知っておきたい高齢者の食事講座

vol.3 在宅歯科診療に取り組む歯科医が、ケアマネに伝えたいこととは?

第3回は、歯科の視点から、高齢者の「食べる」について解説します。
お話をうかがったのは、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックの菊谷 武先生。外来診療以外にも、1日5軒ほどの在宅高齢者の自宅をまわる、在宅歯科診療のスペシャリストです。
後回しにしがちな口の中のことについて、これを機にもう一度考え直してみましょう。

本人の能力を引き出せば、口から食べられるようになる

在宅は、絶対的なニーズがあるにもかかわらず、多くの医師、歯科医師はなかなか踏み込もうとしません。それは、報酬に結びつきにくいということもありますが、在宅は病院とは違う、独特の難しさもあるためです。たとえば誤嚥を起こす人には、病院では食べさせなければよいのですが、自宅に戻ると家族はできるだけ食べさせてあげたいと思います。また、本人が「食べて死ぬなら本望だ」と言うこともあります。在宅診療は、そのような思いを後押しするのか、あるいは何とか説得するのか、その“落とし所”を探る作業でもあるのです。
さらに在宅には、本人を支える介護スタッフのメンバーも実力も違うため、チームごとに進め方を調整しなければならないという手間もあります。

そういうわけで、国は在宅へのシフトを推し進めていますが、まだまだ手がつけられていないのが実情です。こと、「食べること」については、肺炎や窒息のリスクもあるため、慎重にならざるを得ないのかもしれません。

しかし、在宅はとてもやりがいのある領域です。実際、われわれが在宅に入ると、多くの方は食べられるようになります。それは裏を返せば、介護サービスを提供する様々な職種の人たち、あるいは家族が、本人の能力に気づいていないことになります。つまり、本人にあった食形態や姿勢をきちんと調整し、まわりの人たちもそれを理解して実践できるようになれば、本人の機能は改善しなくとも、食べられるようになるということなのです。在宅は、手を入れる余地が極めて大きい領域といえます。

「とろみ」に対する理解をもっと深めてほしい

在宅高齢者は、かかっている病気も、もともとの嚥下レベルも人によって異なりますが、われわれが診ている方々は、基本的にとろみが必要な人ばかりです。
ところが、在宅診療を行っていて感じるのは、とろみに対する理解がまったく足りていないということです。飲み込む力は一人ひとり異なるため、当然、必要なとろみの程度も一人ひとり異なります。人によっては、決められた程度のとろみでなければ必ず誤嚥を起こす“的が狭い”人もいます。それなのに、われわれが訪問すると、ほとんどのお宅ではまともなとろみがつけられていないのです。ましてや夫婦2人の老老介護のお宅では、介護する側も目が見えなかったり、手元がおぼつかなかったりします。そのような状態では、安定したとろみをつくれるはずがありません。
ですから介護サービスを提供する側は「とろみをつけましょう」と言うだけでなく、ぜひ必要なとろみの程度を知り、つくり方までサポートできるようになってほしいと思います。

ただしその際に注意すべきことがあります。それは、メーカー各社が販売するとろみ剤に、統一された規格がないため、スティック1本あたりの内容量やとろみの力価が異なるということです。そこへ、さらに水分量に応じていちいちとろみ剤の量を調節しようとすると煩雑になります。
そこで私が勧めているのが、水分量にあわせてとろみ剤を増減するのではなく、スティックを単位として水分量を調節することです。たとえば「水100ccあたりスティック3/4本」とするのではなく、「スティック1本あたり水130cc」あるいは「スティック3本でペットボトル1本分」と考えるのです。そうすることで、いつも同じ強度の安定したとろみが確保できるのです。

菊谷 武 先生

菊谷 武 先生

日本歯科大学大学院生命歯学研究科教授。日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長。歯学博士。
1988年、日本歯科大学歯学部卒業。
東京医科大学兼任教授。岡山大学など5つの大学で非常勤講師も務める。
平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「地域包括ケアにおける摂食嚥下および栄養支援のための評価ツールの開発とその有用性に関する検討」主任研究者

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