知っておきたい高齢者の食事講座

vol.7 認知症の人の口腔ケアは「急がば回れ」

第7回は、「嚥下」を自らのサブスペシャリティと位置付け、研究や臨床での活動に取り組む国立国際医療研究センターリハビリテーション科の藤谷順子先生に、お話を伺いました。

過去のインタビューで藤谷先生は、「食べる量が減った」「咳き込みやすくなった」など、誤嚥性肺炎につながりかねない“不調のサイン”を紹介して下さりました。本来、病院で行う嚥下機能の回復訓練は、退院した後のケアこそが大切といったことなども具体的に提示して頂きました。

そんな藤谷先生に対し、ケアマネジャーの皆さまからは次のような質問が寄せられました。今回は、この質問に藤谷先生がお答えします!

Q1:認知症の人にうがいなどを勧めるためのコツは?

■「うがい薬入り」がはっきりと分かる色の水を、コップのふちまで

この状態であれば、コップのふちに口を付けるだけで飲むことができる

確かに、認知症の人の中には、うがい用の水を差しだすと、うがいをせずに飲み込んでしまう人もいます。

即効性のある対応としては、薬が入っていることがはっきりわかる色をした水を渡すこと。そして、「これはうがい用の薬が入った水ですよ」ということを繰り返し伝えることです。

もう一つ、認知症の人が上手にうがいをし、誤嚥しないための工夫としては、「たっぷり水を注いだ小さめのコップ」で、うがいをしてもらうようにして下さい。ぎりぎりまで水が入っている小さなコップであれば、首を傾けることなく水を口に含むことができます。

■「雰囲気作り」と「ケアへの納得」が大切

認知症の人の口腔ケアについては、うがい以外でも苦労することが多いと思います。ケアをスムーズに行うには、「いい雰囲気を作る」こと。そして、「取り組みの内容を繰り返し伝え、納得してケアを受けてもらう」ことが重要です。

例えば、「失礼します」と入室し、すぐに本人に近づくのは、ちょっと性急です。部屋に入ったら、目を合せてほほ笑み、「○○さん、今日の担当の●●です。歯磨きのお手伝いにきました」と静かに呼び掛けて下さい。

口腔ケアをするにしても、すぐ口の中を触るのはお勧めできません。誰でもいきなり口に手をつっこまれればいい気分はしないものです。まして自分が置かれた状況を合理的に判断することが難しい認知症の人なら、不愉快に思うだけでなく、混乱して激しく拒絶するかもしれません。

例えば、おしぼりで手やお顔をふくなどして「ああ、キレイになられました~」と、協力への感謝を込めたポジティブな声掛けをしてはどうでしょうか。それによって、あなたが悪い人ではなく、気持ち良いことをしてくれる人だということを認識してもらい、安心してもらうのです。その上で「今度はお口を磨きましょう」と説明し、口の中を触れば、よりスムーズにケアできるはずです。

とにもかくにも「急がば回れ」。この気持ちを忘れずにケアに取り組んでください。

Q2:「パタカラ体操」以外の嚥下に関する体操 とそのコツは?

■安定した音程で歌詞が途切れにくい歌も対象に

「パタカラ体操」とは、「パ」「タ」「カ」「ラ」と発音することで、食べ物をのどに送り込む筋肉を動かす体操です。「パタカラ体操」以外の方法を紹介する前に、この体操を基礎とした簡単な応用を紹介しておきます。

例えば、「パッパッパッ」、「パッパッパッパッパッパッパッ」など、一音を連続させる方法があります。あるいは「パピプペポ、ピプペポパ、プペポパピ、…」とずらして続けてみるのもよいでしょう。タ行、カ行、ラ行でも同様の取り組みが可能です。

この体操以外で以前から使われているものとしては、「パンダの宝物」というフレーズがあります。また私は「学校給食」や「国会議事堂」を使うこともあります。「っ」という促音の発音は、かなりの力が必要ですから、いいトレーニングになるのです。

歌もいいですね。具体的には「ひなまつり」のように、音程が安定し、歌詞が途切れにくい曲がお勧めです。

ただし、高齢者だからといって民謡や童謡が好きだと考えるのは、もう時代遅れかもしれません。今の70歳代は、「神田川」のようなフォークソングはもちろん、サザンオールスターズやユーミンや井上陽水を日常的に聞いていた人たちです。「楽しみながら訓練を」と考えるなら、対象者の好みに合わせて曲を選びましょう。

Q3:高齢者が嚥下機能を保つためのコツは?
また、在宅やデイサービスでできる嚥下訓練を教えてほしい。

■その人が徹底して続けられる「何か」を見つけること

個人への指導の基本は、「三食、できるだけ多彩に食べ続ける。そして、歯磨きを続ける」です。ただ、中には「特別な訓練っぽい何か」に取り組みたいという方もいます。そういう人の場合、どんなことなら続けられるのか、それぞれの人の特性や環境に合わせて探って下さい。

具体例として、「必ずうがいは7回行う」ことを提案する場合を考えてみましょう。例えば次のような説明が考えられます。

「朝と夕方、歯磨きや洗顔のタイミングで『ブクブクブクブクブクブクブク』と、しっかり行い、プっと力強く吐き出して下さい。うがいを7回行うのは実は結構よい訓練になります」

この説明だけで続けられる人はそれで結構。でも、「特別な訓練っぽい何か」をしたいと思う人は、「うがいなんて…」と、納得しないかもしれません。

そういう人にうがいを勧める場合は、まずは一緒にやってみせる必要があります。その後、うがいで必要とされる「頬の筋肉を動かす」「口唇の閉鎖」「鼻に水が回らないようにする」「息を止める」「強く口をとがらせて強い息で水を吐き出す」などの行為の効果を説明しましょう。その上で、「実際にやったら結構、口の筋肉が疲れませんか?いいトレーニングになっているのです」と伝えれば、納得して取り組んでくれるでしょう。

また7回という回数について根拠を聞かれたら、私は、「学校の理科の授業で、試験管を洗う時には7回はゆすぐと習いませんでしたか? 7回のうがいもそれと同じ理屈です」と説明しています。ここでは試験管を洗う回数を持ち出していますが、これはあくまでたとえ話。要は、7回うがいすることを納得してもらえばよいのです。

一緒にやってみること同じように大切なことは、次に会った時に、続けているかどうかを確認すること。そして続けていたら褒めることです。

中には「継続できていない」という人もいるでしょうが、そこで責めてはいけません。他の訓練を具体的に紹介した本などを見せながら、新しい取り組みを提案してみてはどうでしょうか。その際、どのタイミングなら継続できそうかも相談しましょう。

ちなみに嚥下訓練を紹介した本は、訓練を勧める上でとても有効な“小道具”です。デイサービスなどでも何冊か購入しておき、利用者に訓練を選んでもらうための「メニュー表」として活用すると便利です。

藤谷 順子 先生

藤谷 順子 先生

国立国際医療研究センターリハビリテーション科医長。医学博士。
1987年、筑波大学医学専門学群卒業。東京医科歯科大学神経内科、東京大学医学部附属病院リハビリテーション、国立療養所東京病院、埼玉医科大学リハビリテーション科、東京都リハビリテーション病院を経て現職。

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