富山市保健所は、この取り組みの事務局を担っています。さらに事務局としての業務に加えて、1食当たり食塩相当量3グラム未満になるような献立を考案し、推進員を通じて地域に伝える取り組みも進めています。
推進員は2019年4月末現在、577人。市内のほぼ全域(78地区)で活動中です。ボランティア活動ということもあってか、その多くは60歳代の方です。
こうした取り組みに加え、一人ひとりの高齢者により密着し、その食生活を支えるための取り組みとして、「食の自立支援事業」も実施しています。そして、この取り組みには、ケアマネジャーも深く関わっています。
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堀友彰氏(後列左)
富山市福祉保健部 長寿福祉課
課長代理 企画係長
佐野文恵氏(前列左)
富山市福祉保健部 長寿福祉課
副主幹 地域ケア推進係長
樋口真弓氏(後列中)
富山市福祉保健部 長寿福祉課
長寿福祉係 係長
亀谷京香氏(後列右)
富山市福祉保健部 長寿福祉課
長寿福祉係 主事
谷川智子氏(前列中)
富山市保健所 地域健康課
主幹・健康係長
鈴木和香子氏(前列右)
富山市保健所 地域健康課
健康係 主査
